13.夜襲・3 -『僕が使える。僕ならあの魔物と戦える。』
チリチリと音を立て今にも消えそうな光の輪の中で、4人が1匹のナイトウォーカーに対峙していた。
「アウラを介さない攻撃なんて…。」
キミアが消えそうな光の輪をなんとか支えながら、僕とジェットに向かって言った。
「鈍剣がある。」
キミアの言葉に僕は短く返した。
「に、鈍剣?」
「アウラを介さない異世界の技術で作られた剣だ。非常に希少な品だが、幸運にもこの村の行商人が一振り持っている。」
ジェットが淡々と軽く応えた。
「でも、アウラが無いってどうやって攻撃するでありますか。動くこともできないでありますよ?」
キミアが食い入るように質問を続けた。
なんと言えば良いんだろうか…。
僕は言葉を探して少し沈黙した。
「僕が使える。」
視界はナイトウォーカーをまっすぐに睨みながら、僕ははっきりと言った。
キミアは信じられないと言うような顔で僕を見た。
「キミアよ。隠しているつもりはないのだが…。」
ジェットは話に割って入ると、僕の方にちらりと視線を向けた。僕は黙って頷いた。
「ツカサとスズネは、異漂者なのだ。」
「異漂者って…本当に居たんでありますか…。」
キミアが目を丸くして僕とスズネを見た。スズネは黙って頷き、僕も同じように返した。
「ツカサよ。村の役場に行って、ノチェロを訪ねてもらえぬか。」
話し終えるとジェットは僕に向き直って言った。
「分かったけど、大丈夫なのか?」
「任せ給え。私のような性分は、負けない戦いのほうが得意なものだ。」
ジェットは剣を握り直しながら言葉を返した。
だが、その言葉にはいつものような自信とともに、じっとりとした不安が混じっていた。
「キミアはスズネの隣で、常にカバーしながら戦ってくれ。私が前に出る。」
「りょ、了解であります。」
「スズネは援護を。無理に矢をあてなくても、相手を威嚇できれば十分だ。」
「わかった。」
ジェットの指示にキミアがおずおずと答え、スズネは痛む足を抑えながら応答した。
ジッと音がしたと思うと、今まで支えていた光の輪がフッと消えた。
グガアアッ!!
ナイトウォーカーが待ちきれないとばかりに唸り声を上げた。
「ツカサよ。コレを。」
ジェットは首から下げたペンダントを外して僕に渡した。
「ノチェロに見せれば分かる。鈍剣を借りる質草には十分な代物だ。」
「あ、ああ。」
僕は慌てて受け取った。大きな薄緑色の宝石と精巧な銀細工で作られたペンダントは、僕が見ても十分に価値のあるものだろうと思えるものだった。
銀細工の中央には紋章のような左右対称の模様と、中心に『27』と書かれた数字が見て取れた。
「行けっツカサ!」
言いながらジェットは僕の背中を叩くと同時に、剣を握りしめてナイトウォーカーに向かって走った。
打ち出したジェットの剣先は、鈍い音を立てナイトウォーカーに傷一つつけることなく止まった。
だが剣先がぶつかると同時に、ジェットは手にしていたビー玉くらいの木の実を握るとナイトウォーカーの鼻先に向けて投げた。
パァッンと音を立てて木の実が弾け、ナイトウォーカーは衝撃で尻込みした。ジェットはトンッとナイトウォーカーの肩を蹴って2,3度切りつけながら離脱した。
「光を弾く、瞬きの白昼、暗き恐れを退く炎の反照を満たす。灯滅に輝け!クラッキング・フィラメント!」
キミアが叫ぶと杖からチカチカと小さな火花を起こし、次第に辺りが閃光に包まれナイトウォーカーの視界をくらませた。
同時にスズネの放った矢が飛び、ナイトウォーカーの背中に浅く突き刺さった。
「ぐずぐずすんなっ、私達の心配するくらいなら今すぐ走れ!」
スズネが僕に向かって声を荒げて叫んだ。
言葉に気圧されながら、僕は3人に背を向けて走りだした。
「遅れたりしたら、承知しないから。」
スズネの声が遠くで聞こえた。
村の中はシンと静まり返り、不安げな声が時折ざわついていた。
僕は脇目もふらず全速力で走り、村の役場の扉を叩いた。
「すみません。開けてください!」
僕はぜえぜえと肩で息をしながら役場の扉を叩いた。
ゴトンと大きな音がした後に、ギギギと扉が小さく開いた。
