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ドアを開けたら異世界でした?~モブの私と彼の秘密の記録  作者: 桜井吏南
第3章 二人の距離は急激に近づく
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42話 最後の別れ



「着きました。この扉の先に進んでください」

「あの……一人で、ですか?」

「はい。ここを通れば元の世界に帰れるはずです」


 兵士の業務的な台詞が、刃となって私の胸を刺した。


 ――痛い。


 ああ、ついに彼ともお別れか。

 もう、この温もりを感じることはできないんだね。


 繋がれた手を離そうとするけれど、心が言うことを聞いてくれない。

 彼の手も震えている。呼吸も微かに荒い。

 彼に視線を変えれば、一見いつも通りの表情――

 でもそれは鉄仮面と鎧で弱さを部分を覆い隠した姿だった。

 今思えばいつもそうだったのかもしれない。だから彼は強い――。

 すべてを剥がして、本当のあなたに触れたかった。



「二人に、三分だけ時間を与えてくれないか?」


 第三者の威厳ある声が、兵士たちの背後から響いた。

 兵士たちは中央を空けて整列。ビシッと敬礼する。


『ハッ!!』

「私たちは、これから二人を引き裂く。そのくらいの猶予は、当然の権利だと思うのだが」

『は、了解しました』


 鶴の一声だった。兵士は反論せず一斉に退く。

 オーラが半端ない金髪にブルーの瞳。爽やかで甘いマスク。

 最後に、とんでもないイケメンが現れた。


「先輩、すみません。私にできるのはこのくらいです。本当に、あの化石連中をさっさと隠居させないと、人間族は破滅しますよ」

「愚痴は後で聞く。時間がない。お前も下がれ」

「了解」


 彼の知り合いなのだろうか。根回しをしてくれたのに、雑に追い払われる。

 イケメンは笑顔で敬礼し、兵士たちのもとへ戻っていった。


「……誰なんですか?」

「誰だっていい。今は、俺だけを見ろ。俺を感じろ」

「え……は、はい」


 当たり前のはずの疑問なのに、彼の癪に障ったのか怪訝な命令口調。


 強く壁に押しやられ、深い、深いキス。

 息をするのを、忘れてしまうほど。


 愛が、伝わる。

 激しい炎に、心ごと揺さぶられる。


 これが、本当の最後。


「悲しかったら、泣けばいい。俺には――ありのままの……」

「絶対、嫌です。最後に見せる顔は、笑顔でいたい。笑顔の私を覚えていてほしいんです。それに……そう言うあなたこそ、もう気を張らなくていい。弱くて脆いあなたも、私は愛せます」


 もう泣かないと決めたのに、油断すると涙が溢れそうになる。

 だから必死に堪えて笑顔でいるのに、

 それすら否定されそうで――同じ言葉を、押し返した。


 私はまだ、彼の弱い一面を見ていない。

 すべてを晒されてはいない。


「そうだな。だが……すまない。それを見せたら、俺は俺でなくなってしまう。言っただろう。俺は、メシアの剣であり盾になる。そのためには、強くあり続けなければならない」

「……そうでしたね。おかしなことを言って、すみません」


 私のワガママだった。

 彼の決意は分かっていた――分かっていた、つもりだった。


 ……でも見てみたかった。


「謝るな。その時、お前がいなくてよかったのかもしれない。きっとその頃の俺は、心も感情も捨ててるだろう。そしたらお前を平気で傷つける」

「……生きていてください。命を粗末にしないでください。約束です」


 堪えていた涙が、崩壊する。


「すまない。もし、お前の世界に生まれ変われたら……今度は、結婚して、子どもを作って、添い遂げよう」

「嫌です。そんな、ありもしない約束なんて、したくありません」


 戦死を前提の言葉と、意味不明な未来の誓い。

 そんなもの、“解りました”と頷けるはずがない。

 彼の胸元で、子どものように駄々をこねる。


 ――逢えなくても、幸せに生きてくれれば、それでいい。


 あ、そうか。

 私の幸せは、エルヴィスさんが幸せでいることなんだ。


「穂香。すまない。約束してくれ。その約束があれば、どんな過酷な運命でも、俺は立ち向かえる」

「エルヴィスさんの……馬鹿。大嫌い」


 初めて見せてくれた弱音なのに、頭に血が上った私は受け止められず。ひどいことを言い捨ててしまった。


「……」


 鉄仮面にひびが入ったのか、彼の表情は絶望へと崩れ落ちた。

 声すら、もう出ない。


 救済を求めるように差し伸べられた震える手さえも、私は感情のまま払いのけた。


 愛しているからこそ、そんなことを言うあなたが大嫌い。


「お時間です。穂香さん、お入りください」


 イケメンの声が、終わりを告げる。


 これが本当に最後の別れだと知っているのに、私は振り返えらず。


「……さようなら。お元気で」


 返事はなにも、返ってこなかった。


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