79話 尽きることがない迷い
彼の隣。
固く繋がれた手。暖かい温もり。
ついさっきまでは、ここが私だけの特等席だと信じて疑わなかった。
自信もあった。
それに、撫子さんも言ってくれた。
「護りし戦士は、メシアのものじゃない」って。
でも――それは違った。
護りし戦士は、メシアを護るために選ばれた存在だ。メシアの剣であり盾。
実際、歴代の護りし戦士たちは皆、メシアを護り、そして散っていった。
それならやっぱり、
護りし戦士は――メシアのものなんだと思う。
……そりゃ、そうだよね。
メシアは、世界を救うたったひとつの希望。
私はただのモブでしかない。
私が死んだとしても、世界は何も変わらず、動き続ける。
そう思ったら、すぐ隣にいるはずの彼が、ずっと遠くに感じてしまう。
それでも私は、彼の傍にいたい。
だって、彼は今、私に愛情を注いでくれている。
距離を取るなんて、おかしいよね。
彼が私を必要としてくれるなら、それでいい。
それに仮面で学んだじゃない?
たとえ見返りがなくても、私は彼を愛してる。
って。
だからもう、後ろ向きなことを考えるのはやめよう。
とか思っても私のことだから、また考えてどつぼにハマるんだろうね?
キュキュ。
先を行くキュアちゃんは、左右に分かれた道を前にしても迷わず、道ではない草むらへ入っていく。私たちも後を追おうとした、その時だった。
岩場に、二人の青年が横たわっている姿が目に入る。
「……シャインと、マスカット?」
エルヴィスさんの驚く声に、私は思わず目を擦り、二人を交互に見つめた。
一人は、確かにシャインの成長後と言われれば、納得できる姿。
けれど、もう一人は――本当にマスカット?
ぽっちゃり体型だったはずが、見事なマッチョに変貌している。
誰かに体型のことを馬鹿にされて、見返そうと肉体改造したとか?
二年の月日が流れているなら、納得できなくもない。
アーロンの時もそうだけれど、成長期の二年って、本当にすごい。
「おい、二人とも起きろ」
いそいで駆け寄り、エルヴィスさんは二人の肩を揺さぶる。
「……エルヴィスと、姐さん?」
「……なんで?」
寝ぼけているのか、目は虚ろで反応が鈍い。
「それはこっちの台詞だ。しっかりしろ」
バン、バン。
今度は頬を少し強めに叩く。
「……は? エルヴィス、……姐さん?」
「……は、朝?」
ようやく完全に目を覚ました二人が声を上げる。
パッと見る限り、怪我もなく無事そうだ。
「……よかった」
思わず、声が漏れる。
「え、俺たち……なんでこんなところで寝てたんだ?」
「……甘い匂いがしたと思ったら、急に眠くなったような……?」
二人は状況を理解できていない様子で、周囲を見回す。
――甘い匂い?
「キュアアーティ。テキサス。こっちに来てくれ」
エルヴィスさんも同じことに気づいたのか、声を低くして呼ぶ。
「安心してください。二人は眠らされただけです。幻惑の影響もありません」
キュンキュン。
テキサス様は安堵したように肩を撫で下ろし、微笑む。
キュアちゃんも警戒する様子はない。
「なんともないなら、さっさと持ち場に戻れ。隊長が怒り狂ってるだろうな」
「うっ……確かに」
「おいらたち、黙って抜け出してきてたんだった」
エルヴィスさんの冷たい声に、二人は震え上がる。
詳しい事情は分からないけれど、勝手に抜け出したのだろう。
二年経っても、問題児は問題児らしい。
二人が言うには、夜中にアーロンと村で会う約束をしたそうだ。
撫子さんのことは知らないと言っているけれど、二人が一緒に旅館を出た証言はある。
つまり村へ向かう途中、幻惑魔術によって別の場所へ誘導された。
それがクロさんの結論だった。
「すまんが、俺たちは戻る。アーロンと撫子が見つかったら連絡してくれ」
「絶対だぜ?」
二人はそう言って戻ろうとするが――
ゴン。
「……あれ?」
「なんだこりゃ?」
見えない何かに弾かれる。
「まさか……結界?」
「ああ。どうやらオレたちは、まんまと敵の罠に嵌ったらしいな」
エルヴィスさんとクロさんが冷静に判断した、その瞬間。
辺りは、一気に暗闇へと沈んでいく。




