手を伸ばせば、すぐにあなたに届く距離で
小ネタ。アイトラ視点でイロスとライオス。
ふと、距離を感じる。私と、兄上達との間の距離。どうしても、届かないの。手を伸ばせば、すぐに届く距離なのに。何故か、ひどく遠くて。
物心ついた時から、思っていたわ。兄上達は、遠い存在。女と男であるから?二人が、双子の主君に使えているから?私が、あくまで妹でしかないから?
いいえ、違う。そんな簡単な理由じゃない。届かない理由は、そんなモノではないの。どうしても、遠い。何処までも、遠い。
近いはずなのに、遠くて。泣きたくなるほど、切ない時もある。それなのに、そういう時に限って。そう、決まって、二人は。
「どうかしたか、アイトラ?」
「顔色が悪いが、大丈夫か?」
「…………ええ、何でもないわ、兄上達。」
微笑みを返せば、微笑みが返る。甘くて、優しい二人の兄。同じ純金の髪に、紺と青の双眸。異なる印象を与える、二人の兄。二人並んでこそ、当然と思える二人の兄。
だから、解らないの。兄上達には、一生伝わらない。何処かで私が抱く、この劣等感は。寂しいと、思っているなんて。
優しくて、甘い兄上達。どちらも、とても大切。どちらかなど、選べない。兄上達にも、選んで欲しいとは思わない。けれど、時折思うの。
手を伸ばせば届くはずの距離は、きっと一生埋まらないと。
私では、駄目。他の誰でも、駄目。間に入れない、何かがあるの。唯一絶対の、何かが。
「ところでアイトラ、お茶の時間には戻ってこれるのか?」
「兄貴、また巻き込むつもりか?アイトラだって忙しいんだぞ?」
「巻き込むとは失礼な。王太子殿下がお呼びになっておられるだけだ。」
「全員を?」
「当然だ。」
調子よくかわされる、兄上二人の会話。聞くのは、とても好きだった。少し離れた所で、聞くのは。もう、昔から見てきた光景だから。
「で、どうだ?」
「返事は早めにしておかないと、勝手に進められるぞ?」
「……ライオス。」
「本当の事じゃないか。」
「いけますわ、兄上。大丈夫です。」
「そうか、それは良かった。」
イロス兄上の微笑み。ライオス兄上の苦笑。どちらが欠けても、きっと私は寂しい。けれど、こうしてみていても、少し寂しい。
手を伸ばせば届く距離。でもそれは、一生縮まらない距離。




