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最終話


 ティタンの家へ向かうのに、バスを乗り継ぐ。

 えらく地味だが、それが一番間違いないとメノウが言うから。

 バスがとことこ路地を走り、遠目に見える「カラガラ山」へと向かう。

 山は山頂から火を噴いており、飛び散る岩石にまじって、トカゲのような生き物がーー。

「……ドラゴンが、飛んでる」

「あれ、英さん初めてですか? 名物ですよ。カラガラ山の。

 年中噴火する山にしか住めない珍しい種類なんですって。ドラゴン饅頭、買って帰りますか? 」

「要らない」



 噴火する山。

 そこにしか住めないドラゴン。

 好き好んで住んでいるティタンとは、いったいどんな生き物なのだろう。

 俺の曇った顔に気づいて、メノウがフォローを入れる。

「そんなに心配しないで。

 ティタンさんだって、話せば分かってくれますよ! 」

「わかるわけねえだろ! 」

 今から死んでくださいって。そんなの納得するやついるかよ。とことんズレてるぜ。


 バスは、俺の不満と不安を乗せたまま停車する。



 バス停から10分ほど歩くとーー。

 眼前に広がる小高い山に、表札がかかっている。ここに住んでいるという主張だろう。インターホンがあるから、俺はそれを押して反応を待つ。

『はい』

「宅急便でーす」

 俺は適当な嘘をついて、ティタンを外におびきよせようとする。

『そこ置いといてください』

「ハンコ頂かないと、帰れないんで」

『……、ちっ、ババア、さっさと行けよ! 』


 おや、なんだか。


 しばらくすると、洞窟の中から、小柄な? 女性が出てきた。

 年齢は人間でいえば40歳ぐらいに見える。女性は気弱げに笑ってみせた。

「ごめんなさい、あの子体調悪いみたいで。代わりに私が受け取ります。

 あら、荷物はどこ? 」

「こちらにティタンさんがいらっしゃるって聞いたんですけど」

「あら、そうよ。私もティタンだし、息子もね」


 このおばさんなら、殺れる。小ビンを渡せば、中でためらいもせずあけるだろう。

 俺とメノウは、最悪なんとかなるだろう。


 ……けれど。

「すいません。ぼくたち、息子のほうに、用事があったので」

「あらあら。

 あの子、最近部屋から出てこなくって。いい子なのだけれどねえ」

 俺はイラッとして。

 あんたがそんなんだからダメなんだよ、とか。

 図体もでかいくせに引きこもる、息子のほうにも意味がわからなくて。


「また来ます」

 と母親ティタンを追い返した。



「おいおい、腕力も強くて生命力もある、生き物じゃねえのかよ」

「そういう風に、聞いてたんですけどねぇ」

「なんで家に引きこもってんだよ! 」

 俺は思わず小ビンを家の中に無差別に投げ込んでやろうとさえ思う。

「毒なんかじゃダメだな。ちょくせつぶん殴りに行こう」

「効果あるとは、思えませんけど」

「いいんだよ、気分なんだから」



 と、俺たちは夜になるのを待った。




 寝静まったのを見計らって。

 俺らはティタンの部屋を探す。

「本当にこんなことして、いいのかなぁ」

「うるせえ、さっさと照らせ! 」

 俺は困り顔をしたメノウのケツを叩きながら、前へとすすむ。あ、ちなみに本当に尻を叩いたわけではない。

 身近に光源がないものだから、明かりといえばメノウの手のひらが頼りである。

「……武器を売ってくれなかったのって、みんなこの事情を知ってたからですかね」

「かもな。外出しない息子に、人の良さそうなおばさん。

 ほっといても、害はなさそうだもんな」

「ええ。私たちが知ってる話と、少し違う。

 ティタンは力が強くて凶暴で、手の付けられない暴れ者だって、聞かされたんですけどね」

