27話 危ない橋は渡らない
「──あれ、ケインさん?」
「あら、ほんとね。ケイン〜くん?」
裏路地から出てきたケインさんを見つけた。マミア様が何気なく呼びかける。
するとケインさんは、びくんっと肩を跳ね上げ、そのまま固まりぎこちなく振り向く。
ほんの一瞬、 “なんでここに!?” という顔をしたけれど、すぐにあの営業スマイルでごまかしてくる。
「これはこれは、穂香さんにエルのお姉さま方。お出掛けですか? 穂香さん、元気そうで何よりです」
「あ、はい。おかげさまで」
口調もあからさまに怪しい。
でも心配してくれたたのには感謝しお辞儀をする。
「ケインくん? 何を隠してるのかな? 下手に隠したら、お姉さん、口が軽いからね。彼女さんにぜ〜んぶ話しちゃうかも?」
「そうそう。ケインくんには“たくさん”彼女がいるんだものね?」
私にも分かるのだから二人にもモロバレで、にこにこと微笑み殺し文句が炸裂。ケインさんはみるみる青ざめていく。
本命がいるのに、たくさんの彼女……。
うん、最低だな。
「……分かりました。でも極秘なので。リーサ姉にだけ話します。こちらへ」
「はいはい。じゃあちょっと聞いてくるわね」
観念してもよほどのことなのか、リーサさんだけ呼び寄せ耳打ち。
極秘だったら少なくても私には関係ない。ううん関わったことで大事件に巻き込まれたら、たまったものじゃない。
一般人の私は、なにもしないで暮らすのが一番。
「あとからリーサ“こっそり”聞いちゃいましょうか?」
「私は結構です。これ以上危険を冒したくありません」
思ってるそばから自分から突っ込む気満々のマミア様に、私は首を横に大きく降りきっぱり断った。
「それもそうね。そんなことしたらエルに怒られるわね」
潔く身を引いてくれ、ホッとする。
そうです。またエルヴィスさんに迷惑をかけます。
──が。
「それが本当なら……彼女は……!」
リーサさんが急に声を上げた。その鋭さに私もビクッとする。
「リーサ姉、落ち着いて。まだ調査中なので、くれぐれも内密に」
「ご、ごめんなさい。じゃあ私の方でも調べてみるわ」
我に返ったリーサさんが戻ってきて、ケインさんは早足で反対方向へ消えていった。
「リーサ?」
「二人とも、落ち着いて聞いて。この近くに“呪詛をばらまく術師”が潜伏してるらしいの。急いで帰りましょう」
「!? はい、分かりました!」
まさかの緊急事態。
極秘どころじゃないじゃん……!
でも真相なんてやっぱり知りたくないし、知ったら絶対巻き込まれるに決まってる。だから私は素直に頷くことに。
安全第一。
無能は無能なりに、大人しく生きるのが大正解。
「……やっぱり、そういうことなのね。私、ちょっと心当たりがあるから、ケインくんと話してくる。──リーサ、穂香ちゃんお願い。家なら安全だから」
マミア様は何かを察した顔になり、ケインさんの後を追っていってしまう。
伯爵家まで絡んでるの……?
いや、やっぱり知らない方がいい……!
「もう、お姉さまったら。私だって教団に戻って色々調べたいのに」
「あ、私なら一人で帰れますよ? 大通りだけ通れば──」
「ダメよ! そんなことしたらエルちゃんに怒られるわ。私が責任をもって送り届けるから」
ですよね。却下ですよね。
私はそっと口をつぐむ。
結局どこへ行っても、迷惑を掛けてしまう。
呪詛とか闇落ちとかじゃなくても、足手まといでしかない私に嫌気がさす。
「ありがとうございます。……どうしたら魔術を使いこなせるようになるんでしょうね?」
小さく弱音が漏れた。
「正直、分からないわ。異世界人だから……かもしれない」
「だとしたら、メシアも最初は使えなかったんでしょうか?」
さっきの件があったため、周囲に最大限の警戒をし、小声で会話をする。
「どうかしらね。でもその辺はもうエルちゃんが調べてると思うわ。帰ったら聞いてみたら?」
──最後はエルヴィスさんに頼るしかないんですね?




