ごめんなさいと呟いて。
小ネタ。ケイロンとライオス。
ゆっくりと、干渉を切り捨てるように、前を向いた。王都テバイの街の入り口である門をたった一人で越える。誰にも告げず、誰にも伝えず。それを裏切りだと言われても否定はできないままに、旅立つ。
今日旅立つとは、伝えてはいない。最後まで、反対するばかりであった長兄にも。最初から、快く送り出そうとしてくれた次兄にも。心配しながら、笑って応援してくれた長姉にも。全てを知っているからこそ寂しげに微笑んだ次姉にも。誰よりも近い所にいた双子にも。兄のように慕ってくれていた子供にも。
誰にも告げずに、只一人でこの街を出る。
いずれ、自分が伝えねばならないだろう多くの神託。その神託によって運命を決定づけられるだろう友。抗う術さえ知らない彼に、何ができるか。傍にいて、平然と全てを伝えることなど、できない。降り懸かる運命が、何処までも残酷であることを知っているからこそ。
ごめんなさい。振り返り、王宮に視線を向けて、小さく呟く。誰にも言えずに出てきた。何も残さずに出てきた。もう、戻ることはないだろう、あの暖かい空間。確かに愛していた、多くの人々。
「相変わらず、妙な所で薄情な弟だな。」
「・・・・っ?!」
驚いて声の方を向いた先にいたのは、笑みを浮かべる次兄。どうしてと、掠れる声で呟いた末弟を見て、彼は笑う。伸ばされた掌がぐしゃりと頭を撫で、バカだなと告げられた言葉が染みこむ。何故ここにいるのかと不思議に思う弟を、兄は笑ってみている。
「バカを言え。俺はお前の兄貴だぞ?気付かないわけがないだろう?」
「・・・・・・・他の、方々は?」
「誰もいない。俺だけだ。」
「・・・・・・・・そう、ですか。」
「・・・・・なぁ、ケイロン。約束しろ。」
「え?」
「お前が受け取る神託が、王家の方々に影響するのならば、何をおいても俺に伝えろ。」
「・・・・ライオス、兄上・・・・。」
真っ直ぐな目をした次兄。いつでも迷うことなく、自分の信念を曲げない兄。この人の強さが羨ましかったのだと、ケイロンは思う。こんな風に、只自分の信じたモノの為に突き進めれば、と。
だから、だったのか。兄の言葉に、彼は頷いた。解りましたと答えるその頭を、ライオスは又撫でる。気をつけて行けと、頭上から声がかかる。優しくて、そのくせ何処か突き放すような、独特の声で。
「後は、お願いします。」
「任されよう。」
「・・・・・・さようなら、ライオス兄上。」
「・・・・・さらばだ、ケイロン。」
振り返りもしない弟の背を見送り、兄は微笑した。強くなれと、囁きかけた言葉は風に消える。生きていけと、願うように告げた言葉は、無意識の産物だった。
少年が旅立つ日、確かに別れがそこに存在した。
・・・・・凄いな、ライオス兄上。解るんだ・・・・。
しかもあえて一人で来る辺りが、この人の性格のような・・・。
この二人は仲が良いです。かなり仲良しです。
なんて言うか、お互いに遠慮がいらないし。
一人で生きていかなければいけないケイロンも、それなりに寂しいけど。
置いていかれる人間もやっぱり、寂しいんだと思います。