表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/88

47話 小説との微妙なズレ


「穂香さんが強制送還されてから一年後、世界の危機が明確になり、メシアが召喚された。それからさらに一年の月日が流れておる」


 ――つまりアスラークでは、二年の月日が流れている。

 私の世界では、一年弱――


 久しぶりのアフタヌーンティーをご馳走になりながら、私は最後まで黙って話を聞くことにした。


「最初はあやつも、以前と変わらぬ日々を過ごしておった。時折、穂香さんのことが話題にのぼり、穏やかな笑みを浮かべ幸せを心から願っておったよ。あやつも恋を知ったことで、大きく成長したと……そう思っておったのじゃが」


 懐かしむような、どこか温かな話しぶり。

 けれど、そこで一拍、間が空く。


「……しかし半年ほど前から、戦況は急激に過酷を極めた。三ヶ月ほど前あやつも生死を彷徨うほどの重傷を負ってな。それからじゃ。仮面を被り、感情を殺し、ただ強さだけをひたすら追い求めるようになったのは」


 胸が、きゅっと締めつけられる。


「今では、親しかった者との交流すら避けておる。このままでは、人を――」

「捨てさせません」


 最後まで黙って聞くつもりだったのに、口が勝手に動いた。


「私が、ちゃんと元のエルヴィスさんに戻してみせます」


 自分でも驚くほど、強い言い切りだった。


 ……さっきから私、偉そうなことばかり言っている。


 冷静に考えれば、私にそんな力があるんだろうか?

 すぐ泣くし、逃げてばかりだし、心も脆い。


 ついさっき固く決意したはずなのに、もう崩れかけそうになる。


 ――でも。


 私がやらなければ、小説通り、彼に待つのは残酷な死。

 そんな結末、絶対に嫌だ。


 心が揺れて、迷子になりかける。

 私の覚悟なんて、所詮この程度……。


「穂香さん、少し肩の力を抜きなさい」


 学園長は、そっと私の頭に手を置いた。


「泣きたい時は泣けばよい。弱音も、全部吐き出してよい。助けてほしい時は、遠慮なく求めなさい」


 思いもよらない言葉だった。


「それが出来る者こそ、芯の強さを持っとると、ワシは思う。……あやつに、唯一足りないものじゃな」


 私はぽかんとしたまま、学園長を見つめる。


 それが……芯の強さ?


 確かに、それはエルヴィスさんが持っていなかったものばかりだった。

 唯一垣間見た彼の弱さも、今思えば“弱さを隠すための鎖”にしようとしていたのかもしれない。


「信じられない顔をしておるな。だが、本当のことじゃ。とにかく、信じてほしい」

「……はい。信じてみます」


 私は小さく頷いた。


 正直、まだ完全に腑に落ちたわけじゃない。

 それでも、学園長の言葉だから信じてみようと思った。


「もし、辛くなったら……また、ここに来てもいいですか?」

「もちろんじゃ。いつでも来なさい」


 試しに弱さを口にしてみると、優しい微笑みと心強い言葉が返ってくる。

 その優しさが心に染みて、少しだけ楽になれた。


 ――よし。

 この言葉を信じて、頑張ろう。


「ありがとうございます。……ところで話を戻しますけど、今の現状って、結構ヤバいんですか?」


そう思ったら元気がでてきて、今度は現状を把握。


今までの話からすると結構追い込まれているのだろう。


「まあな。今はまだ、ラークの門はかろうじて護られておるが、すでにいくつかの都市は滅びとる。人間族と魔族が協力しても、なお不利な状況じゃ」


 思わず息を呑む。


 小説通りなら多分この戦況は半ば辺り。これからますます悪化していくはずだけれど、彼の仮面の一連は書いていなかったのはなぜ?


「これは、あまり言いたくはないのじゃが……」


 学園長は困ったような表情で続ける。


「正直、今回のメシアは、メシアとしては、支援魔術がやや劣っておる」


 ……“やや”で済む話ではなさそうだ。

 これも小説にはない。


「でも、撫子さんは一生懸命なんですよね?」

「そうじゃな。そして……何かをひたすら隠しておるようにも見える」

「隠してる? まさか恋愛禁止とかで、気持ちに蓋してるとか?」


 ありがちなパターンを口にしてみる。

 今の彼なら、言い出しかねない。


「いや。恋愛は自由じゃ。もっと大きな隠し事じゃな」


 学園長は、じっと私を見た。


「穂香さん。探ってくれんか?」

「……私に、出来ますかね?」


 丸投げというほどではないけれど、なかなか厄介な役目を任されてしまった気がする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