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83話 アドレナリンが切れたら


 軍法会議の声が、徐々に遠のいでいく。

 真剣に聞かなければいけないのに、集中が出来ず頭に入ってこない。

 背筋にぞくりと寒気が走った。


 私、もしかしてとんでもないことをやらかした?

 戦場に行くって、私が言った?

 “キュアちゃんがいるから足手まといにはなりません”

 ……は?

 どの口が言うの?

  

 どうもエルヴィスさんが絡むと大量のアドレナリンが分泌されるらしい。勇ましいことを言ってしまう。それは嘘じゃない。けれど、それを実現できるかは別の話だ。


 私が戦場に行って、何ができる?

 応援?

 戦場で暢気に応援なんて、ありえない。

 後方支援?

 キュアちゃんを使えば、なんとかなる……?


 いくら強力な武器があっても、私の戦闘力はゼロ。

 唯一の必殺技? だって、使えるのは一回。しかも今は病み上がりだから、それさえも危うい。

 そもそもデュークは四天王の一人で、仮面を操ってた。なによりエルヴィスさんより強い。どうやたって、私が太刀打ちできる相手じゃない。

 今さら最大級の恐怖が押し寄せ、指先から血の気が引いていく。呼吸がうまく出来なくなり、震えが止まらない。


「おい、姐さん。大丈夫か?」

「顔色、やばいぞ?」


シャインとマスカットが、いち早く異変に気づく。


「大……怖いんだ」


誤魔化そうとするも、声が震えていた。無意識にエルヴィスさんに視線を向けると、会議に集中していて気づかれていない……と思う。


「俺たちも、実はちょっと怖い」

「なんせあいつらは覚醒者で、メシアの加護持ちだ。戦力差は歴然だろ」


 口を揃えて言う二人の言葉に、妙に納得してしまった。


 世界を救う戦士なんだから、強くて当然だ。

 優等生の二人がそうなのだから、モブの私が戦地に出向くなんてありえない。


 良かった。

 撫子さんと一緒に後方支援に回りますなんて言わないで。


「じゃぁ、ここに残ろうか? ここなら着いていくよりも、まだ安全だってクロさんが言ってたよ」

「だったらそれもいいかもな?」

「だな。どうせ行っても足手まといだもんな」

『ハァ~』


 すっかり弱気になってしまった私たちは、そう言い合い大きなため息を同時に吐き出す。



「穂香、無理するな」


 低い声。

 顔を上げると、いつの間にかエルヴィスさんが目の前に立っていた。悲しげでもあり少し怖いそんな表情。


「ここから先は油断ひとつが命取りだ。覚悟があるなら俺は全力で護る。だが迷いがあるなら、ここに残れ。その方が安全だ」


 強い口調で言われてしまう。すっかり護りし戦士の顔に戻っている。

すっかりもとの強い彼の姿をみたら、。


「……はい。残って待ちます」


 安心してしまい、深く考えず頷く。


 残れと言われて、ほっとしている自分がいる。

 やっぱり私には無理なんだ


 しかし――


「先輩。残念ながら、それは不可能です」


 神妙な顔つきのテキサス様が、口を挟む。


「この空間は、我々が移動すると後方から順に消滅します」


 残酷でしかない現実を突きつけられ、目の前が真っ白になった。


「嘘だろう?」

「消滅ってどう言うことだ?」 


 シャインとマスカットは声をあらげる。


「文字通りです。存在ごと消えます」


 逃げ道は、最初からなかった。

 あまりのことに腰が抜けそうになるのを、エルヴィスさんが支えてくれた。


「穂香、大丈夫か?」

「………」


 なにも言葉が出てこない。


「穂香さん、落ち着いてください。あなたなら大丈夫です」

「そんなの無理。実力なんてないよ」


そんな私をリチャードくんは優しく励ましてくれたのに、私ときたら薄情にも強く否定してしまった。温厚なリチャードくんは、すっかり怯え視線を下げる。


「なぁ、旦那」


 クロさんが呆れたように、口を開く。


「ポンコツになれ」

「……は?」


 全くの意味不明発言に、エルヴィスさんは困惑しクロさんを唖然と見つめた。私もポカンとしてしまう。


「旦那が完全無欠になれば、穂香さんはか弱い護られるのが当然の女でいようとする」


 空気が張りつめる。


「だが旦那が弱さを見せれば、怖くても、震えても、立ち上がる」


 一拍。


「限界を越えてでも助けようとする。それが旦那の女だ」


 そう言いきり、ニタリと笑う。

 エルヴィスさんはわずかに目を伏せ――断言する。


「だったら俺は完全無欠を貫く。弱い穂香を護り抜く」

「それが覚悟か?」


 クロさんの思惑とは正反対の答えに、表情が鋭くなり問う。


「ああ、覚悟だ」


 迷いのない即答で、私の手をそっと包み込む。


 その決意に私の心は揺さぶられる。


「……キュアちゃん、私に力を貸してくれる」


 キュン


 震える声で呟くと、おとなしくしていたキュアちゃんは、力強く頷いてくれた。


 勇気は少しだけ湧く。

 恐怖は、なくならない。

 それでも、前に進むしかないんだよね。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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