誰にもいえない、こんなことは。そう、あなたにも
小ネタ。ライオス。
あぁ、言えない。言ったが最後、殺される。他の誰が笑って見逃しても、兄貴だけは許さない。絶対に、殺される。
夢見が悪かった。いつもなら、その内容を兄貴に話して、すっきりする。それで終わる。どんな悪夢でも、兄貴が笑って消してくれる。『ただの夢だろう?』の一言で。
が、今日はできない。他の誰よりも、兄貴にだけは言えない。今まで、誰よりも全てを話したヒトにさえ。むしろ、兄貴だからこそ言えないのだが。
我ながら、なんて間抜けな夢を見たのか。間抜けというか、怖い。阿呆とも言えるかもしれない。見なかったことにしたいのに、頭の中に残っている。
例えば、お約束な物語のように。目の前に、敵の囚われた二人の人間がいる。俺の場合、それはおかしな人選だった。ついこの間婚約した娘と。何故かもう一人は、兄貴。普通、そこは仕えるべき主君が来るはずだと思うのだが。
で、どちらかを取れと言われて。普通ならば迷うはずのその選択を。夢の中の俺は、迷わなかった。それはもう、いっそ清々しいまでに、あっさりと。そう、あっさりと、選んでくれた。
伸ばした手の先にいたのは、兄貴で。普通、そこで婚約者を選ぶのではないかと思うのだが。言っておくが、ちゃんと彼女のことは好きだ。愛しているかどうかは不明だが。なのに、何故か。
迷いなく選んだのは、兄貴だった。
だから、言えない。最悪の目覚めだった。困ったように笑う兄貴が、夢の産物でよかったと思う。実物だったら、俺は殺されていたはずだ。
だからこそ、兄貴には言えない。たとえそれが夢でも。たとえそれが一時の過ちだったとしても。絶対に、殺される。女性をないがしろにするとは何事か、と怒鳴られるだろう。むしろ、何故そこで私と出すのだと、叫ばれるだろう。
解っているから、言えない。言えない。忘れたいのに、忘れられない。忘れよう。アレは夢だ。ただの夢。
「何やってるんです、ライオス兄上?」
「うぉ、ケイロン?!!!」
「寝不足ですか?」
「…………あぁ、そんなトコ。」
「なら、昼寝でもしたらどうです?」
「……いや、遠慮しとく。また妙な夢見ると、嫌だし。」
「……妙な夢?」
「…………聞かないでくれ。」
半分以上泣きかけの俺を見て、ケイロンは首を傾げた。あぁ、俺だっておかしいと思うさ。全てはあの夢の所為なんだ。見たくもなかった、あの夢の。
…………こんな事、誰にも言えやしないじゃねーか………………。




