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4話 地雷を踏む

 見た目も匂いも、そして味も、やっぱり“和食”そのものだった。

 しかもクレアさんの腕が良すぎて、料亭の味以上。素材の良さを引き出した繊細で優しい味に、思わず無言でおかわりしてしまう。

 夕飯を抜いていたエルヴィスさんも同じらしく、気づけば二人そろってきれいに「ごちそうさま」をしていた。


 お茶で一息ついた頃、エルヴィスさんが静かに話し始める。


「メシアは学園の書物によれば、過去に各二回召喚されている。どうやら、召喚には儀式が必要らしい」

「各二回? ……つまり、魔族側にもメシアがいるってことですか?」

「ああ。元凶が人間族だったり、魔族だったり――魔物だったこともある」


 棚からぼた餅どころか、目から鱗な発言だった。

 魔王=悪、という固定観念が音を立てて崩れていく。

 たしかに、“魔王”って言うのは、魔族の王様と言うことだけ。それなのに誰が初めに魔王が悪と言い出したんだろうか?

 そりゃ人間族が悪者ってパターンもあるよね。


「勉強になります。だから、私が異世界人ってことは伏せておけって言ったんですね」

「それもあるが……お前はメシアの条件に当てはまらない。それも踏まえて、信用できる旧友にステータスを調べてもらう約束を取った」


 年齢の話を避けてくれてるのはありがたいけど、やっぱり少し傷つく。

 でも私のためにいろいろ動いてくれてるのは事実。


「何から何までありがとうございます」

「好きでやってることだ。気にするな。……拾った以上、安全が確保されるまでは面倒を見るのが筋だ」


 軽く咳払いをしながら、当然のように言ってのけるその姿に、胸がじんわり温かくなる。


 ――私、本当にいい人に拾われたんだな。

 出会ってまだ半日なのに、もう信頼できる“お兄ちゃん”みたいな存在になってる。


「兄さんと呼んでもいいですか?」

「!? 調子に乗るな」


 突然顔を真っ赤に染めて怒ると、勢いよく立ち上がり、乱暴に言い捨ててリビングを出ていってしまった。


 ……あ、地雷踏んだ。


 凍りつく空気に変わる中、なぜかクレアさんだけが笑いを堪えている。

 私は完全に石化した。


「馬鹿ですね私……さすがに甘えすぎました」

「そんなことないですよ。兄という立場が嫌だっただけかもしれません」

「私みたいな妹、欲しくないですよね? じゃあ、ご主人様って呼びます」

「それはもっとダメだと思います」


 ――あ、今ガチで怒られる寸前だったんだ。危なかった。


 クレアさんの笑顔に救われつつ、私は大きなため息をつき肩を落とす。


「分かりました。じゃあ今まで通りエルヴィスさんで。……ところで、クレアさんも一緒に出かけませんか? 二人きりはちょっと気まずいので」

「私はお仕事がありますので。旦那様なら大丈夫ですよ。楽しんできてください」


 ……楽しむ? 怒られた直後なんですけど?


 私がどれだけ気まずくても、あの人は約束を必ず守るタイプらしい。一層なかったことにして欲しかった。


「これ以上怒られないように努力します」


 自信はないけど、もう口数を減らすしかない。


「では支度をしましょう。その髪色は目立つので、旦那様と同じ色のウィッグと服を用意しました」

「黒髪が? 私の国では普通なんですが……そんなに目立ちます?」

「はい。この世界では、緑・青・赤系の髪が普通なんです」


 あまりに自然に答えられ、口を開けたまま数秒フリーズする。

 この世界、本当に“ファンタジー”なんだな……。



 その後、クレアさんの指示に従いながら、私は気乗りしないままおとなしく支度を始めた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


続きが気になりましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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