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ミソサザイの歌  作者: 和泉ユタカ
第三章 〜 Songs of Wren
74/123

人魚姫(四)

     11


 くしゅん、とクシャミして鼻をかむ鳴海の膝にミケが飛び乗る。

「ナルミ、風邪ひいたの? 今日も雨だし、学校なんか行かずに家でのんびりしようよ。あたしが温めてあげるからさ」

 なかなか魅惑的な三毛猫の言葉に首を横に振り、鳴海が立ち上がった。

「だめだめ、もうすぐ中間試験だからね。この世で巧く生きていこうと思ったら、ニンゲンは色々と大変なの」

 傘は差していたものの、雨の中で何時間も立ち話したせいか、少し風邪気味だ。しかし煉に話を聞いて貰ったお陰で何やらすっかり気分が軽くなった。おまけに季節は本格的に梅雨入りとなり、今朝も絹糸のような雨に濡れたアスファルトが艶めいている。鳴海にとって、梅雨とは一年で最も心安らぐ季節なのだ。

 電車に揺られながら、鳴海の背後から腕を伸ばして教室の戸を開けた克也のことを考える。温水プールとは言え、肌寒い雨の日ですら朝晩の練習を欠かさない彼は本当に泳ぐのが好きなのだろう。好きこそ物の上手なれとは、克也のような人間の為にある言葉なのだ。とても近くにいるのに、とても遠い人。彼にはインターハイやらオリンピックやら、鳴海の手の届かない遥か遠い何処かを目指して益々頑張って貰いたいものだ。

 目を瞑り、しっとりと濡れた髪とカルキの匂いを思い出しても、もう胸がざわめくことはなかった。

 駅から学校まで歩いているうちに少し熱が出てきたかも知れない。やはりミケが言う通り、家で大人しくしておくべきだったか。でも気分は悪くない。

 くしゅん、くしゅん、とクシャミしつつ、湿って重たい教室の戸を軽やかな気分で開けた鳴海の眼に飛び込んできたのは、蒼ざめて号泣する細野裕子の姿だった。


 ――交通事故、意識不明、重体。


 裕子の周りを飛び交う不吉な不協和音の中にサクライカツヤという言葉を聞いた瞬間、熱で火照った顔から血の気が引くのを感じた。

 ――嘘だ。

 克也が、あの海辺の太陽のような生命力に溢れた人間が、意識不明だなんてあり得ない。満面の笑顔で髪から雫を滴らせ、全身にカルキの匂いを纏い、鳴海の背後から腕を伸ばして戸を開いたのはつい一昨日のことではないか。切れ長の眼を細め、友人達と肩を組み、くだらない冗談を言い合って大声で笑っていたではないか。

 嘘だ、と叫ぼうとしたが声が出ない。

 激しい耳鳴りと眩暈に思わず頭を抑えてしゃがみ込んだ。

 耳の奥で海が鳴る。カモメが羽ばたく。波が岩を砕き、鳴海を深みに引き摺り込む。

「俺も人魚になりたい」と少年が囁いた。

「俺も、いつか、人魚のような――」

 全ての音が遠のき、視界が揺れ、辺りが暗くなった。



     12


 コツコツと窓硝子を叩く音で目が覚めた。

 ゆっくりと寝返りを打つと、鈍い頭痛を堪えてベッドの上に起き上がる。学校で気を失って病院に運ばれてから数日になる。ただの風邪だと診断されて家に帰ってきたものの、中々熱が下がらず寝てばかりいたせいか、固くなった身体の節々が痛い。

 ふらつく体を無理に起こして鳴海が窓を開けると、大きなカラスが部屋に飛び込んできた。外はどんよりとした曇り空で、霧のように細かな雨が降っているようだ。カラスが机の上で肩を震わせて雫を飛ばし、濡れた羽毛を整える。

