84話 新たなる刺客
「久しぶりね。護りし戦士たちよ」
「ルシアさん、無事だったんですね」
私たちの前に、オレンジ髪の気の強そうな少女が現れた。敵っぽい台詞を吐いているのに、リチャードくんはなぜかホッと胸をなで下ろす。
「相変わらずお人好しのバカね? あたしは今、あんたの敵なのよ? 喜んでどうするの」
「そう……ですよね。ですが私は、あなたとは戦いたくないのです」
肩をすくめ馬鹿にするルシアに、それでも諦めきれないリチャードくん。
二人は、どうやら親しい間柄だったらしい。
もしかしてリチャードくんは……。
何もできないと思っても、なにかできないかと考えてしまう。正直、余計なお世話だと思う。
「リチャードは下がれ。ここは俺がやる」
「もちろん俺も加勢するぜ。どうせ仲間がいるんだろうからな」
「あっ……」
埒が明かないと思ったのだろう。
エルヴィスさんは低い声でリチャードくんを退かせ、 クロさんも鎖がまを構え前に出る。エルヴィスさんは魔剣を作り出し、構えた。
「そうだ。オレもいる」
影と共に新手が現れ、不気味な笑みを浮かべる。
水色髪の不良っぽい青年。空気が一気に張り詰めた。
再び襲ってくる恐怖を感じながら、エルヴィスさんたちの邪魔にならないよう、敵の標的にならないよう、慎重になって距離を取る。
「穂香さん、大丈夫ですよ。もし何かあれば、先輩の代わりに私が護ります」
そんな私をテキサス様は優しく励ましてくれる。
「おいらたちも、いるからな」
「あの程度なら、俺たちでも倒せるからな」
シャインとマスカットも胸を張り、心強い台詞を言う。
ここに来るまでの敵や魔物は、二人でも倒せるレベルだったらしい。すっかり自信を取り戻し、自信満々な笑みを浮かべている。
頼もしいな。
「三人ともありがとう。お荷物になら……え?」
背後からも嫌な気配。三人目?
振り返ると、不良青年と似ている。笑顔が不気味な男性。
「あなたが、師匠が言っていた異物ですね。確かに能力はそれなりにありそうですが、メシアや護りし戦士たちには到底及ばない。となれば魔力供与の使い捨て、といったところですかね?」
私をじっと見つめ、勝手に分析する。
上出来すぎる評価に、にやけてしまう。
が、
後半部分が、気になり首をかしげる。
魔力供与の使い捨て……。それってどういう意味?
「穂香さん、聞く耳を持ってはいけません。結界を張ってください」
深く考える前に、強い口調で指示される。油断できない相手なのか、最大限の警戒をするしかない。
「はい」
慌ててグリップを握り、意識を集中する。
「お手並み拝見と行きますか?」
男は完全に見物気分で眺めているだけ。そんなことは気にせず、
「イグニション」
思いを込めて発動すると、宝石が光り、勢いよく回る。
キュアちゃんのおかげか、昨日より楽に、それでも頑丈だと思える。
なのに――
「なるほど。これがあなたの実力ですか? ですが――」
パリン
「え?」
結界は、男の手が軽く触れただけで、音を立てて呆気なく砕け散った。
――な、なんで……?
目の前で崩れゆく結界を見つめ、胸が締め付けられる。
手応えはあったはずなのに、どうしてこんなことに……。
理由がまったくわからない。
やっぱり私、援護もダメじゃん。
「思った以上にあなたは役立たずですね? その程度なら魔力量もたいしたことがなさそうですね」
「…………」
男の言葉が重くのしかかり、図星すぎて何も言えない。
「穂香さん、しっかりしてください。先輩も頑張っているのだから、泣いてないで、あなたも頑張ってください」
近くにいるはずのテキサス様の声が、遠くでこだましているように聞こえた。でも、その言葉は胸に届かず、足は震えて動けない。
「あなたも邪魔ですよ。私は彼女と話がしたいのです」
バシ
私を護るテキサス様は、男によって簡単に吹き飛ばされる。
衝撃音が響き、シャインとマスカットもいつの間にか倒れていた。
私が弱いのも当然だが、この人の強さはケタ違いに強い。
――やっぱり私、何もできない。
弱い自分を痛感する。怖くて、無力で、どうしたらいいのかわからない。腰が抜けそうになり、膝が震える。
「そんなに怯えないでください。今の私は単なる偵察です。師匠があなたの存在をとても気にしているのです」
男が近づき、賑やかに話すが、やっぱり不気味で怖い。腰が砕けそう。
「師匠って、デュークのこと?」
「ええ、あなたは一体何者なんですか?」
男の手が私のほほに軽く触れた。嫌な感触。
「穂香から、離れろ」
低く響く声。振り返ると、エルヴィスが立っていた。表情は冷たく、瞳には静かに怒りが宿る――敵に向けられた怒り。
心臓が張り裂けそうになる。怖くて、情けなくて、涙が出そうだ。
――私は、せめて、迷惑かけないように、ひっそり潜んでたい。
でも、今は……怖くて何もできない。
「穂香、もう大丈夫だ」
その低く揺るがぬ声に、少しだけ胸が落ち着く。
でも、後悔も、自己嫌悪も消えやしない。
私は、また……弱く、頼りなく、護られるしかないんだ。
「なるほど、そういうことでしたか」
「黙れ。デュークに言え。穂香を人質にしようものなら、俺が最も恐ろしい方法で殺してやる」
めちゃくちゃ低い声。迫力を超えた殺気で、男が押し負ける。
静かに、しかし確実にキレている。
「ハイハイ、わかりました。退散しますよ。あ、その娘はもういらないので差し上げます」
男は最後にそう暴言をさらりと言い残し、空間の奥へと消えていった。




