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地上の楽園番外編  作者: 港瀬つかさ


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22/36

ねえ。その痛みはやっぱり、くるしいですか?

小ネタ。ライオスとメディア(メディファルト)。


 王太子テセウスの生存が、ほぼ絶望的となった。その、事実に打ちのめされたのは、身内だろう。民には、まだ知らされてはいない。だからこそ、民の前では平然としていた。

 けれど、今。自室に戻ってなお、虚勢を張ることはできなかった。そんな、姿がある。寝台の上に倒れて、呆然と天井を見上げる姿が。乱れた着衣の裾を直すことさえせずに。ただ、ぼんやりとした瞳をしたメディアがいる。


「……姫君。」

「…………。」

「……何か、飲まれますか?」

「いらないわ…………。……いるか。」

「……そうですか。」


 声音が、がらりと変わる。泣きそうな、弱々しかった娘のそれから。何処までも怒りに震える、男のそれに。自らの意思の力で、呪法を解き放ったのか。その場にいたのは、黄金の髪と翡翠の双眸を持つ、青年だ。

 ライオスは、思わず跪いた。自分と同じ金の髪も、何処までも別物に映る。深い翡翠の双眸が、怒りに燃えて輝いている。ライオスは、知っている。王家の誰よりも、目の前の存在が苛烈だと。

 掛け替えのない、半身を。喪ってなお、自らの誇りを喪えぬのか。泣き崩れ、壊れてしまえば楽になれるだろうに。それを許せないほどに、高い矜持がそこにある。


「……ライオス。」

「何でしょうか、メディファルト様?」

「俺は、やはり許せない。」

「…………何を?」

「神託を。そして、それを降した創造神を。」

「……不敬と取られる発言ですね。」

「構うものか。」


 昂然と、顔を上げる。だからこそ、痛ましいのだとライオスは思う。端から見て、何処までも仲むつまじい兄弟だった。憧れにも似たものを抱くほどに。

 だからこそ、問いかけたい。喪った痛みは、苦しいのかと。それは、痛みなのかと。怒りの正体は、痛みなのかと。


「……無礼を承知で申し上げます。」

「…………何だ?」

「苦しいのですか?」

「…………ッ!」


 涙を滲ませた瞳で、睨み返された。当たり前だと、血を吐くように叫ぶ声が聞こえる。何処か、遠い所で。あぁ、自分はなんて惨いのだろうかと、ライオスは思う。だが、聞いておきたかった。

 その怒りの正体が、痛みなのか。それとも、苦しみなのか。喪って、何を覚えたのかと。ひょっとしたら、自分も味わったかもしれない痛みだからこそ。

 ついて行くと言い張ったイロスを、テセウスは置いていった。テセウスの生存がほぼ絶望的だと言われている今、ライオスは何処かでイロスがついて行かなかったことを喜んだ。たとえそれが不敬であっても。兄を失わずにすんだことを、彼は喜んでいた。


「……お前は、味わうな……ッ。」

「…………は?」

「このような、痛みなど……ッ!もう、誰も、味わうな……ッ。」

「…………肝に銘じておきましょう、我が君。」

「……一人に、してくれ……ッ。」

「………………承知いたしました。」


 立ち上がり、踵を返す。押し殺した泣き声が、聞こえた。けれど、ライオスは振り返らない。メディファルトという名の、青年の為に。




 唯一の半身を喪う痛みは、痛みと苦しみと怒りをもたらす。


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