「鳴海に頼まれたオトコを見てきてやったぞ」

「……それで?」

「アレは鳴海のオトコか?」

 馬鹿馬鹿しくて答える気すらしない。

「じゃあ友達か?」

 鳴海が黙って首を横に振ると、カラスが不思議そうに首を傾げた。

「ただの知り合いか? そんな奴の為になんでお前が泣くんだ?」

「別に泣いてなんか……」

 カラスの黒い眼にジッと見つめられ、鳴海が口籠った。

「……あの人は、私の命の恩人よ」

 カラスが驚いたように数回瞬きすると、急に不機嫌に黙り込んだ。

「ねぇ、クロ、それで克也の容態は……?」

「俺は知らん」

「知らんって、なんでよ? 病院まで見に行ってきたんでしょう?」

「知らんもんは知らん」

「ちょっと何よそれ……」

 鳴海がカラスを問いただそうとした矢先、窓の隙間を抉じ開けるようにして近所の野良猫が入って来た。

「ナルミのニンゲンを轢いた奴を見つけてやったよ」

 濡れた足を舐めつつ、猫が自慢気に尻尾の先を揺らめかせる。

「ナルミの命の恩人を殺した奴だからね、どうしてやろうか?」

「……殺した?」

 鳴海が呆然としてカラスを振り返った。

「殺したってどう言うこと?!」

 カラスが忌々しげに舌打ちして猫を睨む。

「……まだ死んだって決まったわけじゃないさ」

「ウソや!」

「カラスはウソつきやの」

 軒下に肩を寄せ合った雀達が口々に囀る。

「心臓が動いているんだから死んだわけじゃないだろうが」

「そやけど医者がゆうてたぞ。十中八九タスカリマセンって。たとえ助かってもイシキはモドリマセンって」

「ソウダソウダ」とヒヨドリが羽ばたく。

「身体中にクダが巻きついてて、すごく苦しそうやったで」

「あんなん生きているとは言えんな」

「ソウダソウダ」と猫が爪を研ぐ。

「仇をとってやらんといかん」

「ソウダソウダ」と犬が牙を剥く。

「頭の上に糞を落としてやろうか」

「そんなんナマヌルイ」

「ほんなら顔を引き裂いてやろうか」

「眼玉を突ついて、くり抜いてやろうか」

「喉笛を噛み切ってやろうか」

「骨を噛み砕いてやろうか」

「ナルミを泣かせた奴を、生かしておくわけには――」

「やめてよッ」

 あの日、少女達を襲った獣たちの怒りに我を忘れた眼と、むせ返るような血の匂いが悪夢のように蘇る。潮騒のような耳鳴りに鳴海が頭を抱えた。

「やめて! お願いだから余計な真似はしないで!」

「……だけど、俺たちはナルミのためを思って……」

「私の為って言うなら、もう話し掛けてこないで! 邪魔しないで! 私に友達がいないのはあんた達のせいよ! いつもいつもあんた達が所構わず話し掛けてくるから……ッ」

 ハッと我に返って口を噤んだが、一度口に出した言葉は取り戻せない。辺りが水を打ったようにしんと静まり返り、無数の眼が瞬きひとつせず鳴海を見つめている。

「……ナルミはトモダチがおらんのか?」

 長い沈黙を破り、誰かが小さな声で囁いた。

「ナルミ……」

 小さく柔らかな躰がそっと足元に擦り寄る。

「……俺たち、トモダチだよな?」


 そうだよ、と言えばいいだけだ。当たり前じゃない、と微笑めばいい。

 なのに何故だろう。言葉はいつも、必要な時には出てこない。

 一匹、また一匹と動物達が去ってゆく。

 後に残された鳴海は、暗い部屋で独り、膝を抱えて俯いた。


 寂しくなんかない。

 切なくなんかない。

 怖くなんかない――



     13


 イキモノ情報ネットワークは侮れない。

 先日の一件以来、動物達は遠巻きに鳴海を見ているだけで、決して話し掛けてこようとはしない。そして鳴海が話し掛けようとすると、急いで逃げてしまう。家の中でもミケは鳴海と鉢合わせしないようにコソコソと逃げ回っているし、月太郎に至っては鳴海の足音を聞いただけで甲羅に引っ込んで寝たフリをしている。静けさが欲しいと言ったのは確かだが、しかしこれでは何やら気分的に落ち着かないと思うのは我儘が過ぎるだろうか。そして今だけは、静けさよりも話し相手が欲しかった。

