表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/89

76話 始まりは、胸騒ぎ


「お姉ちゃん、助けて……」

「ライラくん……え?」


 自分の寝言で目を覚まし、身を起こす。

 起きた瞬間、夢と現実の境界がつかず、辺りを見回して思わずライラくんを探してしまった。

 ライラくんは村で出会った8歳くらいの男の子。とても可愛く、素直で、すぐに打ち解けて仲良くなったんだ。


――なんだ、夢か。


 しばらくしてようやく夢だと自覚し、肩をなで下ろしホッとする。

 するとどこからともなく甘い香りが漂い初め、薫りの元を探せば、窓辺に飾った花の蕾が咲いていた。

 蕾は真っ白だったのに、花びらは淡い紫色に変わっている。


「お姉ちゃん、この花は満月の光を浴びると咲くんだよ」


 とびっきりの笑顔でライラくんはそう教えてくれたことを、思い出す。


 なぜか分からないけれど、胸騒ぎがする。


 村へ行って、様子を見てこよう。


 時計を見ると、もう十二時過ぎ。

 みんなはきっと寝ているだろう。

 無理に起こして同行を頼むのは、さすがに気が引ける。


 少し前なら、エルヴィスさんがいつでもスタンバイしていた。

 でも今は仮面が外れ、療養中。しかも恋人である穂香さんと同室だ。

……いろんな意味で無理だ。

 そもそも、仮面のエルヴィスさんが異常で、今が正常なのだ。


……クロさんにしよう。


 考えた末、比較的すぐに起きてくれそうなクロさんにお願いすることに決める。

 花を持って部屋を静かに抜け出し、クロさんが泊まっている部屋へ向かった。


「うわぁ……きれい」


 満月の光が照らされた日本庭園は幻想的だった。

 思わず足を止め、見とれてしまう。

 水面がきらきらと輝いている。

 甘い花の香りが、更に強くなっていく。


「……撫子?」

「え? アーロン?」


 呼ばれて声の方へ視線を向ければ、そこにはアーロンがいた。

 頬がかすかに赤い。


「こんな夜中にどうかしたのか?」

「うん、それなんだけど……アーロン、今から私と一緒に村まで行ってくれない?」


 ここでアーロンと会ったのは何かの縁だ。

熟睡中だろうクロさんを起こすよりも、今目の前にいるアーロンに頼む方が良い。


 そう思ったから、頭を下げてお願いする。


 アーロンは私と同い年で、元気で明るく、人懐こい少年。

 私とすごく気が合って――友達以上、恋人未満……そんな距離感。

 だから、同行してくれたら心強い。


「まさか夜遊びか?」


 想定外の反応だった。


 アーロンのことだから反対されないと思っていたけれど……理由を言わなければ、夜遊びだと思われても当然か。


「え、違うよ。ライラくんが気になって……様子を見に行きたかったの」

「なんだ、そういうことか。オレもちょうど行くところだったから、一石二鳥だな」


 事情を話せばすぐ誤解は解けた。

 けれど――聞き捨てならない言葉が返ってくる。しかも屈託のない笑顔で。


 アーロンが夜遊び……?

 ああ、あるかもしれない。


「なにしに行くつもりだったの?」

「シャインとマスカットの部隊が近くでベースキャンプしているらしくてさ。村でちょっくら会うことにしたんだ」

「え、そうなの? 私も会いたい」


 まさかの名前に、私のテンションも上がる。

 私がメシアとして召喚されてしばらくは王都学園に通っていて、アーロンのクラスに在籍していた。そのときのクラスメイトだったアーロンと親友の双子。今は学園は休校となり、軍隊に所属している。


「そうだな。あいつらも喜ぶ。……本当は姐さんを誘いたかったんだが、エルヴィスがいるからな」

「エルヴィスさんも誘えばよかったじゃない? 仮面が外れて元の彼に――」


 何気なくそう言い終わらないうちに、アーロンは青ざめ脅え出す。


「お前は優等生だから知らないと思うが……あいつを怒らせたら、すげぇ怖いんだ」

「あっ……」

「そりゃオレたちが悪いのは分かってる! 分かってるんだが、それでもだ!!」


 完全に怯えた子犬状態になっていた。

 風が吹き、葉が重なり合う音さえ、恐怖を増幅させる。


 確かにエルヴィスさんは他人にも自分にも厳しく、たまに言葉に棘があった。筋が通らないことや無茶をすれば雷が落ちる。

 滅茶苦茶怖い。

 私も何度か体験したことがあるから、よく分かる。

 でもそれは愛情があるからで、アーロンもそこは理解している。から尊敬もしている。


「そしたら村までついてきて、シャインとマスカットも含めてお説教しそう」

「うっ……ありえる」


 さらに顔が真っ青に染まった。

 私も背筋に悪寒が走って、恐怖を感じる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