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3話 リアルだと自覚する

 目が覚めると、見覚えのない天井があった。

 慌てて起き上がり、辺りを見渡す。……やっぱり、知らない部屋。

 モダンな北欧系インテリアの部屋に、テーブルの上には私のリュック。

 窓からは柔らかな日差しが差し込み、鳥のさえずりが心地いい。

 外の景色をのぞくと――そこには、日本ではない緑が多めの街並みが広がっていた。


 ………………。

 ………あっ?


 ここ、エルヴィスさんの家だよね? てことは――寝落ちした!?

 いや、ちょっと待って。

 と言うことは、つまり昨日の出来事は夢じゃなくて


 リ・ア・ル!?


「オーマイガ〜!!!」


 思わず頭を抱えて絶叫する。


 本当は昨日の時点で薄々気づいてた。けど、夢だって思い込みたかったんだ。

 異世界転生なんてありえない。

 頑なな現実逃避――

 元中二病でも世の中の断りを学んだアラサーOLにもなれば、二次元と現実の境界線は引けているつもりだった。いくら強く願っても、お百度参りしても、ファンタジーは所詮絵空事。

 なのになのに

 今さら何この展開!? 遅いよ!!

 そりゃぁオタクだからやったぜという気持ちが多少あっても、これからの不安の方が大きかった。

 


「穂香、どうした?」


 バァン! と勢いよくドアが開き、エルヴィスさんが入ってきた。

 私の絶叫がただ事じゃないと思ったらしい。

 顔を見た瞬間、なんでだろう? 安心して少し我に返る。


 これはもう現実として、受け入れるしかないんだよね? 

 

「す、すみません。寝ぼけてました」

「そうか。ここはお前の部屋になる。昨日、リビングのソファで寝ていたお前をクレアが運んだそうだ。後で礼を言うんだぞ」

「もちろんです」


 お互い、ちょっと勘違いしてるけど……まぁ、助かった。


 クレアさん、力持ちだな……


 心の中でツッコみを入れる。





「旦那様、穂香さん、おはようございます」

「クレア、おはよう」

「おはようございます。昨日は運んでいただき、ありがとうございました」

「いえいえ。浮遊魔術でお運びしましたので、大丈夫です」


 ――力持ちではなく、魔術でしたか。納得。


 リビングに行くと、クレアさんが朝食を準備していた。

 漂う香りがなんだか懐かしくて、お腹が一気に鳴る。

 テーブルの上には……焼き魚、味噌汁、白いご飯っぽいもの。


「え、和食!? ファンタジー世界に和食!?」


 戸惑っていると


 グ〜〜……。


 私とエルヴィスさん、まさかのハーモニー。

 つい顔を見合わせハニカムと、クレアさんの表情がピシッと引き締まった。


「旦那様、また調べ物に夢中になって夕食を抜かれたのですね?」


 きつめの一言に、エルヴィスさんはしゅんと肩を落とす。


「それは……歴代のメシアについて調べていたら、つい……」


 ――え、私のために?


「それなら仕方ありませんね」


 クレアさんの表情が一転して穏やかになる。


「すみません、もしかして……」

「気にしないでください。旦那様は夢中になると、すぐ食事も睡眠も忘れてしまうんです。そのせいで人相が悪くなったのですよ。おまけに仕事が恋人だから、女の影はこの数年ゼロ。幼い頃は絶世の美少年で性格も爽やかだったので、モテていたのにもったいない」

「う、うるさい。余計なことを言うな」


 ……貴重な情報、ゲットしました。


 怒ってるのに全然怖くないエルヴィスさん。

 むしろちょっと可愛い。


 どうやらクレアさんは、エルヴィスさんの幼少期から仕えているらしい。

 つまり彼は名家の出身……三男坊とか?

 あとで子どもの頃の写真、絶対見せてもらおう。


「クレアさん、この食事って普通なんですか?」

「はい。旦那様の好みで、朝はいつもこうなんです」

「私の国の“和食”と似てるので、ありがたいです」


 そう言って、自分の席だと思うとこに着く。そこだけ食器がお客用に感じた。

 炊きたてご飯の香りに、理性が崩壊寸前。


「そうなのか。それは良かった。では、食べよう」

「ですね」


 二人も席につく。



 ――いただきます


 食事の前に日本の習慣を教えたら、二人とも目を丸くして、それから嬉しそうに真似をする。



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