30話 王達との謁見
元の世界に戻ると決めた翌日。
私はエルヴィスさんと正装した凜々しいマミア様に連れられて、王様と幹部の方々がいる謁見の間へ通された。
「彼女が例の異世界人か? 本当に何のオーラもない。脅威などあるのか?」
「あくまで可能性の話です。だから処刑ではなく強制送還という形にしました」
「それに彼女もそれを望んでいます。最良の策かと」
「なるほど。ならば四日後の深夜、古文書の手順に従って送還を行う。それまで身柄はウォーカー家に一任する」
王様は傲慢な態度だけれど、他の人たちは穏便に済ませようとしてくれている。
だから私も余計なことは言わない。
穏便にできるなら、それが一番だよね?
私のせいで争いなんて起こせない。これでいい。これが正解なんだ。
「はい。弟のエルヴィスが責任を持って、彼女を今まで通り保護いたします」
「全力を尽くします」
いつもよりずっと凛々しい二人。
私なんかとは違う世界の人たち。
今さらながら実感してしまった。
……そんな人に、片想いなんて。
芸能人にガチ恋してるのと同じじゃない?
でも、あと四日だけなら──
いまだけなら、まだ好きでいてもいい?
こんな大事な場面なのに、全然関係ないことばかり考えてしまう。
謁見後。マミア様と別れ、車に乗り込んだとき──
「どこか行きたい場所はあるか?」
「えっ、学園は……?」
「気にするな。お前がここにいられるのは、あと四日しかないだろ」
不意の申し出に、思わず瞬きを繰り返す。
気を遣わせてる──それをすぐに悟った。
王様たちに、私に気を遣え、最大限にもてなせって命じられたのかな?
「ありがとうございます。でも、あえて普通の日常がしたいんです。……最後の日に、どこか……二人で」
断ればいいのに。
なのに口から出たのは本音だった。
最後のわがまま。
「……分かった。考えておく」
「はい……楽しみにしてます。それまでに歩けるよう頑張ります」
気を遣わせた罪悪感と、叶った嬉しさが混ざって胸が熱くなる。
謁見する前に怪我を再度医者に診察してもらったら、今から杖生活のリハビリを頑張れば四日もあれば今まで通り歩けると太鼓判を押された。完治するのはここまで来ると自然治癒らしい。
だから出掛ける時は、やっぱり並んで歩きたい。出来れば手も繋ぎ……いくらなんでもそれは無理か。
あんまり多くを望んだら、拒絶され取りやめになるかも知れない。そうなったらショックで泣いてしまいそう。
この約二ヶ月の出来事は、笑顔で語れるぐらいの良い思い出にしておきたい。
いつかエルヴィスさん以外の誰かを好きになったら、今度はちゃんと両思いになって恋愛してみたい。
……エルヴィスさん以外の誰か。か……。
「……穂香?」
「あ、すみません……手癖が悪くて」
無意識のうちに、彼の裾を掴んでいた。
すぐに手を離し、右手で強く握りしめる。
何をやってるの? 私の左手?
そんなことしたら迷惑じゃない?
「……別に構わない」
拒絶されなくって良かったはずなのに、その素っ気なさが申し訳なくって泣けてしまいそう。
「王様たちから、何か命令されました? 私の機嫌取れって……。そんなことしなくてもちゃんと帰るので、いつも通りでいいです」
「俺が命令など、聞く男だと思うか?」
「……思いません」
たまらなくなって聞いてみると、言われてみればごもっともな答えだった。
でもそうなるとなんで?
本当に良かったの?
それ以上の会話はなくなり、学園へ着くまで沈黙が続いた。
エルヴィスさんから話しかけてくれるなんて滅多にないから、これがきっといつもの距離感なんだろう。
でも──
あなたからも、話してください。
なんて言ってしまったらきっと、重いと思われる。
今度こそ迷惑になるかもしれない。
思わず言ってしまいそうだった言葉を、唾と一緒にゴクリと飲み込む。
帰る日が近づくほど、もっとあなたの声が聞きたい。




