親衛隊長と王子様その6。
小ネタ。パリスとヘルメス。
何が不安かと問われれば、残す事が。自分よりも遙かに長い寿命を誇る相手を残す事だけが、不安。誰より自分を慈しんでくれた相手だからこそ、尚の事。不安が胸を、締め付ける。
ヘルメス:何をしている?
パリス:いーや、何でもない。
ヘルメス:その割に、浮かない顔だが。
パリス:…………なぁ、ヘルメス。お前、後どれくらい生きる?
ヘルメス:…………?個体寿命は平均千年程だから、普通に行けば八百年程じゃないか?
パリス:永いな。
ぽつりとパリスは呟いた。不思議そうに首を傾げるヘルメスを見て、笑う。泣き笑いにも、似ていた。
パリス:俺が死んでも、お前は生きていくんだろう?
ヘルメス:殉死して欲しいのか?
パリス:お断りだ。するなら親父にしろ。
ヘルメス:何故?
パリス:それなら俺は、お前に死に顔を見られる事はない。
ヘルメス:………………。
真っ向から切り結ばれる視線。揺らぐ事のない眼差しに、ヘルメスは息を呑む。何を言い出すのかと、掠れた声が漏れた。縁起でもない事を、目の前の第三王子は口にする。
ヘルメス:ふざけた事を言うな。
パリス:ふざけてないさ。ただ、俺の方が幼いのに、俺はお前より先に死ぬ。
ヘルメス:種族の差はそういうモノだろう?
パリス:あぁ、そういうモノだ。だけど俺は、お前をおいて死ぬのは嫌だな。
ヘルメス:……は?
パリス:お前、妙なところで弱いから。
ヘルメス:どういう意味だ。
ぴくりと眉を持ち上げてヘルメスが呻く。既に敬語などというモノを捨て去って、何年経つか。誰よりも近いところにいた第三王子を見て、彼は眉間に皺を刻む。そんな親衛隊長を見て、彼もまた笑みを口元に張り付かせた。
パリス:ま、どのみち当分先だしな。
ヘルメス:縁起でもない話題を振るな。
パリス:以後気をつけるよ。
そういって笑ったパリスの顔は、ひどく凪いでいた。