 公園のベンチに独りぼんやりと腰掛け、足元の水溜りにそっと靴の爪先を浸す。

 克也の事故から十日以上経つ。まだ意識が戻らないと、クラスメイト達が話しているのを聞いた。詳しい事は誰も知らないようだが、唯ひとつ確かなことは、事態が楽観視できるものではないと言うこと。

 耳の奥で海が鳴る。

 カモメが羽ばたく。

 陽に焼けた少年が、切れ長の瞳を楽しげに細める。

 幾度も繰り返される眩い記憶の中で、少年が笑いながら海に飛び込む。

 碧い波間に消えた少年は、いつまで待っても戻ってこない。

 足元の水溜りに映る白い雲が、揺れて滲んだ。

「ナルミ……」

 誰かに呼ばれた気がして、辺りを見回す。

「ナルミ……」

 この声は何だろう。生き物の声ではない。少なくとも、鳴海の知っている生き物ではない。

「ナルミ……」

 ふと気がついて、足元の水溜りを覗き込んだ。水鏡に映った自分の顔が不意にゆらりと揺れて、ニタァと嗤った。

「……あのニンゲンは死ぬぞ」

 薄い唇が、血でも塗ったかのようにぬらぬらと紅い。

「放っておいたら死ぬぞ」

「今日明日にでも死ぬぞ」

 水溜まりに映る空が暗く翳り、ポツリ、と大粒の雨が水鏡を割った。

「可哀相になぁ……」

「若いのになぁ……」

「ヒトは脆いなぁ……」

 クスクスと湿った嗤い声がそこかしこに沸き起こる。

 生温い雨が髪を滴り、首筋を伝い、身体の内側に染み入ってくる。突如降り出した激しい雨の中、傘も鞄も投げ捨てて駆け出した。

「……助けてやろうか?」

 どんなに必死になって逃げても、無気味な声が纏わりつく。

「我らには翼はなく、嘴もない」

「我らは研ぐ爪を持たず、切り裂く牙も持たぬ」

「我らには目も鼻もなく、手も足もない」

「だが我らは言葉を持ち、聴く耳を持つ」

「ナルミ……おまえと同じだ」

「だから……」

「……助けてやろうか?」

 泥濘に足を取られて転んだ鳴海の耳朶を舐めるように声が這う。

「おまえにトモダチをくれてやろう」

「あのニンゲンを生かしてやろう」

 家に飛び込み、バタンと玄関のドアを閉めて震える手で鍵を掛ける。

「……獣と蟲の声と引き換えに、おまえはただ望めばいい」

 生温かい風が濡れた首筋を吹き抜ける。ぞっとして振り返ると、水槽の中で月太郎が驚愕に目を見開いている。

「な、鳴海殿! それは一体……?!」

 階段をトコトコと降りてきたミケが、鳴海と目が合った途端にカッと瞳孔を開き、尻尾の毛をぶわりと膨らませた。

「……助けてやりたいんだろう?」

 湿った声が耳許で嗤う。

「……助かりたいんだろう?」

 声にならない悲鳴を上げて階段を駆け上がり、壊れそうな勢いで部屋のドアを閉める。

 なぜだ? なんで自分ばかりこんな訳の分からない目に遭わなければならないのだ。

 わかっている。事の元凶は全て、獣珠と蟲珠……紅い着物の女の子から貰った、あのふたつの飴玉のせいだ。

 硝子を叩く音に振り返ると、雨に濡れそぼったカラスが真っ黒な翼を激しく羽ばたかせ、必死の表情で窓を蹴っている。

「鳴海ッ! 鳴海ッ!」

 カラスが何か叫んでいるが、潮騒のような雨音に掻き消されて聴こえない。

 部屋のドアをミケが狂ったように引っ掻いている。

 おまえにトモダチをくれてやろう、と掠れた声が甘く囁く。

