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義弟と勇者

 薄暗い洞窟の曲がり角から現れたのは、飼い犬の桃鷹だけじゃなくて……、何故か鬼のように怒りの気配を纏わせた……顔だけは笑顔の私の義弟、あおいだった。

 私の前まで進んで来ると、両腕のを胸の前で組んで、その長身の背丈と共に銀色に縁取られたフレームの眼鏡越しに、私を冷やかに見下ろしてくる。

 ……あ、表情が本気で怒った時の顔になってしまった。不味い。

 

「な、何で……お、怒っているの、かし、ら?」


 引き攣った笑いと共に尋ねてみれば、「今……何て言った?」とばかりに、葵の左の眉が不機嫌そうに跳ね上がった。

 葵の顔は、何も喋らなければ、その眼鏡と整った綺麗な顔立ちのお蔭で、如何にもお勉強が得意で知的な青年です、と、そう言わんばかりの気配を漂わせているのだけど……。

 そうでない事は、義姉である私が一番よくわかっている。

 私の方が三つ年上で、正真正銘のお姉さん的立場のはずなのに、傍から見れば、葵の方が私より若干年上に見える大人の男性の顔付きと威厳を漂わせている。

 ……『この世界』に来る前は、そんな風に見える事はなかったはずなのに。

 葵は呆れを通り越した大げさな溜息を吐くと、私の両肩に手を添え、がっしりと力を込めた。

 

「い、痛たたたたたたた!! 痛い、痛い!! 葵~!!」


「今日の予定を再確認してみろ、この馬鹿姉!!」


「馬鹿!? 曲りなりにも目上の私に向かって、馬鹿!? いつからそんな反抗的な子に育ってしまったのよ!!」


「馬鹿を馬鹿と言って何が悪いんだよ!! 昼飯を一緒に食うって約束してたのに、平気で二時間も待たせたのはどこの誰だ!! 何かあったんじゃないかと……本気で心配したんだぞっ」


 『こちらの世界』に来て、混じり気のない黒髪から綺麗な黒銀髪へと変化してしまったそれを右手で掻き毟り、葵はぎゅっと私の身体を強く掻き抱く。

 あぁ、そう言えば……、原石探しに夢中で、葵とのお昼ご飯の約束をすっかり忘れてしまっていた。


「ご、ごめんね!? 悪気はなかったのよ? ちょ、ちょっと……作業に熱中しすぎてしまって」


「だからって、俺との約束まで忘れるか!? 二時間も待ちぼうけ喰らって、……くぅっ」


「葵?」


 もしかして、ここに来るまでの間に、何か起きたのだろうか?

 ずるりと力を失くした葵が、地面に膝を着く。


「どうしたの、葵!!」


「うぅ……」


「まさか、怪我でもしてるんじゃ……っ」


 私も地面に膝を着き、葵の肩に手を置いて顔色を窺う。

 この義弟に限って、何かがあった……とは考えにくいのだけど、万が一という事もある。 

 身体をぺたぺたと触って怪我がないか調べていると……。


 ――ぐ~……。


 何とも情けない空腹の虫が欠伸をした。

 同時に、葵が出て来た洞窟の曲がり角の方で、ぷっと笑いを噴き出すような音が……。


「もしかして、『勇者様』も来ておられます?」


 じとっと……曲がり角の方に恨みがましい視線を向けてみると、洞窟の中でも眩い金の光を纏う髪色を抱いた男性が、面白そうに私達を見つめながら歩み寄って来た。

 足首まである真白のマント、高級な仕立てだと一目でわかる金糸の刺繍で紋様が入った上下ひと揃えの動きやすそうな衣服と、腰に帯剣している豪奢な装飾の施された鞘に収められた長剣。

 浮かべている笑みは完全に面白がってはいるけれど、事情を知らない町娘さんやご令嬢の皆さんが見れば、どこからどう見ても清廉潔白な見目麗しく神々しい王子様のように称えられる事だろう。

 私は本当の性格を薄らとはわかっているから、この人に騙されたりはしませんけどね。


「義姉弟の感動的な再会を邪魔してはいけないと思ってね」


「普通に、今日の朝も顔を見て挨拶してますし、再会という程の時間も経ってませんよ?」


「アオイにしてみれば、あの店の前で待っていた時間は永遠にも等しいと思うよ?