僕は役場の扉が思ったよりも分厚く作られていることに気づいた。役場には2重の扉が用意されており、いつも使用している扉とは別に普段開けっ放しにしている2つめ扉があった。
有事の際は防災シャッターのように閉められる仕組みになっているようだった。
「逃げ遅れたのか、早く入りなさい。」
扉の隙間から初老の男性が少し顔を出して言った。
「すみません。ノチェロって人を探してるんです。すぐに戻ります。」
「すぐに戻るって、あんた…。」
「外で、まだ友人が戦ってるんです。」
「わ、わかった。とりあえず中に入りなさい。」
男性が手招きするように僕を迎え入れ、役場の扉を閉めた。
静まり返った役場の中は、村の人々が避難してきたようだった。
玄関先の広い吹き抜けから、受付の奥まで村人が不安そうに身を寄せあっていた。
「そうか、キミアが外で…」
僕が事の顛末を初老の男性に話した。暗がりで気づかなかったが、白髪交じりの男性の頭からぺたんとした犬のような耳が見えた。
男性は近くに居た数人に二言三言放つと、また僕に向き合った。
「状況は分かった。すぐに呼んでこさせよう。」
「ありがとうございます。」
「だが言っておくが、君たちが無理をすることは無い。無理だと思ったらすぐに、ここまで逃げて来なさい。」
「ありがとうございます。」
言葉で礼を言いながら僕は周りを見回した。役場には不安そうに怯える子供や、老人の姿が多い。
万一があってもこんな場所まで、ナイトウォーカーを連れてくるなんてできないと心で感じていた。
「とくにキミア…。あの子は真面目な娘だ。戦うと決めたらきっと引こうとしないだろう…。魔法も不得手だというのに…。」
男性はキミアの身を案じるようにつぶやいた。
「大丈夫です。信じてください。」
僕は励ますように返答した。思わず口にした言葉は、まるで自分に言い聞かせるような力強さを同時に持っていた。
「やや、ツカサさん。話は聞きましたよ。」
暗闇の奥からほっそりとした狼の獣人が顔を覗かせた。
「ノチェロ。」
「なんせ、鈍剣を貸して欲しいとか…。」
「えっと、アウラ食いなんだ。村を襲ってる魔物が来てて、それで。」
「アウラ喰らいっすねぇ。それで鈍剣が役に立つんですかい?」
「ああ、鈍剣の攻撃ならあいつに届く。戦いでも試してある。」
「ふうむ。そんな方法が…。」
ノチェロは自分の細い顎先を毛深い手でなでながら、僕の目を見つめた。どこまで信用に足るものかと考えこんでいるようだった。
「当然ですが、安い剣じゃないんすよ?」
「わ、わかってるよ。悪いけど、話し合ってる暇は無いんだ。」
そう言って僕はジェットから手渡されたペンダントをノチェロに見せた。
「質草ってことですかい。」
受け取るとノチェロはペンダントを見ながら目を見開いた。
「これは、ジェットの旦那が…?」
「十分釣り合うだろうって聞いてる。」
「釣り合うって…あんた…」
ノチェロは開いた両目を僕に向け、あんぐりと口を開けていた。
「これを手放すってどういうことか分かってるんですかい?」
「これって…?」
「領主の紋章印じゃないですかい。貴族の身分証明みたいなもんですよ。」
「悪いけど、他に預けておけるようなものはないんだ。」
「この紋章、ピパーミント領の第27席。」
ノチェロは驚きを隠せない様子でまじまじとペンダントを見ていた。
「頼む。ジェットが託すって言ったんだ。」
僕はまっすぐにノチェロを見た。
「そりゃあ領名を隠すくらいのご身分ってわけだ…。」
「そうだったんだ。」
「知らないってのも驚きですよ。」
「わ、悪かったな。」
「ピパーミントってなあ、北方の大首領の名前ですわ。その中でもピパーミント家の領主名、貴族を名乗れる人間はたったの31席。その一角ってことじゃないですかい。」
「ただのぼっちゃんじゃないのか。」
「田舎者でも分かるように言えば、この国でも1,2を争うくらい大きな領地で上から27番目に偉いってことです。」
「う、うん…。」
規模が大きくなりすぎて、正直なところ僕の想像できる範囲を超えていた。
僕と同い年で国会議員をやってるようなものだろうか?
