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「谷川君って、いつからジブリが好きなの?」
「あー…、五歳くらいの時から、毎日見てたんだ。」
「へぇー、五歳から毎日かぁ。」
……そう、あの頃は、ジブリだけが毎日の楽しみだった。ジブリだけが………。
「……谷川君?どうしたの?そんな悲しそうな顔して…。」
……駄目だ、あの頃を思い出すと、どうしてもテンションが上がらない。…沈んだ気分になってしまう。
「…ねえ、谷川君?何があったの?変だよ…。」
「……結衣。いや、なんでもないんだ!さあ、飯食べようぜ。冷めちゃうよ?」
「……私に言えない事なの?私には言いたくないの?」
違う。話してしまえば、絶対に泣いてしまう。そして、辛くなる…。あの出来事は、俺にとって最大の精神的障害だから…。
「お願い、そんな顔しないで!そんな谷川君見たくない…。私に出来る事なら、なんでもするよ?力になりたいの…。谷川君を支えたい!」
………天宮。
「……自分の全てを話すのは、結衣が初めてかもしれない。聞いてくれるか?」
「……うん、聞かせて。何があったの?」
「……15年前になるかな。俺が三歳の時か…。まだ、両親が離婚する前だった。母さんはどこかの研究所の博士で、仕事一筋の人間だったよ…。父さんは、なんて言うか…専業主婦……じゃねーや。専業夫だな。父さん仕事してなかったんだよ。母さんの給料で充分食っていけたからな。」
「……専業夫?」
「ああ、専業夫なんて聞こえはいいけど、実際はニートだ。仕事してねー訳だし。普通の家庭と逆だろ?そんな父さんに、母さんは愛想つかせて浮気。父さんは浮気の事実を知りながらも、何も言わなかった…。わかってたんだよ。自分の弱さ…立場を。けど、父さんはよく遊んでくれたし、可愛がってくれたから、嫌いじゃなかったんだ。」
「………。」
「まあ、普通じゃないナリに幸せだったよ。少なくとも俺は。そんなある日、両親は突然離婚したんだ。父さんは訳を言わなかったけど、母さんが浮気相手と結婚するために、離婚したんだと思う。俺は父さん側に引き取られた……と、言うよりは押し付けられたって感じだったな。」
「………。」
「それで、父さんと二人暮らしが始まったんだ。運よく仕事も見つかって…、最初の頃は大変だったけど、それなりに楽しかった。父さんが仕事に行ってる間は、退屈だからさ、それで父さんがジブリのビデオを買ってくれたんだ。んで、毎日ジブリを見てたんだ。幼いながらに感動したよ。ジブリの凄さに…。そんなある日、気付いたんだよ。父さんの様子が、日を重ねる毎におかしくなっている事を。今考えてみれば、当然だよな。今まで働いた事が無い父さんが、いきなり働きながら子育てだぜ?過労とストレスの板挟みで、ノイローゼ。」
「………ノイローゼって。」
「それで、遂に起こってしまったんだ。最悪の出来事が…。」