7話 ステータスカード交換の意味
「ご注文の品をお持ちしました」
なんて言っていいのか迷っているうちに、元気な声が割り込んだ。
ウエイトレスさんがテーブルに料理を並べ、にっこり笑ってお辞儀をする。
「ごゆっくりどうぞ」
私はチーズハンバーグ定食。
エルヴィスさんはチキンカツ定食。
想像以上に肉厚で、チーズがとろりと溶けている。
香ばしい匂いに、心まで奪われてしまいそうだ。
「冷めないうちに食べよう」
「ですね。いただきます!」
すすめられて、早速フォークを手に取る。
ハンバーグを一口大に切って、ぱくり。
――肉汁ジュワー、チーズジュルリ。
口の中で二つが絡み合って、まさにパラダイス・ハーモニー!
ピリッとしたソースの辛さがアクセントになって、ご飯との相性も最高!!
フォークが止まらず、夢中で食べていると。
「そんなに美味しいのか?」
「はい、すごく美味しいんで──はっ!?」
思わず顔を上げると、エルヴィスさんが穏やかに笑っていて、キラキラした目でこちらを見ているもんだから、視線が離せなくなる。
な、なんでそんなに絵になるんですか……!?
「どうかしたか? 顔が赤いぞ?」
「え、あ、その……か、辛いソースがかかってたみたいで!」
――死んでも「見惚れてました」なんて言えない。
苦しい言い訳に、エルヴィスさんはじとっとした目を向けてくる。
「そんなに辛かったか? まぁいい。ところで穂香、俺の助手をやらないか?」
「えっ、助手!?」
あっさり話題を変えられ、驚きの好待遇が飛び出した。
「そしたら空いた時間に魔術の基礎を教える。もちろん助手の給料も出す」
「え、い、いいんですか!?」
考古学者で教師でもある彼の助手――つまり、雑用? いや、言語翻訳か。
古文書の解読なら、私にも簡単に出来るはず。
「もちろんだ。言っただろう? 面倒を見るって」
「わかりました! 精一杯がんばります!」
俄然やる気が湧いてくる。
早くこの世界に慣れて、独り立ちしなきゃ。
「期待している。……ところで、カードを返してもらえるか? お前のも返す」
「あ、はい。参考になりました」
ステータスカードを交換する。
「参考に? 男の“性欲”にか?」
「え、そこ!? それは見てません! っていうか、私の見ました!?」
まさかの切り返しに頭が真っ白。
彼の顔も真っ赤だ。
その反応は絶対に見た。いくら並とは言え、見られたことが恥ずかしい。顔から火が出そう。
そんなことより気にするってことは、もしかして“上”とか“強”……?
仕事が恋人って言っていたのに、実はむっりスケベだった?
……………。
……健康な成人男性。独身。……まぁ、普通……なんだろう、たぶん。
「すまない。なら俺のも見ていい」
「みません。し、知りたくありません!」
他人の性欲なんて興味なんかないから、思いきり声を張り上げてしまう。周囲の視線が一斉にこっちに向く。
恥ずかしすぎて椅子に沈み、黙々と食べるのを再開する。
「では、何が参考になったんだ?」
「加護のことです」
「ああ、浄化の力と心眼か。良くある普通の加護だが?」
しばらくしてお互いに冷静になれた頃、再び会話が始まるもきょとんとされた。
普通……? いやいや、浄化の力はそうかもでけれど、“心眼”はどう考えても普通じゃないでしょ!
私の知ってる“心眼”は、五感が発達していて、心理の奥底まで覗けるレアスキル。
だから相当な苦労があったんだろうと思って、聞くに聞けなかったのにそうじゃない?
「えっと、心眼って?」
「五感のいずれかを強化できるものだ。俺は全部だがな」
「それ、普通じゃないです!!」
――やっぱりこの人、エリートの中のエリートだ。
……むっつりスケベだけど。