「言ったとおり、紋章印はジェットの旦那が貴族だって証明になるんです。それも、とんでもない大貴族。オイラがこいつを持ち逃げとかしたら、えらいことになるんすよ。」
「それは…。」
か、考えてもいなかった。
僕は一瞬だけ黙った。
「ノチェロは信頼できる。」
「そ、そりゃあ…」
僕の返した答えが思いがけないものだったらしく、ノチェロは照れくさそうにボリボリと後頭部を掻いた。
「借用書も、交渉印も無しですかい?」
「ああ。悪いけど、すぐに戻らないといけないんだ。それにきっと、ジェットも同じことをした思う。」
ノチェロは驚きを隠せないまま固まっていた。
「勝ち目はあるんですかい?返してもらうにしても、命あっての物種ですぜ。」
重々しく口を開きながら、鈍剣の短刀を僕に差し出した。
「大丈夫。」
僕は短刀を受け取って力強く応えた。
「あと、ちょっと待ってくれや。」
ノチェロは言うと、ポケットから取り出した小さな筒状の入れ物を僕の手に乗せた。
「預けておきますわ。」
「これは?」
「王都商会の金印が入ってますわ。こいつも一緒に返しに来てください。」
「いや、借りたいのは鈍剣だけなんだけど。」
「持って行ってくださいや。不誠実な取引じゃジェットの旦那に、商人として顔向けできないですわ。」
「わかったよ。預かっておく。」
預かった金印をポケットの入れ、僕は鈍剣を片手に役場を飛び出した。
走ってきた道を全速力で戻った。
暗い道の先に小さな光が灯された一画が見えてきた。
「みんなっ」
広間に戻ると同時に声を上げた。暗闇にこだまする声に返ってくる返事は無かった。
「スズネっ!ジェット…キミア…!」
息を整えながらあたりを見回す。
広場の中央だけでなく辺りの建物に無数の傷跡がついていた。
「ツカサさんっ!」
声がするほうに走った。
大きな酒場の前でキミアを見つけた。腕から血を流してぐったりと倒れているジェットを全身で支えていた。
「キミア、ジェット!」
「ジェットさんは大丈夫であります。それよりスズネさんが…。」
「スズネが?」
ガッシャァン!
広場に隣接した大きな酒場の中から魔物が暴れまわる音がした。
月夜に照らされた村に、大きな音が幾度も反響した。
「魔物を引きつけて、中で逃げまわってるであります。」
キミアの言葉を聞くと同時に、僕は酒場に走りだした。
酒場の中に入ると玄関先の広間は月明かりで青く照らされ、チリチリと緊張した空気を更に冷たく彩っていた。
ガァン!
