好きじゃない、なんて言っても
小ネタ。ライオスとメディア。
「別に、好きじゃないですけれど?」
「嘘は駄目よ。」
「嘘などついておりませんが。」
「見え見えの嘘をつくのは、貴方らしくないわね。」
コロコロと笑うメディアを前にして、ライオスは溜め息をついた。喰えない主君。その笑顔の奥で、いったい何を企んでいるのやら。切れ者の王太子テセウスよりも。純朴な王子オリオンよりも。笑顔の王女メディアが厄介なのだ。
何が厄介なのか、ライオスにもよく解らない。しいて言うならば、考え全てを読まれるところだろうか。おそらく、彼等は似ているのだ。その内面が、ひどく。共に、育っただけでなく。同じような立場にいるからこそ。
「隠しても無駄よ、ライオス。イロスの事、大好きでしょう?」
「……だから、そういう表現はやめませんか?」
「アラ、どうして?私は胸を張って言えるわよ。テセも、オリオンも、大好きだと。」
「そういう性格ではないので、遠慮します。」
「怖いからか?」
「…………………………我が君。」
がらりと口調がかわる。外見だけは王女のままで、中身が王子へと変貌する。この見事な切り替わりは、ライオスには馴染み深い。おそらくは、イロスの前ではやらないだろう変身ぶり。それだけ気を許していると言えば、いくらか聞こえが良いかもしれないが。
好きじゃない、と言い続ける。それが照れ隠し以外の何であるのかと、メディファルトという名の王子は笑って言う。そんなモノではないと意地を張ってみても、無駄か。同じような性質を、内側に秘めた相手だからこそ。
「…………好きじゃないです。ああいう堅物は。」
「嘘ばかり言うな、お前は。誰より好きなくせに。」
「からかって遊ぶ暇があったら、刺繍の一つも仕上げて下さい。」
「俺のすることじゃないと思うんだがな。」
「それに関してはいたく同情いたしますが、貴方は一応王女殿下ですから。」
「本当に一応だな。」
皮肉と紙一重の言葉。他人が聞いたら、とげとげしいと想うだろうか。これが、この主君の普通なのだ。誰も知らないかもしれない、本当の姿の一欠片。幼い頃から見続けてきたライオスだからこそ、それが解る。
不器用な、主君だ。同時に、不器用な部下。何とも似た者同士な主従であるといえるだろう。彼等の兄二人が、よく似た生真面目堅物であるように。それを見てやきもきするところが、良く似ている。
好きじゃない。そんな偽りが通用する相手ではない。けれど、その言葉は何処かで真実をついているのかもしれない。ただの好きより、大好きの方が上なように。ライオス自身にも、メディファルト自身にも、よく解らないが。
「一度好きだと言ってみたらどうだ?感動してくれるはずだぞ?」
「最愛の兄上に今更そのような事を言う必要はありませんよ。」
「ほう、それは灼けるな。」
「我が君。」
「解った解った。そう怖い顔をするな。」
楽しそうに笑う。その笑みが、あるならばまだ。抱え込みすぎた痛みは表に出ない。出てこないうちはまだいいか、想う。たとえ自分が玩具にされても。
大切なモノが多すぎて困る。兄も、妹達も、弟も。主であるこの存在も。王太子も。王家の末子も。大切である事が明確すぎる、人々。
或いは、それは幸福かもしれない。護るモノがある内は、ヒトは強くなれる。たとえそれが、端から見て滑稽でも。強くなれるならば、それで。
何気なく交わした言葉の内に潜む本音は、まだ眠っている。




