この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか
小ネタ。ライオスとイロス。
笑顔一つで、騙すなんて。笑顔一つで、誤魔化すなんて。難しいこと、この上ない。
「ライオス。」
「はい?」
「何かあったのか?」
「いいえ。どうしてですか、兄上?」
「いや、何か思い詰めたような顔をしていたような気が、したからな。」
「気の所為ですよ。」
にこやかに、笑ってみせる。この笑顔に、騙されてくれ。この笑顔に、はぐらかされてくれ。どうか、気づかないで。
少しだけ、訝しげな顔をして。けれど、すぐに笑顔になって、去っていく。その姿が、俺には痛い。騙していると、解っているからこそ。
兄貴。ただ一人だけの、兄。唯一俺が兄と呼べるヒト。幼い頃から信じ続けた、唯一のヒト。
本当のことは、何一つ言えない。子供では、無いから。俺も、兄貴も。もう子供のままではないのだから。迂闊なことなど、言えるわけがないだろう?
だから、笑顔で。例えそれが仮面の代わりに張り付いたとしても。どれだけ訝しがられても。俺は、笑顔でいることをやめられない。
いつまで、持つだろうか。この笑顔が。俺の本心を隠し通すのが。気づかれてはいけないのだ。他の誰よりも、兄貴にだけは。
大切だから。必要だから。愛しいから。掛け替えのないヒトだから。喪えないヒトだから。
だからこそ、はぐらかし続けている。
「あぁ、そういえば。」
「…………兄上?」
「明日あたり、遠乗りでもしないか?休暇を押しつけられたんだが。」
「……良いですね、それ。俺も休暇を頂いたところです。」
「なら、決まりだな。」
穏やかな、微笑み。どうか、気づかないで。その笑顔を、曇らせないでくれ。ずっと、そのままでいて欲しい。
いつまで、保つだろうか。はぐらかし続ける、この笑顔は。