酒場の奥から再度大きな音が聞こえた。
僕は音の方向に走る。
「ツ…カサ、遅いって…。」
奥まった部屋の中でスズネがナイトウォーカーと対峙していた。
スズネは振り下ろされた爪に、ボロボロになった弓を盾にして受けている。弓には魔法がかけられたらしい、うっすらとした光が灯っている。
スズネの腕は防具が耐え切れず傷だらけになり、うっすらと光る傷だらけの弓は今にも壊れそうだった。
勝ち誇った顔のナイトウォーカーは、ニイィィと顔を歪ませながら鋭い爪を振り上げた。
「うおああああっ」
鈍剣の短刀を抜くと声を上げて走りだした。
ドンッ
短刀を思い切りつきたて、ナイトウォーカーを横から突き刺した。以前のように硬いゼリーに刃を突き立てるような感触は微塵もなかった。
攻撃が通る。
ガグアアアアッ
突き刺した短刀は深々と刺さり、ナイトウォーカーは信じられないようなうめき声を上げた。
僕は短刀を素早く抜き去り、腕に巻いた革鞄を盾にして距離をとった。突き刺した腹から黒い霧が勢い良く吹き出す。
ナイトウォーカーは力任せに暴れ、爪を振り回す。
ガッガグアッアアアアアアアア
建物全てに響き渡るほどの咆哮に、暴れる爪が後を追った。
自分が何故刺されたのかが理解できないような暴れ方だった。傷をつけられた怒りと未知の攻撃への恐怖が、見境の無い力任せの連撃になった。
椅子、机、床、壁、あらゆるものに爪あとが刻まれる。
「店の奥に逃げて!」
僕は言うと同時に部屋の窓ガラスを体当たりで壊して裏手の庭に転がり込んだ。
肩から飛び込んだつもりが、空中で体勢を崩して背中を強く撃った。
乱れた呼吸の中で、手をついて辺りを見回すと同時に大きな衝撃が走った。
怒りのままに暴れ狂うナイトウォーカーは、窓ガラスを壁ごと破壊して後を追ってきた。
ドガアアッっと大きな音を立てて庭に転がり込んだ僕に向けて爪を当てた。
バキッ
とっさに左手の革鞄で防御したが、ナイトウォーカーは力任せに深々と爪を立てた。
鋭い爪先は革鞄を貫通し、僕の左腕まで届いた。
「うっぐがっ。」
想像以上の痛みに思わず声が出た。
刺された爪を引き離そうと、とっさに右手の短刀でナイトウォーカーの右腕を斬りつけた。
しかし引き離すどころか、ナイトウォーカーは爪を食い込ませたまま、もう片方の左腕を振り上げ僕に向けて振り下ろした。
僕はとっさに体を丸めてナイトウォーカーの内側に入り込んだ。
剣を盾にして受け直撃は避けたものの、ナイトウォーカーの左側に打ち倒された。
地面に打倒され横になって転がった。
背中を打ち付けた体に空気を送り込もうと浅い呼吸を繰り返す。
体は息を吸い込むのがやっとの状態で、背中と左腕は絶え間なく痛みの感覚だけを僕に返した。
爪の抜けた左腕からは血が流れ出し、革鞄にじわりと染み込んでいた。とっさに盾にした衝撃で、短刀にもいくつか刃こぼれができていた。
僕は体を震わせ仰向けに姿勢を変えた、口の中いっぱいに泥と乾いた唾液の味が染み込んだ。
対峙しているナイトウォーカーもボロボロになりながら、怒りに我を忘れている。
左腕が熱を持つように痛み、腕の革鞄に染みこんだ血が少しずつ滴り流れ始めた。打ち付けた背中はズキンと痛み、呼吸しようにも肺にをふくらませるたびに痛みが押し寄せた。
体中に疲労が伝わり、立ち上がることもできないまま浅く何度も呼吸を繰り返す。
怒りのままに振り回した腕を下げ、ナイトウォーカーがスンッと鼻を鳴らした。赤い目が暗闇の中でまっすぐに僕を見つめると、グルルと喉を鳴らしながら牙を見せ、僕の方を向いて大きく立ち上がった。
僕のぼやけた視界の中でも、ナイトウォーカーが僕に狙いをさだめて近づいていることが分かる。
力を込めて短刀を握り直すが、痛みと疲労は容赦なく僕の体にのしかかる。腕を上げることすらできそうにない。
