嫌い、だけど好き 嫌いだから、好き
小ネタ。ライオスとテセウス。
「面白い取り合わせになったな。」
「図ってませんか、テセウス様?」
「そんなことをして何になる?」
「…………まぁ、そうですね。」
ライオスとテセウスの目の前で、剣をあわせる二人の人間がいる。方や、ライオスと同じ純金の髪と、異なる藍色の双眸を持つ青年。方や、テセウスとまったく同じ、黄金の髪と翡翠の双眸を持つ少女。ライオスの兄イロスと、テセウスの妹メディア。ひょんな事から、二人が手合わせすることになったのだ。
ぼんやりとそれを眺めながら、ライオスは思う。イロスの剣のキレが、鈍い。おそらくは、無意識の産物。意識せずとも、セーブしてしまうのだろう。堅物で生真面目な、彼だからこそ。
甘い、とライオスは思う。メディアの剣の腕前を知ってなお、そうなってしまう兄を。本気でかからねば、負ける可能性しかない相手だというのに。メディアの実力は、テセウスに引けを取らないのだから。
例えば、その甘さが。ライオスには腹が立つ。内側に取り込んだ者への、絶対的な甘さ。もしもそれを利用されたらどうすると、聞きたくなるほどに。
「…………あぁいう所、嫌いだなぁ……。」
「どの辺りがだ?」
「我が君相手に無意識で手加減してしまう所がです。」
「……あぁ、そうだな。いらぬ世話だというのに。」
「まったくですね。」
そうぼやくライオスを見て、テセウスは笑う。違うだろうと囁かれて、首を傾げた。目の前には、絶世の美貌。けれど、何処かヒトを喰ったような、微笑み。
何で、4歳も年下の相手にそんな笑みを向けられるのか。さりげなく、不機嫌になりそうだった。だがしかし、腐っても主君。解っているので、無礼にならない程度に目を逸らす。
「甘さも含めて好きだが、その甘さが身を滅ぼすのが、嫌いなのだろう?」
「………………どういう意味でしょうか?」
「お前も、私と同じでバカだという意味だ。」
「…………テセウス様。」
「バカだろう?嫌いだという部分さえ、好きなのだから。」
「………………。」
あっさりと言われて、ライオスは黙った。まったく、反論できない。解っているのだが、だからこそ腹が立つ。テセウスの言っていることは、図星だ。
嫌いだといいながら。その部分すら、好きだと思う。不器用な所も、甘い所も。全て含めて、兄を好きだと。
そういう兄だからこそ、ついて行くと。言葉にせずとも、しれてしまうのだ。幼い頃から、傍らにいたのだから。多分、イロスは気づいていないだろうが。
「………………まぁ、良いんですよ。兄弟なんて、そんなモノです。」
「ま、そうだろうな。」
あっさりと答えるテセウスを見て、ライオスは笑う。やはり、喰えないと。一筋縄でいかない王太子だと、思いながら。
嫌いな部分さえ、好きのカタチに取り込まれるほど、大切。




