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終幕 約束をきみに【Side:理一郎】

最終話の理一郎サイドの話です。

あとがきと次回作のお知らせもありますので、最後まで読んでいただけたら幸いです。

 

 

 

 なんっだ、この可愛いの!

 

 

 理一郎は身悶えしそうになった――

 

 

 

 

 先日、大安の日を選んで理一郎と桜子は入籍した。

 来年から瀬川邸は大改築に入るので、二人は一足先に仮の住まいであるセガワ商事の社宅に入居して、新婚生活を始めている。

 桜子は結婚を機にマートタキザワを正式に退社した。

 しばらくはパート扱いでもいいから店を手伝うために働きたいと言ったのだが、社長であり、実の父親でもある陽介が断ったのだ。

「理一郎くんは将来は瀬川すべてを背負って立つ男だ。おまえはその傍で支えていかなくちゃいけない。いまからあちらのお義母さんにいろいろと教えてもらいなさい」

 と言って送り出した。

 そこでいまは理一郎が仕事で会社に行っているときは、瀬川本邸に行って志保の手伝いをしている。

 夕方には社宅に帰ってきて晩御飯を作って理一郎の帰りを待ってくれているのだ。

 毎朝桜子に起こされて朝食を食べ、家に帰ってきては夕食を食べる。

 そして眠るときは彼女を腕に抱いて眠るのだ。

 なんて幸せな結婚生活!

 

 一応、今日の披露宴が終るまではと結婚指輪をつけていないが、すでに入籍したことを知っている同僚たちからは「顔がにやけすぎだ」としょっちゅう言われる。

 何を言われても気にしない。

 今は上司と大口契約のために忙しく動き回っている状態だし、妻!の存在がとても励みになっていて、「いい仕事ぶりだ」と営業部長にも褒められた。

 それと、昨日のことだが廊下で専務にとっつかまってこっそりと言われた。

「瀬川の男はな、結婚したら一人前なんだ。嫁のためにひたすら仕事に励むようになる。なぜなら自分が惚れこんだ女のせいで業績が落ちたなんて言われたくないからだ。そして家に帰って妻に癒されるってわけだ。俺のときはなかなか結婚しなかったから、親父や兄貴に心配までされたよ」

 父のすぐ下の弟でもある彼は、三十過ぎるまで結婚しなかった。

「単に、俺が嫁さんに出会えなかったからなんだけどな」

 意外なところに嫁さんがいたもんだから、あのときばかりは瀬川の血は争えないと思ったよ、と言って、専務は甥である理一郎の結婚を喜んでくれたのだった。

 

 

 そして今日、妻の叔父の店「ビストロTAKI」で、身内や親しい人たちだけを招いた結婚披露宴を行うことになった。もちろん出される料理はオーナーシェフ手ずから作られたものばかりだ。

