52話 指輪の意味
朝食も昨日と同じように、彼は完食してくれた。
赤い模様も順調に濃くなっているようで、それだけで気持ちが晴れ、軽くなっていく。
「約束通り修理した。これでいいだろう?」
背後から低い声が、私を呼び止める。
まったく気配を……もともと、相当な気配じゃないと察知できなかったか。
反射的に振り向けば、そこには彼がいて、指輪を乱雑に放るように渡してくる。
昨夜あんなに私を軽蔑してたはずなのに、指輪は約束通り修理してくれた。
しかも、ほぼ完璧な仕上がり。
「ありがとうございます。大切に使います」
嬉しくて、心から感謝する。
「なんでそんなに嬉しそうにする? こんなのただの強化アイテムだろう?」
皆目見当がつかない、といった感じだった。
ただの強化アイテム。
指輪の本当の意味を忘れているんだね。
だけど私は、ちゃんと貴方の分まで覚えてる。
「私にとって、すごく大切な宝物なんです」
「…………」
それでも私は言い張って、指輪を自分ではめた。
それを無言で見届けると、なにか言いたそうにも、黙って行ってしまった。
なにか、思い出してくれた?
「穂香ちゃん、おはよう!!」
入れ替わりにマミア様がやってきて、抱きつかれる。今日もテンションが高い。
てっきり帰ったとばかり思っていたから、これには少々びっくり。
「おはようございます。泊りになったのですね?」
「ええ。テキサス様と今後のことを話していたら、深夜になってたからね。ちなみにリーサはミサがあるから、帰っていったわ」
「それはご苦労様です」
さすがマミア様、言いようがない台詞だった。
「いつものことよ。それよりも、リーサに聞いてたよりもすごかったわね? 赤い模様のこと」
ああ、テンションの高さはそれが理由か。
「ですね? それに、指輪の修理もちゃんとしてくれました」
もっと喜んでもらおうと、右手を出して指輪を見せる。
するとますます目を見開き、口を手で覆い、涙ぐむ。
「まだ、思い出したわけじゃないですから」
「それでも、これはすごい進歩なの。もっと自信を持ちなさい」
謙遜していると思われたのか、強く言われてしまった。
一体、昨日以降の彼はどんな状態だったのか。
怖いもの見たさで知りたいような、――知りたくないような。
「自信はあります。欲張りなだけです」
首を横に振り本心を答えれば、マミア様は涙を拭き、呆れて笑う。
「そうなのね。すごく頼もしいわ。それじゃ、そんな穂香ちゃんにこっちも託すわ」
嬉しそうにそう言いながら、ポケットから取り出した青い小箱を渡される。
なんだろう? と思いながら小箱を開けると、バラのリング。
私がエルヴィスさんのために作って、贈ったものだった。
それなのに、どうしてマミア様が?
「仮面を被った日のこと。命を落とした時、左薬指にはめて欲しいって、後生の頼みをされたの。きっと仮面に、穂香ちゃんとの大切な想い出を奪われたくなかったのね」
意味も分からず首をかしげてマミア様を見つめると、あんまり聞きたくなかったことを教えてくれる。
半分嬉しいけれど、嬉しくない。
もしかして彼は仮面のことをすべて知った上で、被ったんだろうか?
どうしてエルヴィスさんは、一人で全部背負おうとするの?
せっかくいる仲間のに、なんで協力しないの?
――優しすぎるから、みんなを守ろうとしている――。
「エルヴィスさんのバカ」
やるせない気持ちが込み上げて、つい呟いてしまう。
「ええ、本当にそうよ。年上の姉に遺言を託すなんてありえない。正気を取り戻したら、ボコボコにしてやるんだから」
激しく同意され、こちらは怒りが込み上げてきたのか、手を握りしめ、よろしくない言葉を吐き出す。
本気だ。
まぁ、そうなりますよね?
私は――
一発平手打ちをして、
後は甘えてしまうんだろう?
すごく甘やかしてほしい。
そのためには、まずはシェイプアップしないとね。
ジョギングと筋トレ。
こりゃぁ、誰かに頼った方が、良さそうだね。




