6話 ステータス測定の行方
ステータスカードは──緑だった。
「メシアじゃない? メシアじゃない異世界人なんて、前代未聞だろう?」
「書物に残ってないだけだ。例外があったかもしれん」
ケインさんは頭を抱え、ありえないと言いたげに混乱している。
一方で、エルヴィスさんはなぜか安堵したように落ち着いていた。
正反対の反応。
……これで私は、一般人。
あんなに怯えていたのが嘘みたいに、胸のつかえがスッと消えた。
むしろ今まで取り乱していた自分がバカみたい。
――まあ、なんで召喚されたのかはのちのち考えればいいか。
「例外ね。それで身分証明の偽造はどうする? お前の妹ってことにしとくか?」
「っ……!」
雲行きが一気に怪しくなる。
さっきの“兄”発言を思い出したのか、エルヴィスさんの顔が真っ赤に染まっていく。
「なぜそうなる? そんなに俺と穂香は兄妹に見えるのか?」
その瞳の奥が、少しだけ寂しそうに見えたのは気のせい?
「ごめんごめん。じゃあ──ならいいだろう?」
ケインさんは何かを察したらしく、完全に面白がっている。
後半はニヤニヤしながらエルヴィスさんの耳元で何かを囁けば、彼の頭からは今にも煙が出そうだった。
「!! そ、それもダメだっ! 穂香はクレアの叔母の旦那の妹の娘にしとけ! クレアとは話はつけている」
なんでそんな複雑な設定!?
しかもクレアさんまで絡んでる。いつの間に?
「はいはい。今日中には登録しておく。にしても“冷血鬼教師”で名高いエルが、ねぇ?」
「ち、違う! 俺はただ、拾い主としての義務を果たしているだけだ!」
完全にケインさんのペース。
このやり取り、きっと日常茶飯事なんだろうな。
「だったら、後は俺が預かるよ。異世界の女に興味が――」
「ふふざけるな! 穂香は絶対に渡さん。行くぞ!」
怒りをあらわにして立ち上がり、私の腕を引いてその場を出て行く。
後ろからケインさんの笑い声が聞こえてきた。
……こういうタイプ、絶対女癖悪い。隙を見せたらおもちゃにされそう。気をつけよ。
「穂香、すまない。ステータスカードの詳細を話さずに出てきてしまったな。向こうにはレプリカがあるからいいとして、俺が説明する」
「本当ですか? ありがとうございます。この“緑”って、何を意味してるんですか?」
カフェに入りまったりしはじめた頃、ふいに謝られカードのことを切り出される。
そう言えばまだステータスの詳細を教えてない上、見てもいなかった。一般人だけで満足しちゃったけれど、これから生きていく上で重要なんだよね?
「緑は、魔力値が高い者の色だ。ハンターになれば、それなりに活躍できる」
「へぇ……確かに魔力は高い。でも、“幸運”の方がすごく高いかも?」
魔力が高いと言われ、カードをよく見てみる。
知能:105←IQ?
根性:135
知識:288/300
運動:264/335
魔力:400/516
技量:299/355
幸運:500/582
危険度:下 好奇心:強 理性:並下 魅力:下 性欲:並
加護:言語翻訳α/ラッキーガール
よく分からないけれど、危険度類いは私らしい。好奇心旺盛。性欲……彼氏はそれなりに欲しいよ。異世界転生した今、恋愛どころではないって分かっているけどさ。でも魅力下って、ここでも望みは薄い??
「知能と根性の平均は100、最大150で固定されている。他の最大値は一般人で300。500を超えると“エリート”と呼ばれ、王都学園への入学資格が得られる。最大値は努力次第で50ほど上がる」
「へぇ~。なら私、アスラークに生まれていたら王都学園に通ってたかもしれませんね? 見てください!」
知識と運動が平均なのに、すっかりエリート気分。テンション爆上がりのままもっと詳しく知りたくて、深く考えずカードを差し出す。
が、エルヴィスさんは少し眉を寄せた。
……あ、またやらかした?
「ステータスカードを見せるというのは、すべてを相手にさらけ出すということだぞ?」
「? エルヴィスなら大丈夫ですよ。それとも……迷惑でした?」
「……迷惑ではない。なら、俺のも見ろ。これでフェアだ」
少し呆れた表情に変わり観念したかのように、懐から自分のカードを取り出す。
それはまぶしいほどに輝く緑。
そんなつもりじゃなかったのにと思いながらも、好奇心が勝ってしまい詳細を見て――息を呑んだ。
知能値145
幸運以外は、500超え。知識と魔力に至っては600を超えている。
まさにエリート中のエリート。私なんかとは比較にならない。
そして、加護にはこう刻まれていた。
加護:浄化の力-/心眼α




