灰色の心模様
彼女がさった後、私は玄関へ向かった。
クラス名簿を確認し、体育館の場所を確認した。幸いにも、新入生への構内案内やホームルームは明日らしく教室へ行かなくてよい。
体育館前では、黒くうねる列をカメラを回す親たちが囲んでいた。
私は4組の列を探すと、点呼が始まるまで木陰に隠れた。
あんな中にいれば、窒息死してしまう。
賑やかな人だかりを横目で見ながら、あの茶色の髪の人を探した。
周囲の音が鮮明になり、視界が徐々に定まってきた。
気がつけば、入学式は終わっていた。
と同時に、めまいとけだるさが私の意思を妨げる。
あたりの視界が歪み、吐き気をもよおした。
壁が、地面なのではないかというほど引っ張られた。
再び、目をあけると先ほどとあまり変わらぬ光景だった。
どうやら気を失ったらしい。集団の中の圧迫感、名前を呼ばれるという重圧、視線の束縛、そして、久しぶりの外に耐えきれなかったらしい。
しかし、なぜか覚えている。
リボンをもらい胸につけたのも、どこかの親がフラッシュたきまくって目がチカチカしたのも、初めて聞く校歌に戸惑いながら歌ったのも覚えている。
ただ、テレビを見たあとような実感がない状態。
――いや、何か違う――
そうだ、最大の要因はあの人だ。
私は彼女のことが、脳裏から離れなかったからだ。
……。
私は、慌てて自分のことを思い出した。手を背中に回すと、よりいっそう冷静になれた。そう、見られてはならない。こんな姿も、あの傷も、何もかも。
誰かの気を引いてはいけないのだ。
とりあえず、現時点で問題はなさそうだった。
なんと幸運だったのだろう。
私は無事、4組退場に間に合い体育館を出た。
そしてそのまま、集団からさった。
木々の影まで、たどり着くといかに激しく鼓動していたかが分かった。そして、周りに何もないことに安息を得た。
さっきまでいた所は、上級生がごった返していた。我先にと意気込む男子がなんとも滑稽に見えた。
ふと窓ガラスを見ると、もっと滑稽な人に私は驚いた。似合わない制服姿で、気の毒そうに私を見る。
それが、私だと気づいたとき自嘲気味にわらった。
何もかもが冷めた。自分全てに嫌気がさし、後悔の念が足の先まで染めた。