56話 舎弟の成長
姐さんには、補助系魔術の才能が多少すぐれているかもしれない。これなら努力すれば努力するほど成果につながる。
――なんてアーロンに言われたものだから、その気になった私は無我夢中で稽古と研鑽に励んだ。
人生で初めて、そこまで苦労することなく習得できる。
しかもちゃんと使いこなせている手応えがある。
こうなってくると天狗になってしまうのが、私の悪いところだ。自分の今の実力を知りたくなり、実践をしたくなってしまった。
「実践ね? 姐さんって、たまに無茶振りかますよな。まだ稽古を始めて数日しか経ってないんだぞ? 力量をわきまえてくれ」
早速アーロンに頼んでみると、渋い顔でばっさり却下されてしまう。正論すぎて、反論の余地もない。
――力量をわきまえてくれ、か。
自分ではなかなかいい線いってると思っていたけれど、それはただの思い込みだったんだろうか。
「ごめん。はっきり言ってくれてありがとう。私、バカだから調子に乗ってたね?」
素直に非を認めたつもりだったのに、アーロンはなぜか真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「姐さんは、何をそんなに焦ってるんだ?」
「え?」
……見抜かれてしまった。
あの、どちらかといえば鈍感だったアーロンに。
そこまで顔に出てた?
でもこれは私自身の問題だったから、話さなかっただけで、隠していたつもりはない。
「オレのこと、もっと頼ってくれよ。どうせ姐さんのことだから、エルヴィスのことなんだろ?」
「バレバレだね。……うん、分かった。話すよ」
アーロンなら受け止めてくれる。そう思えたから、仮面のことも含めて、ちゃんと話すことにした。
“大切なもの”が私だなんて、自分で口にするとやっぱり少し恥ずかしいけれど。
「エルヴィスの野郎……教師のくせに、なにしてんだよ。ブッ飛ばしてやる!!」
すべてを聞いたアーロンは、怒りを隠そうともせず声を荒らげた。
尊敬して、憧れていた人だからこそ、その反動も大きいのだろう。怒りの奥に、確かな悲しみが滲んでいる。
本当に……教師なのに、なにやってるんだろうね。
正気に戻ったら、いろんな人にボコボコにされそう。
「ほどほどにしてね」
「できるわけねぇだろ。そんなにオレたちは頼りなかったのか?」
……あ、そっちか。
「違うよ。教え子。甥。後輩。……みんな可愛くて大切だから、メシアと同じように護りたいんだと思う」
「なんだよそれ。余計ムカつく。いつまでも子供扱いすんな」
完全に火に油だったらしく、怒りはさらに加速した。
でも、その気持ちが分からないわけじゃない。
「正気に戻ったら、ちゃんと分からせてあげようね。護りし戦士は五人もいるんだから、一人で全部背負わずに、協力しろって」
「ああ、もちろんだ。それに――仮面と戦う時が来たら、オレも一緒に戦うからな」
ヤル気満々だ。
仮面戦に第三者が入れるのかは分からないけれど、その気持ちが嬉しくて、頼らずにはいられなかった。
“頼る”ことに関しては、彼よりアーロンの方が、よっぽど芯が強い。
すっかりいい男になっちゃって、私がもう少し若かったら惚れてたかも?
「うん。期待してる。……じゃあ、稽古再開ね」
頼ると決めた途端、気持ちがすっと軽くなった。
「そうだな。実践は、もう少し上達してから考えてやる。だいたい、模様もずいぶん濃くなってきてるんだから、 そこまで焦る必要はないだろう?」
アーロンはそう言って、楽観的に笑う。
それも一理ある。
……けれど、やっぱり油断はできない。
模様が濃くなった今でも、彼の態度は変わらない。
私のことを極力避けているから、私も極力関わらないようにしている。
だからこそ、心構えだけはしておいた方がいい。
「焦らないけど……油断もしない方がいいかもね」
「油断なんかしてねぇよ。オレだって護りし戦士の一人だ。それなりに強いんだぜ?」
「……それ、明らかに死亡フラグだから」
はりきって豪語するアーロンを見て、ため息が出る。
良い男評価は、ひとまず撤回。
まだちょっと、自信過剰なガキのままだった。




