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64話 魔法少女の多様性


 手の中の秘宝が、むくむくと形を変え始める。

 そして――


「……は?」


 いつも冷静沈着なクロさんが、ついに思考停止した。

 オーバーヒートした機械のように、ぴたりと固まっている。

 私も、ほぼ同じ状態だった。

 というか、現実を受け入れたくない。


 だって――術者に合わせた武器に変化すると言っていたのに。


 グリップ部分は白と淡いピンクで彩られ、

 先端には大きなハート型の宝石。

 その中心で、金色の星がきらきらと回っている。


 ……どう見ても、魔法少女のステッキ。


 最近の魔法少女も多様性の時代。

 年齢も性別もいろいろなのは知ってるけど――

 私、アラサーですよ?

 いくらなんでも、恥ずかしすぎる。


「何をどうやったら、こんな形状になるんだ……?」

「知りません。私はただ、エルヴィスさんを助けたい、力になりたいって……それだけを願いました」


 我に返ったクロさんに眉をひそめて問い詰められるけれど、正直、聞きたいのはこっちの方だ。


 私はただ、クロさんの言われた通りにしただけなのに。


 しばらく考え込んだあと、クロさんは腑に落ちたのか失笑する。


「……なら、しょうがねぇか」

「え?」

「穂香さんの“旦那”への想いが、何よりも純真無垢だからな」


 勝手に話が壮大な方向へ進んでいく。


 一部始終を見ていたはずなのに、それでも「純真無垢」と言えるの、すごくないですか?

 そんなこと言われたら、このステッキを本当に使いこなせる気がしない。


「――ぐぁはっ!」


 その瞬間、エルヴィスさんの防御が突破された。


 仮面の一撃に吹き飛ばされ、岩に叩きつけられる。

 鈍く、嫌な音が浜辺に響いた。

 血を吐きながらも、それでも彼はふらふらと立ち上がる。


 ――だめだ。


 形がどうとか、恥ずかしいとか、 そんなことを考えている場合じゃない。


 私が愛する人を、助けられるなら。

 そのためなら、なんだっていい。


 心の奥に、ふわりと浮かぶ感覚。

 温かくて、優しくて――確かなもの。


 考えるより先に、身体が理解していた。


 これを、使えばいい。


 仮面の好きになんてさせない。

 ここで終わらせる。


「イグニション!!」


 グリップを両手でぎゅっと握りしめ、強く言葉を発し発動させる。


 ハートが眩しく輝き、星が勢いよく回転を始めた。


 淡い光が空へ舞い上がり、巨大な魔法陣が形成される。


 そこから解き放たれた、

 星とハートの粒子が、雨のように降り注ぐ。


 エルヴィスさんには、ハートの粒子。

 傷口を優しく包み込み、塞いでいく。


 仮面には、星の粒子。

 星の鎖となって、動きを封じ、力を縛りつける。


「何をした……!? 力が……!」


 仮面が苦悶の声を上げ、攻撃が止まる。


「旦那! 今だ!!」

「――はっ!」


 クロさんの叫びで、エルヴィスさんが我に返り、仮面へと突進する。


「これで終わりだ!」


 炎の刃が振り下ろされる――が、

 仮面はぎりぎりで回避する。

 鎖は、もう少しで引き契ぎられそうだった。


「まだ……終わらねぇ……」


 声は相変わらず威勢がいいものの、

 もう余裕はない。


 ――もう一発。


 そう思った瞬間、

 頭を締め付けられるような激痛が走る。

 視界が揺れ、

 錘を背負ったように身体が重く、立っているのもつらい。


「穂香さん? ……魔力切れか? ダメだ。それ以上魔力を使うな」


 私の異変に気付いたクロさんが血相を変えそう呟き、手を差し伸べる。


「……ううん、まだ……」


 まだ、やれる。


 グリップを握り直す。


「――イグニ……」


 集中力が途切れ、うまく魔力を感じられない。

 声も思うように出ない。


 これが限界だと自覚しながらも、

 揺れる視界に映るのは――


 懸命に戦う、彼の姿。


 また仮面に押されているのに、

 目は、まだ死んでいない。


 諦めてはいない。


 だったら、私も。


「イグニション!!」


 今あるすべての力を、叩き込む。


 再び魔法陣が形成されていく。


 これで勝てる。


 なぜか、そう確信した瞬間――

 力が抜け、私は崩れ落ちた。


 意識が、ぷつりと途切れる。



 彼の最後の雄姿を、見ることはできなかった。



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