 親愛なる義姉君が、……いつまで経っても現れなかったのだからね。しかも、忘れていたなんて、遅刻するよりも性質たちが悪いんじゃないかな?」


「それはそれは、……貴方には謝りませんけど、義弟にはちゃんと謝っておきますね」


「そうしてくれると、私もアオイの親友として安心出来るよ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 相変わらず、顔は良いのに根性の捻くれまくった腹黒い人ねぇ……っ。

 私が詳しくは知らない、『五年前の葵』を知る一人、勇者様ことレイジェスティさん。

 『こちらの世界』、つまり、『異世界フェルクローリア』の地に、葵が『三年もの間』身をおく事になり、色々とお世話になった方……というか、諸悪の元凶。

 その頃に結んだ親友との絆を盾にとっては、いちいち笑顔で毒を吐いて喧嘩を売ってくるのは、まさかウチの葵に良からぬ気でもあるからじゃなかろうかと、最初は疑いもしたけれど……。

 どうやら、元から人をいじったり毒を吐く事が性格の一部であるらしく、私以外にも多くの被害者がいると知って、ほっとひと安心したのをよく覚えている。

 

(この人……、一応世界を救った勇者様のはず、よね。それなのに、毎回会う度に爽やかな笑顔で毒ばっかり吐かれるのは一体何なのかしら……)

 

 葵の話によると、別に嫌われているわけじゃないらしい。

 むしろ、いじり甲斐があるからこそ仕掛けられてしまうのだと、疲労を滲ませた葵に説明して貰った記憶がある。

 まぁ、『もう一人』の本家毒舌の男性に比べれば、レイジェスティさんの声音には温かみがあるし、私も葵から説明を受けてすんなりと納得した。


「レイジェスティ……、お前、柚姉の事見ると……やけに張り切るよな?」


 お腹をぐ~ぐ~と鳴らしながらも、葵は私を庇うように立ち上がり、レイジェスティさんを睨み付けた。


「ウチの柚姉は、お前みたいな毒の塊の傍に置いといたら、心身共に害でしかないんだよっ」


「私としては、友好を深めようとしているだけなんだけどね?」


「傍迷惑な友好は生ゴミ用の袋ん中にぶち込んで、焼却炉行きにしろ!! この毒舌勇者!!」


「褒めてくれて嬉しいよ。これからも末永くよろしくね」


 そして、自分にとって都合の悪い事はポイッと投げ捨てるような勇者様だったりする。

 勇者様って……普通は性格の良い人が一般的な気がするのだけど、レイジェスティさんは勇者の枠に当てはまらない御人の模様……。

 出来ればあまり関わらない方が身の為だと葵には言い含められているし、私も自分から会いに行く事はないのけど……、同じ国、しかも、同じ建物の中に住んでいて全く顔を合わせないというのは無理難題というわけで……、結局それなりに出くわす羽目になっている関係だ。

 悪い人では……多分、ない、はず、なのだけど。相手をすると、色々疲れる。


「とにかく、レイジェスティ、お前はもう帰れ。俺は柚姉と一緒に昼飯に行くから……」


「せっかくここまで一緒に来たんだ、私も同席させて貰いたいね?」


「飯が不味くなるから却下」


「さぁ、早く行かないと日が暮れてしまうよ。アオイも、ユズノも、時間を無駄にしない為にも早く美味しい料理店に急ごうか」


 全然人の話を聞いてねぇ……っ。

 葵が頭を抱えてその場に蹲り、桃虎と桃鷹の二頭に慰めの前足タシタシを背中に受けている。

 一度こうだと決めたら、レイジェスティさんは頑固なのだと、付き合いのそんなに長くはない私でもわかる事だ。

 こういう時は、もう黙って一緒に料理店に直行するのみ……。

 葵よりも早めに諦めの境地に入った私は、義弟を促してレイジェスティさんの後を追う事になった。

 ――美味しい料理でお腹を満たした後は、『工房』に立ち寄る予定を忘れないようにしないと。

☆義弟・桃咲葵

柚乃の血の繋がらない義弟。

面倒見が良く、何かと抜けている義姉の柚乃の世話を焼いている。

黒銀の髪&アメジストの双眸の持ち主。

(地球にいた頃は、19歳の青年だったが、

 異世界に移動した際に、外見の年齢が少し上がっており、

 柚乃よりも幾つか年上に見える容姿となった。髪&瞳にも変化あり)


☆勇者様・レイジェスティ

金の髪&青い瞳の、王子様的美形の勇者様。

優しそうな顔に反して、中身が真っ黒けっけ。

趣味は人いじり。

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