 それじゃあ先生が嘘をついたことになるのか。

 そもそも、ティタンを殺したところで、いったい誰が得をーー。


 考えてるうちに、息子が住んでるらしき部屋につく。

 俺は扉にピッタリと耳をつけ、中の様子を探った。

「どうです? 誰かいます? 」

「……マウスをクリックする音。それからくぐもった笑い声」

 どうやら、ここに居るのは間違いないようだった。

 しかし、扉のノブは動かない。……中から鍵をかけてるようだった。

 おそるおそるノックをしてみると、

「うるせえぞババア! こっちは忙しいんだ! 」

 と、にべもなく突き返される。



 俺は思わずかっとなって、

「ネットやって笑ってるだけじゃねえか、忙しいわけねえだろドラ息子!」

 と言い返しそうになるが、グッとこらえる。


 どうする、とメノウに問いかけると、彼女は扉のしたのほうの隙間ーー部屋の中から光が漏れているーーところを示してみせた。

「英さん、チャンスですよ! 男は度胸です! 」

「いやいや、こっから中に入れってか? 通れないーーそうか、霊魂だから形も変えられるって? お前、また俺にむちゃさせる気だろ」

「がんばってる男の人ってかっこいい! ほれちゃう! 」

「将来ぜったい罰が当たるぞ」

「大丈夫です。私たち、同族には甘いから」

 許しがたい一族だな。


 俺はするすると、扉の隙間から中に入っていく。もっていた小瓶もギリギリーー、割れそうになったが、なんとか通ることができた。

 薄明かりの灯る室内には、カタカタとキーボードの音だけが聞こえる。画面に向かい合ってるのは、身の丈3メートルもあろうかという巨人。……。

 俺は今の境遇とか、こいつの馬鹿さ加減とか、色々な思いが募って、もっていたビンを男の見ている画面に向かって思いっきり投げつける。


 ざまあみろ!


 そんな風に、心の中で毒づきながら。






 そしてなぜか俺たちはーー。

「どうも、どうもありがとうございます」



 と、おばさんの方にお礼を言われていた。



 俺の投げたビンは息子の後頭部に命中。ビンはわれ、中から致死量の「龍宮の角」が放たれたはずだった。半径100メートルの生物を絶命させると言われる花である。

 しかしそこはさすが生命の権化であるティタン、もがき苦しみはしたものの即死には至らない。耐え切れなくなって部屋を出た。そして今は途方もない嘔吐感に襲われて、便所で、胃の中を整理しているところだ。


 そんな大騒ぎになって、誰も起きてこないはずがない。俺らはすぐさま母親に見つかってしまう。人質に取るか、闇に興じて逃げるか、俺の選択肢はそれしかなかったけれど、メノウのやつが、バカ正直に頭を下げた。「あなたの息子の命をもらいにきました」。



「最初はびっくりしたけれど」

 おばさんは、ハンカチで目元をふいている。

「あの子が部屋からでるなんて、今年初めての出来事よ。

 内気な性格は私に似たのに、体格はお父さんに似て……。

 部屋にも頑丈な鍵をかけるものだから、中に入れなくて困ってたの」

「でも、俺らは命をもらいにきたんですよ? 」

 相手に敵意がなさそうなのを見てとって、俺は内心胸をなでおろす。

「そんなの、初めに言ってくれればよかったのに。あなた一人分のエネルギーくらいなんともなかったのに」

 おい、初めから言えよ。


 俺はイラっとして、後ろをふりむくと、メノウは「ほら、私の言ったとおりだったでしょ」とドヤ顔である。

 「魂を分け与える」という好意は、人間で例えれば献血みたいなもので……そもそも千年の単位で生きてる彼らからしてみれば、人間一人のエネルギーなんて取るに足らないものらしい。

 俺はお言葉に甘えて、おばさんから「魂」の欠片をビンにいれてもらう。それは乳白色に光っていて、ビンの中で丸くなり、まるで生き物のように小さく揺れていた。



 

