9話 舎弟誕生?
「……今日のところは穂香に免じて、これぐらいで許してやる。さっさと寮に戻って予習でもやれ」
ドッスン。
エルヴィスさんの許しと同時に、少年たちの縄は解かれ、勢いよく地上に落ちた。
……まだ、本当の意味で許されたわけではなさそうだ。
『姐さん、ありがとうございます! 一生ついて行きます!』
「え?」
さっきまで「おばさん」呼ばわりしてたくせに、今度は純粋な瞳で土下座される。
あまりの手のひら返しに戸惑いつつも――姐さん呼びは、ちょっと悪い気がしなかったりする。
横では、エルヴィスさんが呆れたように深いため息をついた。
……なんだかよく分からないけど、三バカに懐かれてしまったらしい。
「さっきは刃物を向けて本当にすまなかった。オレの名はアーロン。こっちがシャインとマスカットだ」
『よろしく!』
赤毛のアーロンは、気の強くガキ大将的な少年。何もかもが成長途中って感じ。
黄緑色髪の双子――シャインは、知的で大人びている眼鏡。マスコットはちょっとふっくらしていておっとり癒やし系。見た目は感じよさそうだけれど、中身は完全に問題児。 それにしてもシャインマスカットーー美味しそうな名前。
「私は穂香。エルヴィスさんの知り合いで、今日から助手をすることになりました。仲良くしてね」
異世界人ということは伏せて、愛想よく手を差し伸べる。
「なんだよ、てっきりエルヴィスの女かと思って、弱みを握れると踏んで襲ったのにな。勘違いかよ!!」
「まぁ、冷血鬼教師が彼女を学園に連れ込むはずがないか」
「ていうか、そもそも彼女いるわけないし」
「それもそうだな」
「さっさと帰らんか!!」
ゴンゴンゴンッ!
容赦なく振り下ろされたげんこつが、三人の頭上に炸裂。
見事に摘まみ出された三バカたちは、最後まで反省の色を見せなかった。
……ある意味、あっぱれだ。
「ようやく静かになったな。紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「では紅茶で。今度から私が入れるので、使い方を教えてください」
助手として、そういうこともちゃんとできるようになりたい。
そう思って、エルヴィスさんの隣にそっと寄り添う。
やっぱりエルヴィスさんの匂いなんだ。ずーっとかいでいたいリラックス効果がある薫り。
「ここにはキッチンの設備がないから、火の魔術で沸かす。誰でも使える基礎魔術だ。火をイメージして、タイミングよく発動すればいい。最初は発動の言葉を決めてみろ」
我に返り教えられた通り、心を落ち着かせて“火”をイメージする。
すると――心の奥でポッと火が灯った。
小さくて、ゆらゆらと揺れる。今にも消えそうなほど頼りない炎。
これをうまく発動すればいいんだね?
なんて言葉にしよう……。
「イグニション!」
英語の発音がカッコよくて、それだけの理由で選んでしまった。
ボワンッ!
火は発動したと同時に、一気に燃え上がり爆発寸前の勢いに。
「危ない!」
パチンッ。
エルヴィスさんが私を庇い、炎は一瞬でかき消えた。
「す、すみません!」
「いいや。謝るのは俺の方だ。お前のステータスを知っていながら、危険な行為をさせてしまった。本当に申し訳ない」
「え……どういうことですか?」
なぜか逆に謝られてしまい、首をかしげる。
「お前の魔力は異様に高いが、知識と運動は普通だろう? つまり、威力が強すぎて抑えきれない。そういう場合、学園長が特別にステータスを振り分け制御補助をつける。それを……俺は怠っていた」
なるほど、そういうことか。
私って、ここでもトラブルメーカーなんだな。
まだ出会って一日しか経ってないのに、エルヴィスさんには迷惑ばかりかけてる。
それでも嫌な顔ひとつせず、「拾ったからには責任がある」とか言うんだから……ほんと、真面目すぎる人。
「頼りにしてます」
「頼りにするのは学園長だ。あの人は俺とケインの恩師で、信用も信頼もある。お前が異世界人だと話しても問題ない」
「そうなんですね。じゃあ、話します」
ちょっと勘違いされてる気もするけど、表情が少し柔らかくなったから――まあ、いいか。
そんなエルヴィスさんを見ていると、心の中が温かくなって幸せな気分になれるんだよね?




