82話 彼女の役割とは?
チュキュー。
みんなのもとへ戻る途中、キュアちゃんが一目散にこちらへ飛んでくる。
嬉しそうにお決まりのダイビング。けれど昨日と違って衝撃はなく、片手でも軽く受け止められた。
確実に成長を感じられて、ちょっと感動。
「キュアちゃん、お待たせ。いい子にしてた?」
チュン。
本当かどうかは分からないけれど、星をくるりと回転させ、誇らしげにうなずく。
うん、そう言うとこはまだまだだね。
「いい子ね? まぁ今回はそういうことにしてあげるぜ」
後ろからやって来たクロさんの顔には、数ヶ所の引っ掻き傷出来ていた。
血の気がさっと引く。
「……まぁ、悪くねぇ顔して戻ってきたな、旦那」
この件はまったく気にしないらしく、いつもの調子で隣の彼に声をかける。
でも、それでいいはずがない。
「キュアちゃんがご迷惑をおかけして、すみませんでした!」
全力で頭を下げ謝罪する。
「気にするなって」
「キュアちゃん。クロさんは仲間なの。ここにいる人たちは、な・か・ま。何があっても傷つけちゃダメ」
それでも私はステッキ部分を捕まえて、しっかり言い聞かせる。
いくら私のためだと言っても、いけないことはいけないと教えるのは、主としての責任。
……キュン。
ちゃんと分かってくれたのか、しょんぼりと小さくなる。
……子育てって、こんな感じなんだろうか?
子育て――。
私とエルヴィスさんの子はどんな感じなんだろうね? 私に似なければ、良いんだけど。
場違いで不純な妄想がよぎり、胸が高鳴り頬が熱くなっていく。
これから巨大な敵と戦うというのに、私ったら何を考えているの?
「どうやら穂香さんに任せて正解だったようだ」
「え?」
とてつもなく嫌な予感がする。
「旦那を立ち直らせるために、身体を張って癒やしてやったんだろう?」
「っつ!! してません!!」
耳元で楽しげに爆弾を落とすから、思いきり否定する。
かっとなり勢いのまま足を踏みつけると、クロさんは眉を細めた。
なんでそういうことになるの?
私はただ彼に寄り添って、少し手助けただけ。立ち直ったのは、彼自身。
それなのに、“そういうこと”だと思われるなんて心外すぎる。
それとも、男の人ってそうやって立ち直るものなの?
ひょっとして彼女の役目って、そういうことだったの?
確かに男の人は、獣だって言われている。
考えれば考えるほど、頭がパニックになる。
「穂香、どうした?」
幸い彼には聞こえていなかったらしく、心配される。
「な、なんでもありません」
しかし感情がセーブできず、言い方がキツくなった。
彼はビックと後退し、瞳が揺れる。
――まだ完全復活していないのに、私と来たら本当に馬鹿。
「クロさんのどアホ。もう知りません」
すべての元凶であるクロさんに、すべての怒りをぶちまける。
一人になってこの苛立ちを落ちつかせたいけれど、繋がれて手を振りほどくことは、絶対に出来ない。
そう強く思い、大きく深呼吸。そして繋いだ手をぎゅっと握り返す。
「エルヴィスさん、大丈夫です。私は離れません」
「知ってる。だがまだ感情を制御できない。情けないだろう?」
「そんなことないですよ。私なんていつも感情むき出しですから」
弱さを見せてくれたことが嬉しい。否定せず受け止める。
「なるほどな。それが穂香さんのやり方か」
ようやくクロさんに理解はしてくれたものの、どうも彼の中ではありえないものらしい。
「しかし旦那、そんな悠長にしてる時間はない。軍法会議だ」
ぶった切られ、厳しい現実を突きつける。
ごもっとも過ぎて、なにも言い返せない。
戦場はほんの少しの甘さも油断も許されない。彼もそれは十分理解して、それでも戻ることを決めた。
「分かった。すまない。気を引き締める」
完全に無理をしている彼の返事に、胸が締め付けられた。
まだ指が震えているのに、繋いでいる手を解かれそうになる。
「わ私も一緒に行きます」
「キュアアーティの役目は終わった。双子とここで待っててもいいんだぞ? 俺たちと行くよりか、いくらかは安全だろう」
「それでも行きます。キュアちゃんがいるから、足手まといにはなりません」
それでも、危険な方を選択する。
今のエルヴィスさんを、一人では行かせない。
キュアちゃんを握りしめて、そう強く決意する。




