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ドアを開けたら異世界でした?~モブの私と彼の秘密の記録  作者: 桜井吏南
第3章 二人の距離は急激に近づく
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33話 着せ替え人形になった

「穂香ちゃん、すごく似合うわ。これで決まりね」

「当日のメイクとヘアスタイルも私たちに任せてね?」

「は、はい。ありがとうございます」


 ようやく満足したらしい二人を前に、私は鏡に映る見慣れない姿に戸惑っていた。


 こんなの絶対に自分では選ばないけれど……案外悪くないかも?


 二人が揃って訪ねてきた理由は、どこからか聞きつけたエルヴィスさんとの“お出掛け”の情報らしい。

 持ってきた衣装とアクセサリーの山を前に、私はすっかり着せ替え人形状態だ。

 そしてようやく決まったのは、ガーリースタイル。

 上品で可愛らしいコーディネートで申し分ないんだけれど、アラビアン風スタイルしか着ないエルヴィスさんと並んだ時の違和感がすごい。

 どうやら彼の好みらしい。

 ちなみにこの世界のファッションは本当に多種多様。和服っぽい服も時々見かける。遠い東の国が発祥だとか。



「ヘアスタイルは、ふわふわパーマにしても大丈夫?」

「はい。そういうことはよく分からないので、お好きにどうぞ」


 アラサーOLらしからぬ発言だけど、本当にファッションには疎い。

 普段着はシャツにデニム。化粧は、オールインワンとリップで終了。

 それで十分生きてこられたから。

 ……でも、これからは少し勉強しようかな。


「了解。それじゃああとはエルちゃんの服装だけど、穂香ちゃんリクエストある?」

「えっと、私は……ハイネックにロングジャケット。それとこんな生地のパンツがいいと思います」


ベットの上に散らばる服の山から、イメージした服を選び出し説明する(女性ものしかないのはさておき)。


 長身で細身のエルヴィスさんなら絶対似合う――私の数少ない“好きなスタイル”。


「それいいじゃない? エルにとっても似合うと思う。あとで揃えて渡しておく。私の命令だって言えば従うから」


 マミア様もお気に召したようで、興奮気味で即決。……ただ後半の言い方はどうかと思う。

 無意識だとは思うけれど、強制してまで着てもらうなんて嫌だ。だったらいつも通りでいい。


「お姉さま。エルちゃんなら命令しなくても喜んで着てくれると思うわ。何色がいいと思う?」

「えっ、あ……ハイネックが白で、ロングジャケットが黒ですかね?」


 リーサさんにまで気持ちを見透かされ、さらに色の指定まで求められてしまう。

 センスゼロな私は、緊張で声が裏返りながらも希望を答える。


 これなら無難、だよね……?


「うん、いいと思う。お姉さまもそう思うでしょ?」

「ええ。エルらしいわ。ついでだから明日のコーディネートも決めましょう。エルの好きなコーディネートにしましょう?」


 気がつけば、また私が着せ替え人形に逆戻り。

 どうしてそうなるのか全く分からないけれど、絶対に遊ばれてる。




「エルちゃん、私とお姉さまで全身コーディネートしたの」

「可愛いでしょ?」

「!!……姉上たち。彼女で遊ぶのをやめてください。迷惑です」


 仕事で疲れきって帰ってきたエルヴィスさんに、玄関で二人の作品となった私をお披露目する。出掛け用でも明日用でもないコーディネート。

 するとうんざりとばかり冷たく言い放つエルヴィスさん。空気が一瞬で凍りつく。


 そりゃ、怒るよね……?

私がどんなに素敵なコーディネートをしたって、所詮馬子にも衣装。

 こんな姿見せられたら、迷惑に決まっている。

 

 そう思ったら申し訳なさ過ぎて、泣きたくなった。


「ちょっとエル、その言い方は酷くない?」

「俺は事実を――……なぜお前が泣きそうな顔をしている?」


 私の表情を見た途端、エルヴィスさんは焦ったように目を見開いた。


 あ、また困らせちゃった。


「だって、また迷惑かけちゃったから……」

「は、なんでそうなる? 俺は別に迷惑など思っていない。……着替えてくる」


 視線を泳がせそう言い捨て、私たちを掻き分け階段を駆け上がっていく。


 滅茶苦茶迷惑そうなのに、迷惑など思っていないと言っている。

 どっちが本当なのか分からず首を傾げていると、姉たちはクスクス笑って“逃げた”と呟くだけ。


 そして夕飯時のエルヴィスさんは、何ごともなく普通に戻っていた。


 ――強制送還まで、あと二日。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマークで追っていただけると嬉しいです。

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