25話 浄化の儀式
「お姉さま、ありがとう。あとは私に任せて」
「ええ。下で待ってるわね。穂香ちゃん、リーサに任せておけば何も心配ないからね」
「はい、ありがとうございます。リーサさん、よろしくお願いします」
マミア様は私をリーサさんに託すと、そう言って部屋から去っていった。
私はマミア様の浮遊魔術で、自室まで連れてきてもらった。
そう言えば、そんな魔術ありましたね?
すっかり忘れていました。
だったらなんでエルヴィスさんはそれを使わなかったの!!
心の中で叫んだのは、言うまでもない。
そして自室に入った瞬間、そこは私の部屋じゃなかった。
天井には、きらきらした金銀の装飾の吊るし飾り。
床とベッドには、白いシーツのような布が敷かれ、あちこちに火のついていないロウソクが置いてある。
テーブルの上には、ベル。
リーサさんも白装束っぽい衣に、白いレースのローブという完全儀式仕様。
さらに独特の香りが、ほんのりと漂っている。
「穂香ちゃんは横になっているだけでいいからね。それと一つ確認なんだけど――穂香ちゃんの加護って、“ラッキーガール”だったりする?」
「はい」
指示通り横になろうとしたところで、まさかの直球で言い当てられる。
相手がリーサさんだから疑いもなく頷きはしたものの……そんなに分かりやすい加護だった?
「やっぱりね。エルちゃんも知ってるの?」
「はい。あの……ラッキーガールってどんな加護なんですか?」
ステータスカードを見せ合った。なんて言ったら、話がややこしくなるので黙っておこう。
最近になってこれは気軽に見せたらいけないことだって自覚した。信頼を得るため見せて良いのは、大まかなに記入してある身分証明証だけ。色でおおよそのことは分かるらしい。
「文字通り“運が良い”のはデフォルトね。それと、自分の呪詛を他人に感染させない。一度受けた呪詛は免疫が出来る。+とα付きだったらもっとすごい効果があるんだけど。だから聖職者には“ラッキーガール”の加護がないとなれないの」
簡潔でわかりやすい説明に、やたらに感心してしまう。
今まで“運がいい”だけだと思っていたから、これには驚きである。
貴重じゃなくても、とても重要な加護。
つまりリーサさんもラッキーガールなんだ。
「穂香ちゃん、聖職者にならない? あなたには素質があると思うの」
「ありがとうございます。でも……残念ながら私は魔術が使いこなせないんです」
魅力的なスカウトに心が躍る。
しかもなかなかの本気が伝わってきたから、予め“致命的な欠点”を正直に告げておく。
後で「実は魔術が使えません」なんてなったら、恥をかくのは私じゃなくてリーサさんだ。
自立するにはいいきっかけにはなるから、それでも正直チャレンジはしてみたい。
「それなら魔術が使えるようになったら、真剣に考えてくれない? 聖職者になるにはます候補生からけど。詳しい資料は後で持ってくるから」
「はい、わかりました。絶対安静が解けたら、しっかり調べてみます」
真剣なスカウトは続くから、私もちゃんと考え決めることにした。
まずは怪我を治してから。
学園の図書室にはたくさん書物が保管されているから、何か手がかりになるもものがあるはず。
幸い私にはこの世界のあらゆる文字が読めるから、海外だろうが古文書だろうがなんでもこい。
そう言えばエルヴィスさんも調べるって言ってたけれど、結局どうなっているんだろう?
「ありがとう。なら、始めましょうか?」
「はい」
いよいよ本番。
次の瞬間、部屋中のロウソクが一斉に灯り、風のないはずの炎がゆらゆらと揺れる。吊るし飾りまでもが、まるで命を宿したように揺らめく。
香りも徐々に濃くなっていって、幻想的で不思議な雰囲気だった。
「目を閉じて、力を抜いて。寝ちゃっても大丈夫よ」
――“リラックス”って言われると、逆に緊張してしまう。
これは、私だけなんだろうか?
そう思っていると、耳に届いたのは生で聞いたことのない“天使の歌声”。
聖歌のような旋律がふわりと降りてきて、耳障りが心地良い。
汚れた何かが泡になって消えていくようで、体も軽くなりすべてが洗礼され癒やしてくれる。
ここは天国かもしれない
チリーン
聖歌が終わると同時に、透き通ったベルの音が鳴り響く。
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