49話 食事は栄養補給?
クレアさんは夕食の支度があるからと席を外した。
メイド長だと言っていたし、相当忙しいのだろう。
「エルヴィスさんは、ちゃんと食事してるの?」
なぜかそれが気になってしまった。
どれだけ強さを求めても、食事は必要不可欠だ。そこを疎かにしていいはずがない。
「あ、それなんですが……その……」
リチャードくんは言いにくそうに言葉を濁す。
それを見ていたアーロンが、露骨に顔をしかめた。
「あいつ、食事っていうよりただの栄養補給だ。味がしねぇから、もはや流動食。オレらとは時間をずらして食べるようになったのも気にくわねぇ」
溜まりに溜まった不満を吐き出し、壁を殴りつける。
——それだけ心配なんだよね。
分かるよ。私も同じだから。
聞いているだけで胸が締めつけられる。
「今の先輩は、本当に何を考えているのか分かりません。睡眠時間も極限まで削り、知識の追求。鍛錬。そして私たちや兵に指導するか。私生活など皆無ですよ」
テキサス様もやれやれと口を挟む。その口調は愚痴というより、完全に呆れきっていた。
食事も睡眠も最低限。休息はない。
そんな生活続けていたら、いくら彼でも身体を壊す。
本当に人間を辞めて、兵器になろうとしている?
「母上たちも色々試しているようなのですが、効果はありません。……あの母上が、夜に号泣しているそうです」
それを聞いた瞬間、我慢できなくなった。
「私、食事の手伝いをしてきます。厨房はどこですか?」
またしても、勢いだけの宣言だ。
でも、あのマミア様を泣かせているなんて、悲しすぎる。
様子見をしている余裕はない。
とにかく、今は動くしかない。
——料理は、正直得意じゃない。
クレアさんの手伝いをしていた時も失敗ばかりだったし、自炊も最近ようやく人並みになった程度。
それでも、愛情なら誰にも負けない自信はある。
料理は愛情。
ほんの少しでも、何かが変われば——それでいい。
「それはいいですね。愛の力は、何よりも絶大ですから」
「よし、決まりだ。厨房はこっちだ、急ぐぞ」
「うん。頑張るね」
皆の期待を背に、アーロンに引っ張られて厨房へ向かう。
——そこは戦場だった。
クレアさんと、コックらしき男性二人。
慌ただしく立ち回る三人の姿に、思わず息を呑む。
「クレアさん。私に、エルヴィスさんの夕食を作らせてください」
「そう言うと思っていました。ではお願いします。こちらがレシピと材料です。かなり細かい注文ですが……一人で大丈夫ですか?」
「……これは、ちょっと骨が折れそうですね」
胸を張って「任せてください」と言いたかった。
でも、ぎっしり書かれたレシピと指示を見て、思わず苦笑い。
材料のサイズ、温度、柔らかさ。
あらゆる工程が細かく指定されている。
——彼らしい。
けれど、ここまで来ると異常とも言える。
「では今日は私と一緒に作りましょう。明日からは任せます」
「ありがとうございます。精一杯、頑張ります」
甘えは今日まで。
そう言われている気がして、背筋が自然と伸びた。
きっちり把握をしているクレアさんが食事の準備が終わった頃、彼は一人で食堂にやって来た。
アーロンが言っていたとおり。
「クレア、今日はずいぶん出来が悪いな。量も多い。ちゃんと指示通りにしろっと言ってるだろう?」
「ですね? 気に入らないなら残してください。でも味は保証します」
運ばれてきた不出来な料理を見て、彼は容赦なく叱責する。
クレアさんは笑顔を崩さず、淡々と受け流す。
これは、相当怒っている。
流動食は難しく、結果は惨敗。 火傷や切り傷で手はボロボロ。
怒られるとしたら、私の方。
「味覚などない俺には無意味だ。明日からは気をつけろ」
不満げな声。
けれど、一口食べた瞬間、彼の動きが止まった。
次の瞬間、無言のまま食べる速度が上げ
あっという間に、すべて平らげてしまった。
「……何をした?」
違和感を持ったのか、疑いの問い。
「美味しかった、んですね?」
しかしクレアさんは笑いを堪え、違和感を代弁する。
「…………」
その沈黙で、すべてが報われた気がした。
——あとで、みんなに報告しよう。