 給仕に関しては杜島が自社の経営するホテルのレストランから数人派遣してくれた。

 この数日前に桜子は友人の月島葵に呼び出されて出かけていた。

 島コーポレーションが経営する結婚式場の衣装部で、レンタルのドレスを貸してもらえるというのだ。

 ウェディングドレスだと大仰すぎるので、二次会用のドレスだということだが、葵と一緒にドレス選びをするのは楽しかったという。

 どんなドレスだと訊くと、「葵さんに言っちゃダメと言われたから当日まで秘密」という答えが返ってきた。

 おかげで桜子がどんなドレスを着るのか全く知らない。

 そして自分は自分で杜島から手渡された衣装を着ている。

 杜島のセンスの良さは疑いようもないので、黙って着たのだが……

「本番の披露宴のときは白がいいぞ」

 と言われたので今日の衣装は光沢のあるグレーのフロックコートだ。

 長身で体格のいい彼にはぴったりだった。

「お義兄さん格好いいな!」

 と義弟となった修吾にベタ褒めされたので、まあまあ気に入っている。

 桜子はお昼過ぎから準備のために葵に連れられて先に出たのだが、いまだに会場に着いていない。

 日も暮れて招待客はほぼ全員そろった。

 瀬川家からは、恭一郎の兄弟たちとその家族。瀧沢家では陽介の実の姉が嫁いだ藤代家と祖母の佳美、百合子の実家の祖父母と兄たちの家族も招待した。

 本当は桜子の気持ちを考えて藤代家を招待するのはどうかと考えたが、彼らだけ招待しないのもおかしいし、自分はもう大丈夫だというのでそれならばと招待状を送った。

 何も知らないであろう伯母夫婦は弟夫婦と楽しそうに喋っているが、その傍で晴彦は所在なげに立っていた。

 それと理一郎と桜子の親しい友人たちも招待している。

 会社の人たちはどうしようかと迷ったが、後日また違う場所で祝ってくれるというので今日は招待していない。

「瀬川! 花嫁さんの到着だ」

 こういうイベントごとが大好きな杜島や友人たちが率先して動いてくれているので助かっている。

 表に出ると杜島家の運転手つきのリムジンが停まっていた。

 そこから葵が先に降り、桜子が続いた。

 冬ということもあり、しっかりとコートを羽織っているが、頭は結い上げられて生花で飾られていた。

「理一郎さん」

 妻に近づくと手を差し出した。

「大丈夫か? 寒くないか?」

「大丈夫よ」

 手を繋いで店のエントランスに入ると、葵が手伝って桜子のコートを脱がせた。

 

 その姿を見た理一郎はガンと頭を殴られたような衝撃が走った。

 真っ白なミニ丈のワンピースはレースがたくさんついているのかヒラヒラふわふわしており、ビスチェタイプのために肩がむき出しになっている。

 首元はジルコニアらしいネックレスで飾られているが、豊かな胸が強調されていた。

「り、理一郎さん、どうかしら? 変じゃない?」

 恐る恐るというように桜子は訊いてくるが、理一郎は黙って首を振った。

 

 変じゃない。

 

 変じゃありませんとも!

 

「可愛い」

 真っ白な綿菓子とか砂糖菓子のようだ。

 食べたらおいしそうとか考えているあたりでかなりヤバイ。

 理一郎の視界には花嫁しか入っていなかった。

 すでに捕食体勢に入りつつある。

「杜島……」

「あ?」

「いまからお持ち帰りしてもいいか? 抱っこしてうちに持って帰ってベッドの上に飾りたい。しばらく眺めておいてから、全部剥いて食べ、いっ!」

「瀬川くん……気を確かに持ってね? 気持ちはわかるんだけどね?」

 

 ギュギュギュギュギュ~……


 一応、今日の主役ということを慮ったのだろう。

 葵は理一郎の手のひらを思いっきりつねっていた。

 首を絞めかねないような形相のまま、口元は笑みを作っている。

「あ、あおい、さん………わかった……わかりましたから! 痛いって!」

 綺麗にネイルされた爪が刺さる。

 刺さるから!

 桜子は顔を真っ赤にするどころか首筋から胸元まで赤くなっている。

 危なかった。

 どこかにトリップしたかのような感覚を味わってしまった。

 そこで気を取り直して、改めて妻を見る。

 ここはもう褒めるしかないだろう。

 理一郎の脳内には照れという文字が消え去っていた。

「可愛いし、すごく綺麗だよ、桜子」

「あ、ありがとう……理一郎さんも似合ってる。素敵よ」

「ありがとう」

「桜子さんはこういうのが似合うから飾りがいがあるわ~。私じゃ似合わないもの」

 確かにそうかもしれない。桜子と比べると十センチ以上も葵のほうが高いので、ヒラヒラしたドレスよりも、もっとすっきりとしたラインのほうが似合うだろう。

 もしくはロングドレスもいいかもしれない。

 それを言ってみると、桜子とドレスを見にいったときにもそういう話が出たのだという。

「私たちのときには桜子さんに付き合ってもらうことにしたのよね」

「ええ」

 葵のほうが二歳年上ではあるが、すっかり仲良くなったみたいで、理一郎はそれも嬉しいと思う。

「瀬川、みんな花嫁さんの到着に気づいたから待ってるぞ」

「ああ、わかった」

 桜子の手をとって自分の腕に絡ませる。

 普段はこんなことしないのだが、こういう場ではやはりこれだろう。

 二人並んで会場に入っていくと、待ちかまえていた招待客から歓声があがる。

「まあっ、可愛い花嫁さん!」

 可愛い可愛いと花嫁を絶賛する声が一番多く聞こえた。

 そうだろうと理一郎はその言葉が嬉しくて、微笑みを浮かべた。

 桜子に対して「可愛い」という言葉が出るのは、彼女が幼く見えるとか、愛らしいという意味ではない。

 彼女は少し背は低めだが、見た目はきちんと年相応であって童顔ではない。

 綺麗なのだけれど、どちらかといえば「可愛い」と言ったほうが合っているというだけのことだ。

 