 意気揚々と学校に戻った俺たちだったがーー。

「なんだこれ」

 目の前に広がるのは、ヨーロッパ様式の華美な建物ではなく。

 真っ黒に塗りつぶされた外壁、外敵というよりも、外部へ逃がさないために見える。外に繋がれていた犬はいつしか頭が3つある、獰猛そうな犬とすり替えられていた。

「どうも間違ったみたいだ。

 帰ろう」

 俺が背をむけて帰ろうとすると、その肩をがっしとメノウに掴まれる。

「どこに帰るんですかどうやって帰るんですかこの現状をどうするんですか見殺し?まさかそんなそんなまさか非道いことしませんよ地獄に落としますよ」

「テンパってるのはわかったから、句読点を入れずにしゃべるのはやめてくれ怖いから」

 俺はなんとか、メノウの息を整えさせる。


 えーっとまず、現状把握。

 俺たちはティタンの魂を手に入れるためにたびにでた。戻ってきたら、悪魔城ができていた。……それ以上でも、それ以下でもない。俺は現状を理解するのを諦めた。

「めんどくさい、中につっこもうぜ」

「危ないですよ! 」

「仮にもお前の学び舎だろ? 命にかかわるものなんて、置いてないだろ」

「遅刻者の罰に、床から針が飛び出るトラップとか、

 授業中の居眠り防止に口から火が出る秘薬とか、

 かぶるだけで強制的に人格をいい子にしちゃう謎マスクとか、

 においを嗅ぐだけで幸せな気持ちになるガスとか、

 いっぱいあるんです! 」

 最後のはちょっと違わないか。

「……、それじゃあどうする? 」

「ええと……」


 頭を抱え込んだメノウの頭上から。

 


 キーンコーンカーンコーンと。


 この場にふさわしくない(ある意味ふさわしい)、間抜けな学校のチャイムの音が鳴った。

 続けて、スピーカーから、声が聞こえる。


『いえーい、英さん聞こえる?

 そうです、私です。クローズです』

 それは、いつしか出会った悪魔の名前だった。

『この学校は乗っ取りました。

 要求は1つ。英さんの持ってきたティタンの魂です』

「おのれ卑怯な! 」

 俺は思わず手に力がーー。

「とでもいうと思ったか馬鹿め。

 この学校が乗っ取られたことと、俺にどんな関係がある! お前のは悪知恵じゃない、猿知恵だ! 俺はお前の要求を飲まない! 」

『良心が痛まないのかアンタは』

 呆れたような声をだすクローズ。

『それじゃあ、こいつをみてどう思う』

 ウィーンと。

 国旗をあげる機械に吊るされて、白い布切れが空高く登っていく。目を凝らしてよく見てみれば、その布切れはメノウの先生だった。

「先生っ」

 メノウが思わずさけぶ。

「なんてことをっ」

 俺も続いてつぶやいた。あんな丈の短い服を着せられて、あんな場所に吊るされたら下着が公衆の面前に晒されてしまうではないか。アラフォーに見えるあの先生にとって、勝負下着を見られるのは死んでも恥ずかしいはずだった。まさか学校の教師が、真っ黒なセクシーな下着を履いていようとは。


『それじゃあ校長室でお待ちしてます』


 そう言い残して、それきり通信は途切れた。



 俺とメノウは先生のところに近づいていって、なんとか先生を引きずり下ろす。

 特に拘束された様子もーー争った形跡も見られない。

「抵抗しなかったんですか」

 俺の質問に、先生は首をふる。

「できるものですか、恐ろしい」

「約束どおり、ティタンの魂は持ってきましたよ。生き返らせてください」

「できないわ。だって、力を全て封印されてしまったのだもの」

 先生は、静かに身を震わせている。

「これから書く始末書の量を考えただけで、私には、もう……」


「先生、元気出してください! 」

 メノウがそれを元気づけようと、先生の前に躍り出る。

「私がやっつけて来ます!

 それで、全部私のせいにすればいいんです。いつもみたいに、愚図な生徒が魔法実験を失敗したって報告すればいいんです! 先生得意じゃないですか! 書類改ざん! 」

「……そうね、そうだったわ……。

 私、いつもあなたに助けられてばかり。

 間違えて善人を地獄送りにした時も、悪人を無罪放免で現世へ放ってしまった時も、あなたのせいにしたのだっけね」

「いいんです!

