78話 手がかりを探そう
アーロンと撫子さんの行方の手がかりを探すため、私はキュアちゃんと一緒に撫子さんの部屋を捜索していた。
キュキュチュ!!
「え、キュアちゃん?」
突然、キュアちゃんが悲鳴に近い声を上げ、私に飛び付いてくる。小さな体がガタガタと震えていて、恐怖しているのがすぐに分かった。
何かある。
そう思って周囲を見回すと、部屋の片隅に紫の花びらが一枚、落ちていた。
微かに甘い香りが鼻をくすぐる。
――嫌な匂い。
直感がそう告げている。
それでも手がかりになるかもしれないと、手に取ろうとした瞬間。
ベチッ。
キュアちゃんに叩かれ、止められた。
まるで、
――触れるな。
そう言われているみたいだった。
「そんなに危険なものなの?」
キュキュ……
「なら、みんなを呼んでこよう」
緊急事態だと悟り、私は急いでエルヴィスさんたちを呼びに走った。
「これは、満月妖花です。満月の光を浴びると咲く花で……花粉には麻薬の一種が含まれている」
草花に詳しいリチャードくんに見てもらうと、即座に花の正体が判明した。
「こんなものが、どうしてここに……?」
非常に危険な代物らしい。
だからこそキュアちゃんは脅え、私が触れようとすると必死に止めたのだ。
「ありがとう、キュアちゃん」
キュー。
感謝すると、キュアちゃんは少し嬉しそうに鳴いた。
「……術式が発動した形跡がありますね」
続いてテキサス様が信じられないというように息を漏らす。
「しかもこの術式は複雑。術者は相当の強者でしょう」
「それはつまり……メシアが狙われたということか?」
「おそらく……です。すみません、それ以上は分かりません」
「キュアアーティ。術式の痕跡を追えるか?」
私は足手まといになるだけだと判断し、そっと身を引こうとした。
その時だった。
クロさんがキュアちゃんを名指しする。
冷静に見えるのに、その眼差しは焦りと緊張を帯びていた。エルヴィスさんも同じだ。険しい表情で私たちを見つめている。
キュアちゃんは何も答えず、私の背後に素早く隠れた。
追える。
でも追いたくない。
そんな怯えが伝わってくる。
「クロ、キュアアーティは穂香と離れて行動できるか?」
ようやくエルヴィスさんが慎重に問いかける。
「まだ覚醒したてだから、二・三㎞が限界だろうな? それ以上離れれば、本能的に主を探し始める」
「それなら却下だ。穂香を連れて行くわけにはいかない」
クロさんの答えに、エルヴィスさんは首を横に振った。
あ……私のことを考えてくれているんだ。
「だが、メシアの危機だぞ? 使えるものは使う。それが一般人だろうと」
「それでも俺は反対だ」
「ダンナ、私情を挟むな」
「挟んでない。とにかく別の方法を探す」
「今は護りし戦士が動く局面だ。メシアを第一に考えろ」
二人の言い争いの中、クロさんの視線が鋭く光る。正論を突きつけられたエルヴィスさんは、悔しそうに口を噤む。
クロさんにとって、メシアのためなら一般人が犠牲になろうと関係ない。
仲間だろうと、私だろうと例外ではない。
それが護りし戦士の当たり前。
だからエルヴィスさんは、言い返せない。
「クロさん、言い過ぎです。私が術式の痕跡を追います」
「私も、この辺りに満月妖花が生息しているか調べます」
テキサス様とリチャードくんは冷や汗をたらしながらも前に出る。
だがクロさんは容赦なく睨みつけた。
「すぐにできるのか?」
「いいえ。三……いえ二時間は必要です」
「同じく」
「話にならん」
圧倒的なクロさんの威圧に、二人は数歩後退し言葉をなくす。
カオスな状況……。
しばらくしてクロさんは大きく深呼吸し、頬を軽く叩いた。
「すまない。メシアという希望を失うかもしれないと思ったら……熱くなった」
少し間を置き、続ける。
「ダンナも落ち着け」
ニヤリと笑う。
――あ、これがいつものクロさんだ。
「そもそも穂香さんを旅館に一人置いていけないだろう? ここも安全じゃねえ」
「……そうだな」
ごもっともすぎる指摘に、エルヴィスさんはハッとする。
私も思わず頷いた。
どちらにしても私は危険な場所にいる。
「メシアのためなら多少の犠牲は仕方がない。それは事実だ。キュアアーティが使えるなら、主の穂香さんにも同行してもらう」
クロさんの声は落ち着きつつも力強い。
「ただし、ダンナが穂香さんを護れ。メシアは俺たちが全力で護る。――それでいいな?」
『はい、もちろんです』
具体的な案が示され、ようやく場の空気が少し緩む。
テキサス様とリチャードくんも、我に戻り力強く頷いた。
「分かった。穂香のことは俺が護る。だから……俺の傍にいろ」
エルヴィスさんの手が強く握られ、鋭い眼差しで、約束を強要される。
私は黙って頷き、強く握り返す。
でも――鈍感な私でも分かってしまった。
今は護りし戦士が五人いる。
だからエルヴィスさんは、私を優先して護ってくれるだけ。
もし護りし戦士が減って、私か撫子さんか、選択を迫られたら。
私はきっと選ばれない。