 乾杯を終えると杜島がマイクを手に取る。

「えー、それでは、これから指輪交換にうつりたいと思います! 実は二人はまだ結婚指輪を一度もつけていないということです」

 ほぉ、とレストラン内から声があがる。

「せっかくだからこの披露宴でお互いに交換したいということで、こちらに用意しました」

 葵がリングピローに載せた指輪を持ってくる。

「この結婚指輪は今リングピローを持っている私の婚約者、月島葵嬢のデザインによるもので……」

「はじめっ! そんなこと言わなくていいのよっ!」

 婚約者同士のやりとりにドッと笑い声があがる。

「リングピローは花嫁の従妹、瀧沢沙希嬢のお手製であります」

「え?」

 理一郎も桜子もそれを知らされておらず、顔を見合わせた。

「何も聞いてなかった?」

「ええ……沙希ちゃんがパッチワークとか趣味にしてるのは知ってたけど……」

 会場内を見回すと、修吾に連れられて沙希がおずおずと前に出てきた。

「ありがとう、沙希ちゃん。全然知らなかったわ。これ、もらってもいいの?」

「修ちゃんと拓海くんに言われたの。作ってみないかって……こういうのを作るのは初めてだったから、たくさん本を読んで……どれがいいかっていろいろ考えて作ったの。すごく楽しかった。おめでとう、さっちゃん」

「ありがとう。これ、大事に飾っておくわね」

 指輪を手に取ると葵がすかさず言った。

「ね、その指輪をくっつけてみて」

「くっつける……あっ」

 大きさは違うけれど、二つの指輪をくっつけると浮き彫りにされている模様が桜の花びらになった。

「すごいっ」

 桜子は知っていたのかというように理一郎を見上げた。

 イタズラっぽく微笑んで内側も見てみろと促す。

 指輪の内側の刻印には日付が刻まれていた。

「え、これって……」

 今日の日付でもなく、二人の誕生日というわけでもない。

 けれど、自分にとっては記念日といってもいい日だ。

「覚えてないか?」

「………あっ!?」

 桜子は思い出したのか、その顔に笑みが広がる。

「俺たちが出会った日だ。思い出した?」

「ええ」

「俺にとっては忘れられない日だから」

「私も……あら、理一郎さん。これ、刻印の隣に宝石が埋まってるわ」

「うん。こうするものなのかな~と思ってたんだけど」

 これはどういうものなのかと葵に問おうとすると、憤慨したように言われた。

「瀬川くんはやっぱり気づいてなかったのね。これ、ピンクダイヤとペリドットなんだけど」

「ピンク……ダイヤとペリドット……あ!」

 桜子は気づいたらしい。

「理一郎さん、私たちの誕生石よ」

「さすがは桜子さんね。桜子さんの指輪には瀬川くんの誕生石。瀬川くんの指輪には桜子さんの誕生石を埋め込んだのよ。いつも一緒にいられますようにって」

「それであのとき俺たちの誕生日を訊いたのか」

 婚約指輪と結婚指輪の依頼をするために店に行ったときのことを思い出した。

「おーい、そろそろいいか?」

 待ちくたびれたような杜島の声がマイクで響いた。

 少々呆れているようにも聞こえる。

「ああ、悪かった」

 お互いの指に指輪を嵌め終えると拍手がおこった。

 二人で頭を下げると、突然可愛らしい声が目の前から聞こえた。

 

「ねえ、ちゅーはしないのー?」

 

 理一郎の従弟たちがキラキラした目で二人を見つめている。

 麻里子よりも下の年齢の従弟たちがゴロゴロといるのだが、まるで全員が結託したかのように並んでいた。

 この従弟たちの中では和佐が一番下なので、どうやら上の従弟たちがけしかけたらしい。しかし、本人はそんなことに気づいておらず、可愛らしく首を傾げた。

「テレビでみたことあるよ。けっこんしきで、およめさんとちゅーするんだよね! おとうさんがいってたんだよ! ずっといっしょにいるやくそくをするんだって。りーちにぃとさくらちゃんもやくそくするんでしょ?」