 あのニンゲンを生かしてやろう、と暗い声が嘲笑う。

「獣と蟲の声と引き換えに、おまえの願いを叶えてやろう」

 声声声。わたしはそんなモノを欲しいと思ったことは一度もない。わたしが欲しいのは、穏やかさと、平凡さと、そして誰にも邪魔されない静けさだけだ。

「わかったわよッ」

 もう何も聞きたくない。頭を抱えて鳴海が叫んだ。

「あげるッ! そんなに欲しいなら獣珠も蟲珠もあげるわよッ」

 不意に辺りが静かになった。

 耳障りな嗤い声も潮騒のようなざわめきも消えて、唯、濡れて光る窓硝子の向こう側で、カラスが凍りついたように呆然と鳴海を見つめていた。



     14


 昨日のアレは一体何だったのだろう。

 早朝に目覚めた鳴海が足音を忍ばすようにして階下に降りる。あの声が消えた後、鳴海は突如激しい疲労と眠気に襲われ、夕食も食べないままベッドに倒れ込むようにして寝てしまった。今朝は少し頭がぼんやりするものの、気分は悪くない。

 階段の下でミケが毛繕いをしていた。

「ミケ、おはよう」

 ここのところずっとよそよそしく鳴海を避けている三毛猫に思い切って声を掛ける。

「あの、昨日のことなんだけどさ……」

 振り返った猫が、ニャアと鳴いた。

「にゃあって何よ、にゃあって」

 鳴海が溜息をついて猫の前にしゃがみ込む。

「……この前の事は悪かったわよ。私が人と上手くやっていけないのは別にあんた達のせいじゃないし。でもちょっとイラついてて……ごめん。ごめんなさい」

 鳴海の前にちょこんと座った三毛猫が再びニャアと鳴くと、助けを求めるかのように亀の水槽を見た。

「ミケ、さっきからニャアニャアって、どうかしたの?」

 不審に思って亀の水槽を振り返る。と、石の上に乗ってこちらを眺めていた月太郎がパクパクと口を動かした。

「……月太郎、どうしたの?」

 パクパクと懸命に口を動かす月太郎からは、何の声もしない。ぞっとしてミケを振り返ると、困った顔の猫が鳴海から目を逸らした。



 生き物の言葉が聞こえない。

 昨日の悪夢のようなアレは、決して夢ではなかったのだ。

 門灯に止まったカラスはカァと鳴き、雀達がチュンチュンと囀る。蟻が軍隊マーチを歌うこともなく、電柱に立派な巣を張った女郎蜘蛛はただ無言で鳴海を見下ろす。動物達の鳴き声は音であり、言葉ではない。もう誰も鳴海に話しかけてくることはない。

 世界は恐ろしく静かだった。

「鳴海さん」

 放課後、校門を出たところで声を掛けられた。振り返ると、カラスと狐を肩に乗せた少年が霧雨の中、傘も差さずに立っていた。

「煉くん……」

 一日中呆然と過ごしていた鳴海は、黒髪の少年を見た途端に、なぜか不意に泣きそうになった。

「煉くん、あのね、わたし……」

「鳥達から聞いたよ。鳴海さんが獣珠と蟲珠を失くしたって」

「失くしたって言うか、よく分からないんだけど、なんか変な声に付きまとわられて……ねぇ、アレって何だったの?」

「その声は鳴海さんに何を言ったの?」

「……克也」

「え?」

「この前に話した櫻井克也ってね、この学校の生徒なの。向こうは私の事なんて全然憶えてなかったけど……その克也が事故に遭って、意識が戻らないの。そうしたら、水溜りから声が聞こえてきて、獣珠と蟲珠と引き換えに克也を助けてくれるって……」