 それに先生、私が英さんみたいな犠牲者が出たときに、かばってくれるから」

 成長した出来の悪い生徒に助けられる恩師、というその絵面は美しい。ような気もするが、なぜかすっきりしないのは俺だけか。それは「改ざん」とか「間違えて」とかブラックワードが多用されるからか。


「落ち着け、俺。それが俺の信条だ。

 ええとまず何をすればいいんだっけ。そうか、電話だ。通報しなきゃ」

 俺が錯乱して、身近にあった電話(本当、電話なんて存在に今気づいたが)を手に取ると、メノウがいつしか俺を殺したナイフを構えていた。

 受話器を耳に当てるが、「つーつーつー」と聴き慣れた音は聞こえない。

「何やってるんですか、英さん。勝手なことを」

「いや、だって、その……」

「通報って聞こえちゃいました。電話するって。

 しませんよね? 電話も壊れてるみたいだし。やっぱりテロリストの仕業かなあ」

 目がマジである。

「この悪党め」

 俺は心のバランスを取るために毒づいた。

「悪さ加減で言ったら、英さんだって同じでしょう」

「悪党というのは、他人の悪を許せない性質なんだよ」

「なるほど! 勉強になります! 」

 キラキラと光る笑顔のメノウをみて。

 俺は何故だか肩が重くなるのを感じる。

「……行こうぜ、中に」




 えらくあっさり校長室についてしまった。

 俺は肩透かしの気分で、

「なんか、こう、トラップとか、敵とか、……」

「何言ってるんですか英さん! 

 遊びじゃないんですよ! 」

 メノウはふわふわと、自前の羽で羽ばたきながらいう。おそらくトラップ対策だろう。一人だけ楽しやがって。

「一番ふざけてるやつに言われたくないぜ」


 俺は校長室、と書かれた扉をあける。



 座っているのは、紫色の髪をした美男子である。口元にはするどい牙が生えており、退屈そうにこちらを見下ろしている。

 その隣に、30センチくらいの火の玉が浮いている。こいつがクローズだろう。

「来てやったぞ」

「お疲れさまです。お茶でも飲みます? 」

「いらん。要件をさっさといえ」

「せっかちだなあ。要求は変わりません。

 ティタンの魂を頂きたい」

「……その理由は? 」

「ティタンといえば、不老長寿、永遠の生命象徴。

 その魂を手に入れたものは、無限に近いエネルギーを手に入れるのです。

 我が主に捧げ、地獄の覇者となってもらうのです。具体的には虫歯が治るのです。

 何、我々はあなたのことを高く評価しています。悪いようにはしませんーーって」

 俺は持っていた小ビンを、テーブルの上に置いた。

「……迷わないんですか? 」

「別に。

 地獄がどうなろうと、知ったこっちゃないし。なくなったら、またもらいにいけばいいだけだし。欲しいんだろ? くれてやるよ」

「偽物じゃないでしょうね」

「そんな時間なかっただろ」

 俺は苦笑する。

 とはいえ、訝しがるクローズの気持ちも分からないでもない。悪党であればなおさらである。悪党にとって相手が素直に要求を聞き入れる時。それは実は一番危険な時なのである。

 内心俺はイライラしていた。こんな茶番はとっとと終わらせて、早く自分の用を終わらせなければならない。


「どうも、間違いないようですね。ヴェロンドさま、ご確認をーー」


 ヴェロンドと呼ばれた男が、右手でそのビンをつかんだとき。


 部屋がーー、否、この学校自体が揺れた。


 ドスンドスンと、響き渡る足音。俺たちは顔を見合わせ、身を固める。一人クローズだけが、「馬鹿な、結界をやぶってくるなんて」と焦っている。


 振動は遠ざかった、と思いきや。

 真上から降ってきた。


「お前ら、ババアの魂、どこやった」


 天井をつきぬけて来たのは、引きこもりのティタンの息子だった。


「返せ!

