74話 キュアアーティ
「キュアアーティ、か」
「はい。略してキュアちゃんです」
キュー。
ようやく戻ってきた彼に、クロさんから聞いた話と、名前をつけたことを報告する。
彼は渋い顔をしたまま、名前を小さく復唱した。
相変わらず私にべったりのキュアちゃんだけれど、さっきとは違い、彼を私の肩越しにそっと観察している。
クロさんの言う通り、本当に私に“絶対忠誠”なのだろうか。
「キュアちゃん。さっきお願いした通り、エルヴィスさんは私の彼氏で、世界で一番大切な人だからね。仲良くしてくれると、嬉しいな」
優しく、念を押す。
キュピッ!!
キュアちゃんは元気よく返事をすると、彼のもとへ移動し、宝石を光らせながら全力で愛嬌を振りまいた。
彼は戸惑った視線で私に助けを求める。こういうの、慣れていなさそう。
……ちょっと可愛い。
「エルヴィスさんも、仲良くしてくださいね」
「……仲良く。努力はしてみる」
そう言ってはくれたものの、不満が顔に出ている。
あまり期待はできなさそうだ。
「してくれないと、私、すごく困ります。……夜は、一緒に寝たいです」
必殺、しおらしくお願い。
彼の胸元に指でのの字を書きながら、上目遣い。
「……っ!! わ、分かった。仲良くする。キュアアーティ、仲良くしよう」
――クリティカルヒット。
彼は目の色を変え、ハートの宝石を撫でて機嫌を取ろうとする。
気持ちいいのか、キュアちゃんはふにゃふにゃになり、彼に身を委ねた。
……とりあえず、仲良し作戦は大成功、かな?
「嬉しいです。それにしても……どうしてキュアちゃん、いきなり意思を持ったんでしょうね。ステッキになってから、もう四日経ってるのに」
ふと浮かんだ疑問を、独り言のように口にする。
なぜ“今”なのだろう。
普通なら、ステッキになってすぐじゃないの?
「それは、穂香の魔力がキュアアーティに馴染み、体調も回復したからだろう」
チュルル。
彼の仮説が正しかったのか、キュアちゃんは声を上げる。
拍子抜けするほど、あっさりと疑問は解決した。
「本当に動いてるんだな? それで、名前は?」
「可愛い子ですね」
夕食会場にキュアちゃんを連れていくと、すでにクロさんから事情は聞いていたらしい。
アーロンと撫子さんが目を輝かせて駆け寄ってきて、キュアちゃんを舐めるように観察する。
アーロンは「やっぱりな」という反応だったけれど、撫子さんは意外だった。
しかも、第一声が「可愛い」。
警戒されると思っていたから、少し拍子抜けする。
キュー。
驚いたのか、キュアちゃんは私の背後に隠れてしまった。
……意外と臆病?
「キュアアーティ。仲良くしてね?」
母親気分でそう紹介し、キュアちゃんを前に出す。
「かっけぇ名前だな。オレはアーロンだ。アーティって呼んでいいか?」
「私は撫子。私はキュアちゃんって呼ばせてね」
二人とも距離を詰めてくる。
私でも少しキョドる勢いだ。キュアちゃんに至っては、完全にフリーズ寸前。
「二人とも。キュアアーティが困っているだろう。少し落ち着け」
今まで黙っていたエルヴィスさんが前に出て、キュアちゃんを庇いながら二人を制した。
『すみませんでした』
ハッと我に返った二人は、同時に頭を下げる。
キュ? チュアチュア。
完全ではないけれど、少しだけ許したらしい。
そのまま、キュアちゃんはエルヴィスさんの側に寄っていく。
「アハハハ、なんだよ旦那。すっかり父親だな」
「叔父上らしいですね」
「ですね。先輩は、なんだかんだで面倒見がいいですから」
クロさんが豪快に笑いながら軽口を叩くと、リチャードくんとテキサス様は微笑ましそうにそれを見守っていた。
「違う。これは穂香に頼まれて、仕方がなくだ」
キュルル。
エルヴィスさんの顔が真っ赤に染まり、キュアちゃんと距離を取ろうとするが、当然のように失敗する。
すぐに距離を詰められ、すりすりと甘えられていた。
「二人とも、仲良くしてくれてありがとうね?」
そんな様子を見ていると嬉しくなって、自然と笑顔がこぼれる。
するとキュアちゃんは、今度は私のもとにも来て、エルヴィスさんと私の顔を交互に見つめた。
キュキュ~。
そして、私たちに寄り添う。
その光景を、アーロンと撫子さんが羨ましそうに見ていたのは、言うまでもない。
その夜、エルヴィスさんが用意してくれたふかふかなクッションの上で、キュアちゃんは丸くなり、すやすやと眠りについた。
――武器なのに、眠るんだね。
それが、なんだか意外で、少し可笑しかった。




