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4その先へ

 よく晴れた昼下がり。道場からは激しくぶつかり合う音と、気合いの掛け声が聞こえていた。

 「どうしたっ。その程度か」

 こんという棒状の武器を使ったやり合いが行われている。見合っているのは多加弥たかやと、由起葉ゆきはの兄の二葉ふたばだった。

 完全に多加弥の方が押されている。二度の連続攻撃を受けて体勢を崩したところを、二葉は容赦なく弾き飛ばした。倒れた多加弥の顔の真横に棍が振り下ろされる。

 「お前の負けだ」

 「参りました・・・」

 「そんなことでユキハを守れるのか?俺は弱い男にユキハをやるつもりはない」

 二葉は棍を下げると、仁王立ちで多加弥を見下ろした。

 「まぁ待て。帰ってきて早々やりすぎだぞ」

 なだめるように入ってきたのは二葉と双子の一葉いちはだ。一葉はここで道場を受け継ぎ、師範として武術を教えている。武術といっても普段は太極拳たいきょくけんがメインの穏やかなもので、護身術くらいは教えるが、二葉のしている棒術などは基本やらない。道場の中でも棒術をやるのは限られた者だけだ。

 「だいたいお前は野蛮やばんでいけない。元々の師範も相手を攻撃することを目的に武術を教えていたわけではないんだぞ。この道場はだな・・・」

 「あぁ、わかった、わかった。もう何度も聞いてるから」

 「何度も聞いてるならいいかげん直せ」

 兄弟喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。そこに救世主とでもいうべき人物が現れた。

 「あれ?二葉兄ちゃん。帰ってきてたんだ」

 「ユキハっ。会いたかったぞぉ」

 二葉は棍を投げ捨てて由起葉に飛びついた。その様を見て一葉は呆れているが、実はこの兄二人、どちらもシスコンだった。

 「ぐ・・・ぐるじぃ・・・」

 「おぉ、すまん、すまん」

 「二葉兄ちゃん、大会どうだったの?」

 「あぁ・・・。やっぱり強い奴は多いな。残念ながらまた優勝を逃した」

 二葉は武術の大会に出るため中国まで行っている。日本人にしてはなかなかの腕の持ち主なのだが、やはり本場で優勝するのは難しいようだ。

 「そっか。お疲れ様」

 「ありがとう、ユキハ。お前に出迎えてもらえるなら優勝できなくても俺はうれしい」

 「さっきまで暴れ回っていた人間とは思えんな」

 「いいじゃないか。久々のかわいい妹との再会なんだぞ」

 「久々って、一週間も経ってないよ・・・」

 由起葉の突っ込みもまるで聞いていない。なんとも豪快で、厄介な兄だ。

 「ところでタカヤ君。どうしたんだい?左手」

 「えっ」

 「わからないとでも思ったかい?」

 多加弥は正直驚いていた。

 「自分では大丈夫だと思っていたんですが・・・」

 「なんだ?俺にやられたのは左手のせいだって言うのか?」

 「違います。負けたのは俺の修行が足りなかったからです」

 多加弥は自分の左手を見つめた。

 「一見力業ちからわざに見える棒術だって、繊細な動きが必要とされる。自分ではいつもどおりやっているつもりでも、見る人が見ればわかるもんだ」

 「俺だってわかってたぜ」

 「本当かよ」

 一葉は疑いの眼差しを向ける。

 「あのね、タカヤの左手、事故の後遺症みたいなの。やっぱり支障あるのかな?」

 「まぁ、ないとは言えないが」

 「いいんじゃねぇの、俺みたいに大会に出るのが目標じゃないんだし。中途半端な奴はそれなりにできればそれで・・・」

 二葉の発言に、多加弥は強い眼差しで見返すと立ち上がった。

 「腕の一本くらい、どうってことありません。こんなのハンデでもなんでもない。必ず強くなって超えてみせますからっ」

 「タカヤ・・・」

 「言ったな。だったらユキハにうつつをぬかしてないで修行しろっ」

 せっかく立ち上がったのに、バカ兄貴によって多加弥は再び吹っ飛ばされた。

 「なんて野蛮なんだ。すでに武術でも何でもない」

 「一葉兄ちゃん、冷静に見てないで止めてよぉ」

 「やれやれ。ユキハの頼みなら仕方ないな」

 そして間に入った一葉によって、二人は共に道場から放り出されたのであった。


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