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67話 アラサー、笑われる


「アハハハ」


 アーロンがお腹を抱え、涙を浮かべながら声を上げて笑い出した。

 これ以上ないくらいの大笑い。

 どうやら完全に彼のツボに入ってしまったらしい。

 仮面戦の話をした直後だったから、理由は明白だった。


「名誉のために言っておくけど、あれは絶対に私の趣味じゃないからね」


 壁に掛けかけてあるステッキに視線を向けてから、誤解がないよう強く宣言する。


 クロさんからはエルヴィスさんの想いが純真無垢だからだと言われたけれど――

 やっぱり認めたくはない。


「それは分かってる。でも、そういうところが姐さんらしくてさ。アハハハハ」


 誤解はされていないのに、納得されてしまい、さらに笑われる。

 訳も分からず隣の彼に助けを求めると、なぜか彼は笑いをこらえながら視線を逸らした。


 え、どういうこと?

 なんでエルヴィスさんまで笑ってるの?


 あなたのために、なんて押しつけがましいことを思うつもりはないけれど、それでも――


「叔父上、それはいくらなんでも穂香さんに失礼です。私は、穂香さんは格好良くて、とても素敵な女性だと思います」


 私の代わりにあの温厚なリチャードくんが強い口調で失跡してくれたけれど、後半の台詞があまりにも真っ直ぐで、顔が一気に熱くなる。


 ……リチャードくん、真面目だけど天然だよね?


「いや、悪い。そういう姿の穂香を想像したら、つい」


 ――一体、どんな想像をしてるんですか?

 私がロリータファッションなんて着たら、普通にキツいから。


「アハハハハ!」


 言うまでもなく、アーロンはさらに笑い転げる。

 それにつられて、リチャードくんまで吹き出す。


「みんなして、ひどい! もう使わないから!」


 頬を膨らませ、そう言い放つ。

 子供っぽい態度なのは分かっているけれど、こればかりは仕方がない。悪いのは三人なんだから。


 それに私は、またモブに戻って、クレアさんと一緒に帰ってくる場所を守るだけだ。

 ステッキはもう使わないだろうし、後でクロさんに返そう。魔族の秘宝なんて、持ち続けるものじゃない。


「悪い、謝る。だからそんなこと言うな。姐さん、覚醒者だろ?」


 ようやく涙を拭い、笑うのをやめたアーロンが、今度は真顔でそう確認してくる。


 覚醒者。


 多分、能力覚醒したってことなんだろうけど……そんなにすごいこと?

 確かに怪我の痛みは軽減されたけれど、怪我そのものが治ったわけじゃない。

 エルヴィスさんはステッキのおかげで大半が治癒したらしい。

 つまり、すごいのはステッキで、私の覚醒なんてたかが知れてる。


「そうだけど……その覚醒者って、なに?」

「覚醒はレアな現象なんだ。ステータスが一気に跳ね上がる。覚醒者は国から重要なポジションを与えられる。俺も護りし戦士になった時、覚醒した」


 アーロンは興奮気味に語る。


 情報量が多すぎて、頭の処理が追いつかず、数秒フリーズしてしまう。


 ……なにそれ。

 そんなはずないよね?

 私が、そんなすごい覚醒をするわけがない。

 だって現に、私は何も変わってない。


「えーと……覚醒者ってこと、内緒にできないかな? 多分、私の覚醒は大したことないし、騒がれて落とされるの、嫌なんだよね」


 “大したことない覚醒者”なんて前代未聞のレッテルを貼られたら、アスラーク中の笑い者だ。

 想像しただけで胃が痛い。


「そんなことありません。穂香さんは、私なんかよりずっとすごいです」

「あ、ありがとう……」


 なのに、リチャードくんから本気で持ち上げられてしまう。


 そんなふうに言われたら、調子に乗りそうなんだけど?


「叔父上、穂香さんは本当にすごいんです。何があっても、決して叔父上を諦めなかった。それなのに私は――叔父上を……」

「もう、リチャードくん。そんなこと言われたら、照れちゃうじゃない?」


 突然、触れてはいけない話を暴露しかけるから、私は必要以上におちゃらけて遮った。


 エルヴィスさんなら、リチャードくんが「見捨ててください」と言ったことを知っても、

「仕方ない。気にするな」で終わらせる人だ。

 ……内心では、少し傷つくと思うけれど。


 そういう人だから。


「叔父上……すみません」


 どうやら私の機転は裏目に出たらしい。

 リチャードくんは涙をこらえ、部屋を飛び出してしまった。


「すまない。少しリチャードと話してくる」


 私たちのやり取りを察したエルヴィスさんは、それだけ言い残して急いで追いかけていく。


 私と言う人はまた余計なことをしてしまった。

 でも二人で話す機会を作れたんだから、結果オーライだよね?



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