じりじりと近づく巨大で不気味な足音に、手にしている短刀を手放さないことが精一杯だった。
ドカッ
壊された壁の内側から銀色の一閃が飛び、ナイトウォーカーの首に当たった。スズネの矢が右肩と首の間に刺さり、キラキラと魔法の光を帯びている。
「キミアァッ!」
スズネの声が聞こえた。
「っ…。導け、閃光の先、遠く道を示す声に反照を返せ、残響の声と明滅の部屋に白き狂気を撃つ。導く刃の先に光を弾け!ノッキング・インサニティ!」
遠くから聞こえるキミアの声の反応し、矢にうっすらと帯びた光がその輝きを増した。パチパチと音を立ててナイトウォーカーの顔の周りで何度も光が明滅した。
ガグオオオガアア
ナイトウォーカーは、見えない視界と怒りと盲目で満たされ正気をなくしているようだった。
バチバチする視界の中で、あらゆる方向に爪を向けて暴れた。爪は力まかせに振り回され、ナイトウォーカーが最後の力で暴れまわっているようだった。
「動けよ。」
僕は自分自身に言い聞かせるように言った。はーはーと息も絶え絶えに、両手両足に最後の力を込める。
泥と汗が目に入って視界もおろそなか状態だった。
「動けよおおぉぉぉ!」
自分自身を鼓舞するように声を上げた。
痛くて仕方がない体をなんとか持ち上げ、短刀を握りしめ走った。
暴れまわるナイトウォーカーが、巨大な爪を振り回す。
汗でぼやけた視界の隅でなんとか動きを捉えながら、思いきり体を前のめりにして飛びこんだ。
背中のほんの数センチ上を、グオオオッと風を切る音が通り過ぎた。
大振りの攻撃を躱されたナイトウォーカーは、ぐらりと体制を崩す。
僕は右手にあらん限りの力を込めて、短刀を右から左に思い切り振りぬいた。
ザシュッ
鋭い切り口から、黒い霧が吹き出した。
ガッグルルァァァ
ナイトウォーカーは何がなんだか分からないと言うような怒りに暴れまわった。
振り回された腕を体を丸めて躱し、再度斬りつけた。短刀のリーチを活かし、巨体の内側にしがみついて何度も刃を振り下ろした。
ザンッザンッザンッ、何度も腕の先から斬りつける音が鳴った。
巨体を斬りつけるたびに、切り口から黒い霧が吹き出す。
ナイトウォーカーは力まかせに体ごと腕を振り回し、僕を引き離した。
僕は投げ飛ばされ、背中を打ち付けて転がった。肺の中身がなくなり、ガハッと大きな声がした。
立ち上がり顔をあげると、ナイトウォーカーが4つ足で僕に向かって走りこんでくる。
「があああああああああああああああ」
声を上げて右腕を振り上げ、思い切り飛び込んだ。
視界はもうろうとして、痛みや疲れなど考えられないくらいの状態だった。
突き刺した短刀はナイトウォーカーの額に深々と突き刺さり、僕は突進の衝撃で左に打ち払われた。
ガッグァァァ…
突き刺した短刀は額に残り、ナイトウォーカーは大きなうめき声を上げながら前のめりに倒れた。
最後の力を振り絞って立ち上がり、再度倒れこんだ。
突き刺さって残った短刀の周りから、ナイトウォーカーがみるみる黒い霧に姿を変えて夜空に舞った。
サアァァァという風の音と一緒に、赤い目の魔物はみるみる消えてなくなっていった。
うつ伏せになった僕の体は、もう指一本だって動かせないくらいの疲労と痛みで一杯だった。
ナイトウォーカーが消えていく音を遠くに聞きながら、月夜は裏庭の一角を青く映し出した。顔中に泥がへばりつき、浅い呼吸には土と、草と、血の混じった唾液の匂いが充満した。
ぼやけた視界はもう目を開けることさえ出来なかった。それでも聞こえる静寂は村に平和な夜が戻ってきたことを告げていた。
「ツカサっ大丈夫?」
「ツカサさんっツカサさんっ」
遠くでスズネとキミアの声が聞こえる。
「ははっ」
僕は倒れこんだ姿のまま、小さくガッツポーズをしてみせた。
読了感謝。
バトル終了。少し足早な更新でした。




