50話 仮面の秘密
『穂香ちゃん、会いたかったわ』
夜も少し更けた頃、二人は訪れた。
車から降り私を見つけるなり、二人同時に勢いよく抱きついてくる。
相変わらずの美人なお姉様たちで、以前とおかわりがなさそうだ。
「私もです。お忙しいのに、わざわざありがとうございます」
「いえいえ。それよりクレアから聞いたわよ? 穂香ちゃんの料理を、美味しくいただいたみたいじゃない?」
すでに情報共有済みらしく、マミア様は興奮気味で話しかけてくる。
その瞳の奥にうっすら涙が浮かんでいるあたり、心底嬉しかったのだろう。
リチャードくんの言っていたとおり、大好きな弟の変わりように心を痛めているようだった。
「やっぱりエルちゃんは、今でも穂香ちゃんのことを愛しているのね。安心したわ」
リーサさんも、少し大げさなくらいに喜んでいる。マミア様と同じ気持ちなんだね。
みんなにそのことで報告したらすごく喜ばれ、褒められまくられた結果私はすっかり天狗になっていた。おかげで顔の筋肉が緩みっぱなしだ。
――愛してくれている。
それさえ分かれば、もう怖いものなんてない。
「はい。最初は“エルヴィスは死んだ”とか、“期待するな”とか、恋愛を“昔の話だ”とか、“自分の身は自分で護れ”とか……言われたときは、さすがにショックでしたけどもう大丈夫です」
言うつもりはなかったはずが、口が勝手に動いていた。
どうやら思いの他、心にダメージを受けていたらしい。
これだけ冷たく突き放されれば、ノーダメージでいられるはずがない。
でも、今は完治しているはず。
「穂香ちゃん、あなた強いわ。そんなこと全部言われたら、普通は嫌いになって離れるものよ」
マミア様はそう言って、悲しげな表情のまま私の頭を撫でる。
私が、強い?
それはさすがに大げさだ。
「違いますよ。私にはエルヴィスさんしかいませんから。エルヴィスさんを逃したら、きっと私は生涯独身です」
へらへらと笑いながら、軽い気持ちで否定する。
生涯独身上等だとは思っているけれど、
本当は心の奥底で、誰かに愛されたい。と思っているのかも?
その誰かって言うのは、もちろん彼しかいない。
彼が幸せなら私が幸せ
と言うのはきれいごとで、私が彼と幸せになりたいだけ。
「やっぱり穂香ちゃんが、最後のピースみたいね」
「そのようね。詳しい話は部屋でしましょう」
なにかを確信したのか二人はそう言って、私の両腕をつかみ建物の中へ入っていく。
途中クレアさんに会い、応接室に通される。
「え……あの仮面って、禁断のアーティファクト?」
「ええ。仮面に人間らしさを差し出せば、それに見合った“人ならざる強さ”を得られる。けれど、必要以上に力を求め続けた場合――」
仮面の正体を二人から語られる。
内密にいろいろ調べていたようだった。
「仮面は契約者の“大切なもの”を、目の前で食い尽くす。ショックで奈落の底まで堕とした契約者の身体を乗っ取るそうよ」
冷血最強戦士の結末と、ほとんど同じだ。
だから転生したガブリエルさんには、私の記憶がなかった?
それでも最後の最後で思い出してくれたのは――奇跡だったのかもしれない。
そう思うと、胸が熱くなり、決意がいっそう固まる。
「……どうやって倒せばいいんですか?」
唾を、ごくりと飲み込む。
「仮面は契約者から離れ、契約者の目の前で仮面自ら“大切なもの”を食い尽くす。その時仮面を破壊すれば良いと言われているわ」
「成功例は……?」
それが重要だ。
「ないわ。だから、確証はないの」
しかしリーサさんは首を横に振った。
巨大すぎる強敵。
確実な死亡フラグ。
けれど、不思議と恐怖はまったくない。
「分かりました。なら、まずは――」
頭がすっきりして、やるべきことが次々と浮かんでくる。
明日から――ううん、この瞬間から動かなきゃ。
まずは、指輪の修理だ。指輪を修理しないと何も始まらない。
「……怖くないの?」
怯えると思っていたのか、二人が不思議そうに問いかけてくる。
「はい。まったく」
私は、迷いなく答え微笑んだ。




