58話 メシアの正体?
58 メシアの正体?
「へぇ~、こんなところに遊園地なんてあったんだ」
「エルヴィスに連れてきてもらわなかったのかよ?」
異世界の遊園地に圧倒されている私に、アーロンは意外そうに問いかける。
「うん。エルヴィスさんが、こんな場所に連れてきてくれると思う?」
『思わない』
即答。逆に聞き返すと、三人そろって即否定。
一拍置いて、みんなで声を出して笑い合った。
物静かで口べたな彼が、こんな賑やかな場所にわざわざ来るはずがない。
そもそも恋人同士になったのは、最後の日だったから、デートは結局しなかった。
それ以前の休日のお出掛けだって、数えるほどしかしていない。
本当の買い物。追跡調査。ドライブ……?
それでも、楽しかったな。
「だったら、今度は旦那と来ればいい。今日はその時の下見だな」
「そうですね。エルヴィスさんと、いろんなところに行きたいです」
――そうか。
今までは仮面のことで必死で、その先の未来なんて考える余裕もなかったけれど。
エルヴィスさんが正気に戻ったら、私たちはまた恋人に戻れる。
デートだって、きっとできる。
……あ、でも護りし戦士の役目があるから、浮かれすぎるのはダメだよね?
クロさんの“未来を見据えた提案”は、私に新しい希望をくれたのだった。
ピロリロリン♪
軽快な音楽が鳴り響く。
「おめでとうございます。女性部門の新記録です」
「え、あ……」
「撫子、すげぇ~! かっけぇ!」
感極まった係員のアナウンスに、周囲は一気に歓声に包まれる。
撫子さんの顔からサッと血の気が引く一方で、アーロンは目を輝かせ、無邪気に彼女を称賛していた。
……うん。そういうところは、ほんとアーロンだよね。
でも。
撫子さんのパンチ力が、新記録って……。
しかもパンチするかけ声が、“おんどりゃ~、成敗してやる”……。
「な? 言っただろ。メシアは武道派だって」
「おお見事です」
クロさんが得意げに囁き、私は唖然。
開いた口が、なかなか塞がらない。
必死に隠していた“秘め事”が、パンチングマシンであっさり露呈した瞬間だった。
……相当、ストレス溜まってたとか?
「お名……あなた様は、ひょっとしてメシア様?」
「え? よく言われるが、他人の空似。メシアがこんなのおかしいだろう? じゃあな。アーロン、行くぞ!」
係員に気づかれかけるも、撫子さんはきっぱり否定し、アーロンを引き連れて全速力で逃走。
口調がいつもと違う。こっちが本当の撫子さん?
私は今、茶番劇でも見せられているんだろうか。
「素のメシアは、なかなか魅力的だな」
「もしかして、撫子さんに惚れました?」
「いや。見てて飽きないだけだ」
どうやらすべてクロさんの想定通りらしく、私の問いにも愉快そうに笑うだけ。
恋愛感情は一切なし。
アーロン×撫子推しの私としては、朗報である。
「追いかけなくていいんですか?」
「しばらくは、そっとしておいてやろう。はぐれた時の待ち合わせ場所は、決めてあるだろ?」
余裕たっぷりの答え。
ここまで読んでいたとしたら、すごいを通り越してちょっと怖い。
「もしかして、千里眼とか未来予知のスキル持ってます?」
「さあな。スキルは他人にそう易々と教えるもんじゃねぇ」
少し探りを入れてみたけれど、返ってきたのはど正論。
ほんの少し線を引かれた気がして、ちょっとだけ寂しくなる。
……確かに、私とクロさんは“他人以上、仲間未満”。
もしくは、トレーナーと生徒、のような関係でしかない。
「そうでした。エルヴィスさんにも、似たような忠告をされました」
「だろうな。穂香さんは無防備だから、色々心配になる」
「うっ……。時間がもったいないので、アトラクションに乗りましょ?」
このままだと墓穴を掘りそうなので、話題を変えてパンフレットを取り出す。
まだ乗っていないアトラクションは、たくさんある。
「ああ、そうだったな。今日は穂香さんを息抜きさせるために来たんだ」
ハッとしたように言われて、私はきょとんとする。
「……アーロンと撫子さんのためじゃ、なかったんですか?」
「は? そう思ってたのか?」
目を丸くして聞き返され、私は無言でうなずいた。
どうやら、完全に勘違いしていたらしい。
「まったく。誤解が解けたなら、ちゃんと楽しめ。で、どこから行きたい?」
やれやれ、といった様子で再び促される。
少し恥ずかしくなりながらも、私は行きたい場所を指さした。
それから私たちは、遊園地を思いきり楽しみ、
帰り際、アーロンたちと合流したのだった。




