77話 メシアの役割
「あれ、撫子も一緒に来たんだな?」
「久しぶりだね」
村の入り口で、お久しぶりの双子が待っていた。
シャインは変わらぬ姿だったけれど――
あのぽっちゃりしていたマスカットが、がっちりしたいい男に変貌している。
それになんでだろう。
同級生から軍人になったからなのか、私が知っている双子ではない気もした。
とにかくあまりの変化に、思わず言葉が漏れる。
「……マスカット、格好よくなったね? 別人みたい」
挨拶より先に、率直な感想が出てしまう。
「ありがとう。入隊してから食事制限がきついし、訓練も過酷でさ」
「訓練はそうかもしれないが、食事制限は普通だ。お前が食べすぎていただけだろ」
あっけらかんと答えるマスカットに、シャインが苦笑しながら突っ込む。
相変わらずのようで、少し安心する。
――でも。
二人はもう、すっかり軍人になっていた。
ついこの前まで学生だったはずの同級生が、こうして戦地に駆り出されている。それでも戦局は、いつまでも劣勢のまま。おまけに敵の幹部クラスの全貌も未だに掴めていない。
どうにかして形勢逆転を狙いたいのに、まだ何かが足りない。
それとも――
私が、メシアとして未熟だから?
……そもそも私は、本当にメシアの器なんだろうか。
メシアよりもむしろ――
「撫子、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない」
深く考えすぎる前に、私は首を振った。
「じゃあ私はライラくんの様子を見てくるから、いったん外すね」
本来の目的を切り出し、なに食わぬ顔で抜けようとする。
ライラくんの家はすぐそこだ。一人で行っても危なくない。
「オレももちろん一緒に行くぜ」
なのにアーロンは当然のように言った。
「なんだ。こんな夜中に任務か?」
「お前らも相変わらず大変だな」
「違うの。胸騒ぎがして、どうしても気になっただけ」
訂正したはずなのに――
「胸騒ぎね? それはつまり、メシアの導きってやつか」
勝手に話が大きくなる。
違う。
これは私の勘であって、メシアの導きじゃない。
双子を含めたこの世界の人たちにとって、メシアは神の子。
やることなすことすべてが奇跡で、補助系魔術のエキスパート。
護りし戦士たちも、どこかでそう信じている。
だから戦闘の援護は、すべてメシアの役目。
期待に応えるのに必死で、息が詰まりそうになる。
「……そうじゃないと、ありがたいんだけどね」
イメージを壊さないように、苦笑しながら話を合わせた。
本当は――
全部ぶっ壊してやりたくなる時だってある。
「そりゃそうだ。そんじゃ行くか!」
アーロンだけは、遊園地以来、私を“私”として見てくれるように……なった気がする。
だから彼は、メシアの導きだなんて本気で思ってない。……たぶん。
「俺たちも同行するぜ?」
「当たり前だよ」
双子も快く頷いてくれる。
「ありがとう」
こうして結局、四人でライラくん家に行きことになった。
「うわぁ、本当に来てくれたんだ」
「え、ライラくん?」
ライラくんの家に行くと、夜中にもかかわらず彼は起きていた。
無邪気な笑顔を浮かべながら私のもとへ駆け寄ってくる。
私がここに来ることが分かっていた?
どうして?
何もかもが不自然すぎて、思わず警戒してしまう。
それはアーロンの同じのようで、私を守るように一歩前へ出た。
「本当に来てくれたって、どういうことだ?」
アーロンが低い声で問いかける。
「パパに教わった通りに、お姉ちゃんの夢に入り込んで呼んだんだ。助けてって言えば、夜中でも来てくれるって」
悪気なく答えるライラくん。
けれど、その内容は余計に理解できなかった。
「夢に入り込む? そんなこと、お前みたいなガキにできるわけないだろ」
「うん。だからパパにしてもらったの。僕のパパ、すごい幻惑魔術師なんだよ。久しぶりに帰ってきて、お姉ちゃんの話をしたら、今すぐ呼んでほしいって頼まれたんだ」
――なんで?
会話は成立しているのに、理解したくないという拒否反応が胸の奥で暴れる。
だって理解してしまったら……。
「ねぇ、パパ?」
「ああ、ライラ。よくやった。自慢の息子だ」
ドアが開き、男が現れる。
中肉中背で、一見どこにでもいそうな男。
なのに、ただならぬ気配をまとっていた。
この気配……どこかで。
「お前は――あのときの四天王の一人」
アーロンが呟き、私の手を強く握る。
思い出した。
あれは三ヶ月前。
四天王の二人と戦い、一人を倒し、もう一人も追い詰めた。
――なのに、この男が現れた途端、形勢は一気に逆転されてしまった。
エルヴィスさんは致命傷を負いながらも、なんとか私たちを男から護ってくれ、命からがら逃げきれた。
「あのときはどうも。我が名はデューク」
男は穏やかに笑った。
「今夜はエルヴィスがいないようだな。仮面を打ち破った真相を聞きたかったんだが」
「は……仮面はテメェの仕業だったのか?」
真相が突きつけられ、アーロンの怒りが爆発する。
――今まで、エルヴィスさんが自ら仮面を被っていたと思っていた。
でも違ったんだ。
「そうだよ。メシア最大の剣と盾を削げば、お前たちの士気は確実に崩れると思ってね。できることなら、こちら側に引き込む算段だった」
「残念だったな。エルヴィスがそんなまやかしに負けるわけねぇだろ」
アーロンは強い口調で言い放つ。
穂香さんのことを隠している。
とっさにそう思ったから、私は何も言わず見守る事に。
「果たしてそうだろうか? まあいい」
デュークは淡々と告げる。
「メシアを捕まえれば、すべてが終わる。――お前たち、二人を捕まえろ」
『はい』
命令と同時に、双子が動き出す。
と思ったら、双子ではなく黒い二つの影。
唖然とする私たちは、簡単に影に捕まってしまった。
一体、なにが起きてるの?




