ぼくら
人生になんの意味があるのだろうか。
僕は悩みに悩み悩みきった末、自宅の九階建てマンションの最上階から身を投げる事にした。
思い立ったら吉日。
直ぐに実行することにしよう。
カツーン、カツーン。と、重々しく響くコンクリートの音をその身に受けながら僕はマンションの階段をゆっくりと昇って行く。
住人は今は誰もいないのか、人の気配を一切感じない。
この静寂感が僕は大好きだ。
この世界の中で僕だけが狂っていると感じられるこの瞬間がたまらなく大好きだ。
仕事に追われ、彼女に結婚を迫られ、親には真面目に生きろと叱られ、何度も死にたいと感じた。
それでも、死ぬのが怖くて、ダラダラと生きてきた。
その結果が、会社にリストラされ、彼女には妊娠をネタにされ、親からは絶縁された今の僕。
もうそろそろこの自堕落な人生も頃合いだろう。
いい加減、こんな人生は終わらせるべきだ。
最後の晩餐とばかりに煙草を吸いながら扉を開け最上階へと足を一歩踏み入れる。
太陽がいつもより近い感じがする。
ああ、暑い、眩しい。
さっさと済ますことにしよう。
そうして、僕は階段を昇っていた時と同じくらいにゆっくりと歩く。
ゆっくりと歩きながら考えるのは最近の自堕落な僕を信じて付いてきてくれた彼女のこと。
今頃は家で寝ているだろう。
昨日は遅くまで動物みたいに繋がっていたから、今日は夕方まで起きないという見立てだ。
まあ、起きてきて邪魔されても困るしね。
大学で出会った彼女。
こんな僕の事を好きになってくれた彼女。
結婚してみたいな。
そう言って笑っていた彼女。
僕がリストラされた時も
また、頑張ればいいじゃん。
そう言って励ましてくれた彼女。
妊娠したみたい。
そう言って苦笑いを浮かべていた彼女。
妊娠という衝撃の事実に困ってしまった僕と彼女。
それでも飽きずに繋がっていたぼくら。
バカみたいに。
子供みたいに。
寂しくてお互いに離れたくなくて一人になりたくなくて繋がっていたぼくら。
ああ、本当にバカみたい。
煙草の火を揉み消して僕は笑う。
ああ、死にたくないな。
そう呟いて、僕は涙を流しながら空を飛んだ。
涙を流しながら見る空はいつもより輝いて見えた。