「う、あー、そうだな……」

 そんなことを吹き込んだのか、と和佐の父親をチラリと見ると、長身の彼は後ろのほうで苦笑いしてスマンというように片手をあげた。

 すると杜島が喝采の声をあげる。

「いいこと言うねえ! さあ、ここで一つ誓いのキスを!」

「何言ってんだ、バカ!」

 人前でベタベタしても恥ずかしくはないが、さすがにキスはどうかと思う。

 ましてや教会での結婚式でもない。

 いや、教会で式を挙げたとしても、キスを飛ばすことだってあるではないか。

「ちゃんとやくそくしないとだめなんだよ?」

 和佐は桜子に一生懸命に訴えている。

 どうやらキスをしないと一緒にいられないと思い込んでいるようだ。

 何を教えたというんだ、この悪ガキたちは。

 ジロリと和佐の後ろの従弟たちを睨みつけると、いずれも悪びれた様子もなくニヤニヤと笑っている。

 周囲からも微笑ましいというか生温かい目で見守られているというか、微妙な雰囲気がみてとれる。

「……そうだな」

 こうなったらもう仕方がない。

 和佐を納得させるためにもキスをすればいいのだ。

「桜子」

 妻も引けないところまできたことはわかったようだ。

 恥ずかしそうに目を伏せる。

 そこへかがみこんで軽くキスをすると再び拍手が起こった。

 しかし和佐は……

 ぶすっとした顔をして理一郎を睨みつけてくる。

「和佐? どうした……」

「ちがうもん……」

「え、なにが違うって?」

「ちゅーはね、おでこにするんだよ!」

「お、でこ?」

「うん」

 しっかりと頷いた和佐はピタピタと自分の額を叩く。

「ここにしないとだめなの!」

「ははぁ……」

 和佐が見たテレビのドラマというのは額にキスをするものだったらしい。

 それが子どもの目には素敵なものに見えたのだろう。

 早く早くと和佐がせかす。

 桜子と顔を見合わせて苦笑した。

 もう一度、と和佐のお望みどおりに額へ優しいキスを落とす。

 ようやく和佐は満足したらしく、小さな手で拍手した。

「これでずーっといっしょだね!」

 

「うん、そうだな」

 

 これでずーっと一緒だな―――

 

 

 

 

「I trust You」理一郎&桜子編終了いたしました。


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


瀬川一族の家族構成とかは考えてはあったのですが、一人一人の話まで考えてはいませんでした。

でも、なんとなくでもストーリーが浮かび上がってきたので書いてみました。


サイトで連載していたときには、元が二次創作サイトだったことと、宣伝もしていなかったために閲覧されている方が十数人というのが普通だったのですが、こちらで公開してからは倍以上の方に読んでいただけたので、とても感謝しております。


桜子と理一郎のお話はこれで終わりですが、この後の二人がどうなったのかは「瀬川さんちの恋愛事情」シリーズの「Close to You」と「Crazy for You」を読んでいただければ、五年後の二人がちょい役で登場しています。(主人公は理一郎の従妹の麻里子です)二人の子どもはどうなってるのか?などという疑問も解消されるかと思います。


次作品は「I trust You ~Kyoichirou & Shiho~」となりました。(あまり代わり映えしませんが)

タイトルの通り、理一郎の両親の話です。

この両親の話はかなり大昔に下地が出来上がっておりまして、それを元に話を膨らませています。

ただし、これは「ムーンライトノベル」さんのほうで連載させていただきます。

決してR18な話ではありません。あったとしても最後のほうに付け加える程度になります。

考えたあげくに「ムーンライトノベルズ」さんで公開させていただくことにしました。


読んでいただければ、悩んだ理由がわかっていただけると思います。

としか言えませんが……

人によってはたいした理由じゃないと笑われてしまうかもしれませんけど(苦笑)


連載開始時期は7月中旬ごろからとさせていただきます。

サイトからの移動ではなく、新作書き下ろしとなります。

そして、サイトでは連載は行わず、「ムーンライトノベルズ」でのみ公開となります。

かなりゆっくりとした更新となりますが、気長にお付き合いください。


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