たくさんの好きと、たくさんの愛を、君に
小ネタ。イロス。
5歳年下の末弟は、何処かで他人を拒絶している。持って生まれた、読心能力の所為だろうか。欲しくなかったと、泣いて縋る姿を思い出す。アレはまだ、10歳にも満たない頃のことだったか。
聞きたくなどなかったと。知りたくなどなかったと。ケイロンが見抜いたからこそ、その男は殺された。王家への反逆を企てた罪を問われて。自分の能力が、誰かを殺した。その事実に、ケイロンは押しつぶされそうになった。
それだけならば、まだ。能力を封じるなどの方法で、どうにかできたかもしれない。創造神の神託を受ける導き者でなければ。誰よりも強く、創造神の声を聞く者。故に、その声が世界を揺るがせる。その言葉の一つ一つが、何かを壊すこともある。
そんな、自分を疎んでいる。私は知っている。ケイロンは、ただ優しくて甘いだけの子供だと。それなのに、その能力故に、己を疎む。お前に罪はないのだと言っても、聞かない。自分は罪深いのだと、責め続ける。
だから、私は願う。こうして、私達がケイロンを愛していることを。いつか、あの子が気づいてくれるようにと。いつか、自分が愛されていると言うことに、気づいて欲しい。
兄弟だけではない。ケイロンの親友である、我等の主君である方々も。ケイロンと共に学んだ、同じ師に師事した者達も。王宮で擦れ違う、下働きの者達も。共に戦場を駆けた、兵士達も。
誰もが、ケイロンを好いている。
あの、不器用な子供に。どうか、この想いが届いて欲しい。お前がいて嬉しいのだという、この思いが。お前が必要なのだという、この思いが。
自分を、否定しないで欲しい。お前という存在は、大切なのだ。私達にとって、必要なのだから。大切な、弟。掛け替えのない、兄弟。
だから、多くの愛しさと優しさを、お前に与えよう。




