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いてよ、ずっとここに……  作者: 白音
第1章 十年後
2/8

始まり

 

 あれから約10年──


 あの道は相変わらず暗く、人気も前よりはという程度であった。



 あの後、そばに供えられていた花はもうなかった。


 魂が抜け落ちたかのような真っ白な花。


 路面のブレーキ痕は、新しいアスファルトで覆い隠されていた。


 もうあの事故の面影なんか塵一つ残ってなかった。



 かわりに街灯がちょこっと増え、少し先にコンビニが場違いな感じで営業している。


 時間とは悲しいものだ。皆の記憶も思いもすぐに風化させてしまう。


 ああ、悲しいものだ。あのコンビニで立ち読みしている人の誰があの事故を気にしているというのだ。


 ああ、悲しいものだ。なぜこの世は唐突に全てを奪っていくのか。


 いったい何をしたというのだ?


 どんなに最低な人間だろうと

 どんなに愛されている人だろうと


 “事故“は人を選ばない。


 事故は、加害者の人生も被害者の人生も変えてしまう。


 その家族も、友達も、みんな──


 この世は、残酷だ。


 周りは自分ではないことに安堵し、一時の話題として忘れていくのに、遺族には落ちない染みのようにこびりつく。 


 ああ…… 



私は、何故まだここにいるのだろう?



 永久鎮居えいきゅうちんきょ


 津藩主の何とかの孫の何とかという人。とにかく昔のえらい方が久居藩を作った。そのときの久居藩の「久居」というのが現在の市の名の元である。


 「永久鎮居」、つまり簡単に言うと末永く何事もなく平和にと思いを込めてつけたらしい。


 だいたいの人は市の由来などテスト後にきれいさっぱり忘れるものだ。正直、市の由来を毎日考えるほうが変であろう。


 そのうち、教科書からも消えるかもしれない。


 それでもこの市はひっそりとその願いにそってここにあり続けている。




 たとえ、この市が別の市に合併されようとも、引っ越しでどこか遠くへ行くことになっても、この市は永久に私達の心の中に存在する。


 そんな雰囲気が、田舎くささと共に風にまっていた。


 田んぼやかかしは、あの事故の時と変わっていない。いや、正確に言うならもっと前からあんな感じで存在していただろう。


 ふざけた面して顔色ひとつ変えないかかしはCDをぶら下げ、田んぼにつったっていた。


 かかしならあの事故を覚えているだろうか? 


 「いや、そんなことよりこの時期は足元が冷える、早く苗を植えてくれ」


 だったりして。




 平凡ほど不安定で難しいことはない


 時代は、変わり続けているのだから。


 それでも、あまり変わらぬこの市。素敵なことなのに周りには無気力に見えるのだろう。


 だからこそ田舎と言われるのだが。






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