「……ナルホドね」

 煉とカラスがちらりと視線を交わした。

「克也ってヒトの意識はさっき戻ったらしいよ」

「ほ、本当に?!」

「うん、カラスがそう言ってる」

 あの怪しげな声の主は約束を守ったのだ。あの眩しい笑顔をまた見ることが出来る。私は動物や虫達の言葉と引き換えに、あの海辺の太陽のような光を守ったのだ。

 安堵のあまり脱力して、思わず濡れた地面に座り込みそうになった。しかしそんな鳴海を前に、煉が険しい表情でこめかみを揉んだ。

「あのね、喜んでいるところに水を差すようで悪いんだけど、これってすごくマズイんだよね」

「なんで?」

「鳴海さんにケダマをくれた女の子はさ、多分、『命が尽きるまで大事に持っておいてくれ』って鳴海さんに言ったはずだよ」

「……つまり?」

「つまりさ、命が尽きる前に珠を手放したってことは、約束に反するわけで。約束を破った分と、珠をふたつも失くした代償を払う必要があると思うんだよね」

「代償って?」

「まぁ良くてあんたの命……と、あと数人分かな」

「は……はああっ?!」

 驚きの余り息が詰まって咳き込んだ。

「命ってなにそれ?! あの飴玉ってくれたんじゃないの?! あれって貸し出し制だったの?!」

「う〜ん、確かにくれた事はくれたんだけどさ。でも、貰ったモノだから好きにしていいってもんじゃないんだよね。『命が尽きるまで大事にする』ことを条件にくれたわけだからさ」

「そんなの知らないわよ! 憶えてないんだから!」

「憶えてないからじゃあ済まないのが此の世の摂理なんだよねぇ。う〜ん、困ったなぁ」

 煉が顔をしかめて濡れた髪を掻き毟る。そして数本の髪を抜くと、それを縒って糸を作った。

「ちょっと手を出してくれる?」

 煉の髪で作られた糸が鳴海の指に結ばれてゆく。

「両手の指で十本か……でもこれじゃあ全然足りないから、早いとこ根本的な解決策を考えないと」

「えっと、ごめん、これって何?」

「お守りの代わり。でもハッキリ言って、気休めにもならないかも知れない。こういうのは早い者勝ちだからね」

「早い者勝ち?」

「獣珠の主よりも、俺の方が絶対的な力は強い。だけど鳴海さんは先にアイツと契約を結んじゃったから、そこに他のヤツが後から口出しするのは難しいんだよ。それに俺って呪術的なことは苦手だし。結界とか作ってもすぐ壊れちゃうしさ」

「お前の結界が壊れやすいのは単なる練習不足だろうが。お前には向学心というモノが足らんからな」と横で聞いていた焰が鼻を鳴らした。

「……あれ? 私、ホムラちゃんの声が聞こえた」

「そりゃ俺が人語を喋っているからだ。俺をその辺のケモノ如きと一緒にするな」

 ツンと得意気に鼻面を上げた狐が鳴海の肩に飛び乗る。

「とにかく、今日はこのまま家に帰って大人しくしてて。家までは焰が送ってくれるから」

「煉くんは?」

「コレって俺だけじゃあどうしようもないからね。鳴海さんを助けるのを手伝ってくれそうなヤツをちょっと当たってみるよ」

「……迷惑かけちゃって、ごめんね」

 振り返った煉が僅かに首を傾げるとニコリと笑った。

「あのさ、人魚姫って、自分の存在に気付こうとすらしない鈍感な王子を守るために海の泡になったんだよね?」

「え?」

「俺さ、あの物語の結末にはどうも納得出来なくて。いつかチャンスがあったら書き替えてやろうと思ってたんだよね」

 だから心配しないで、と軽く鳴海の指先に触れた手は、雨の中に立ち尽くしていたとは思えないほど温かだった。



(To be continued)

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