 それがなきゃあ、俺はインターネットができねえんだよ! 」



「はあ」



 かたや。

 最強の生物、だけど引きこもりはインターネットのため。

 かたや。

 地獄の主は虫歯のため。

 かたや。

 平凡な人間は生き返るため。

 に、手のひらに収まる小さな小ビンをめぐって争っているわけだ。


 それで、どう思う? 誰が一番切実だと思う?

 ドラ息子よ。お前はもうネットやめろ。外に出ろ。おふくろさんを悲しませるな。

 それから地獄の主さんよ。歯医者に行け。楽しようとするな。


 誰か助けてくれよ。天国に近い場所なのに、神も仏もあったもんじゃない。

 いつだってそうだ。割をくうのは常に弱者だ。そんな弱者が、清貧を保てる余裕など持てるわけがない。持ったはじから奪われるのだから。

 俺がそんな風にやさぐれていると。


「リフレス!!! 」


 と、メノウがさけんだ。

 部屋の外から冷たい風が吹き込みーー、その風が頭の中の感情を鎮めてくれる。

 メノウの魔法だろうか。

「みなさん、落ち着いてください。

 このビンは、このビンは、」

 ああよかった。

 女神はいたんだなあ。

 そんな風に俺は、メノウが自分の味方であることを確信していた。


「私のものです! 」

 目つきがおかしくなっている。

「これがあれば、誰にも馬鹿にされずにうひひひひh」

「おい、落ち着け! 」

「触らないでください! 」

 この場の異様な熱気に当てられ、メノウも頭がやられてしまったようだった。


 巨人と美少女と美男子と。

 大騒ぎしながら1つのビンを争う姿をみて、俺は。




 ごめんなさい。



 俺のポケットから、ビンが1つ転がり落ちた。

ラスト


 俺は久しぶりの自分の体の感覚に感動する。

 メノウは、そんな俺を嬉しそうに見ていた。

「まさか、竜宮の角がもう1つあるとは思いませんでしたよ」

「……、コレクター癖があってな。

 どうしてお前は平気だったんだ? 」

「私、強いんです。

 一度受けた毒なら、解毒機構が作られるんです」

 そういって握りこぶしをつくってみせるがーー。

 それは天使というより、害虫によく見られる特徴だとは。

 口が裂けても言えない。

「なんにせよ、無事に生き返れてよかったじゃないですか」

「結局あのあと、治安維持局がやってきて、大騒ぎだったじゃねえか」

「先生も、責任をとって退職しちゃいましたしね」

「悪いことをしすぎだ。

 それにしてもーー、どうして言ってくれなかった。

 『俺が元から生き返る予定だった』って」

「あれ、言いませんでしたっけ。

 私、プラカード持ってましたよね」

 俺は記憶の中を探り。

 確かにメノウが「臨死 / 輪廻の輪 体験コース」と書かれた看板を持っていたことを思い出す。

「……、なら俺が必死になったのは、なんだったんだ」

「ムダなんかじゃないですよ」

 メノウは笑って首をふる。

「あっちでの頑張りと『反省』が評価されて、同じ人間に生き返ることを許されたんですから」

「リアリティのある、更生コースだってことか」

「ま、そういっても差し支えないですね。

 英さんは少し、悪党よりだったから」

「……ふん」

 にしては少し、過激だった気がするけど。


「先生が居なくなったから、約束が守られなくなったな」

「約束? 」

「お前に制服を着せるっていう」

「ああ、」

 と彼女は一瞬はにかんで、

「また私に会いたいですか? 」

 と問いかけた。


「大丈夫。

 いつでも会えますよ。

 でも、すぐには会いにこないでください。

 英さん、とっても楽しかったです」



 俺が見上げた空が、蒼く晴れていく。

 白く覆われた雲がさけているその場所から。

 光が直線上に伸び、地上に降り注ぐ。

 それは、「天使の梯子」と呼ばれていた。


「それじゃあね、英さん」



 また来世、と言い残す。


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