24話 長女と次女
「穂香ちゃん、本当にごめんなさいね。うちの愚妹が無神経でお馬鹿なことを言ってしまって」
「あ、はい。もう気にしてません」
お説教を終えたらしいマミア様が一人で戻ってくるなり、勢いよく頭を下げ土下座をしてきた。
エルヴィスさんが言われたとおり気にしていない――と言いつつ、今思えばなぜ真に受けあんなに落ち込んだんだろう? 呪詛の影響だとは言え、ちょっと恥ずかしい。
「うん、気にしなくていいから。ところでエルは?」
「出勤しました」
やっぱり気付かれてるみたいで、マミア様は納得顔。
そしてあたりをキョロキョロ見まわし、いないと分かると少し残念そう。
出掛ける時に声をかければ……お説教中だったから無理か。
「そういえば、ローズちゃんは?」
「もちろん説教をした後、帰らせたわ。まぁ、何も学ばないとは思うけど。まったく」
リーサさんと同時に深いため息。
本当に苦労しているのが伝わってくる。子供時代のローズさんが目に浮かんで、思わず苦笑してしまった。
もしかして大切に育てられたと言われるエルヴィスさんも、彼女に振り回されていたのかもしれない。
「エルちゃん、いつにもなくカンカンだったよ。ケインくんに頼んで、最果ての地へ飛ばすって」
「まぁ、そうなるわね? あの子、今回の件で相当ご立腹だもの。絶縁されなくて本当に良かったわ」
そう軽く言うけれど、後半マミア様の瞳の奥がマジで怯えていた。
ブラコン末期にそんなこと言ったら、冗談抜きで自害しそうで怖い。
原因は私だから申し訳ないけれど、そんなこと言ったら“違う”と言われるんだよね。どう考えても私が悪いのに。
それにしても、エルヴィスさんがご立腹というのは――まぁ、生徒に被害が出たら大問題だもんね。
教師として当然のこと。
「それ、うちの教団にも調査依頼が来てたわ。新種の呪詛の可能性があるらしい。だから穂香ちゃんの浄化も慎重にって思っていたんだけれど……だいぶ軽減されているみたいだから、すぐに完全浄化できると思うわ」
「そこはエルの熱心な看病が実を結んだのよ」
「えっ、その……」
忘れたいのに、鮮明に蘇る昨夜の記憶。
あれは思い出すだけで心臓に悪い。
「その反応、ひょっとしてキスでもしてもらった?」
「し、してません!!」
「じゃぁ……抱きしめあって寝たとか?」
「!!」
今日は墓穴を掘らないよう気を付けてたのに、言い当てられてしまいもろに動揺してしまった。
もしかして抱きしめてもらってたのは私が寝るまでで、それからは添い寝に戻ったのかもしれない。
でもでも
騒ぎの後、フッと目が覚めた時、まだエルヴィスさんは抱きしめてくれていた。それが妙に安心出来て、エルヴィスさんに身をゆだね目を閉じて寝た気がする。
私の妄想の夢だったと言われたら、そうなのかも?
ううん。そうあってほしい。
「なんでそれで終わってるのよ?」
「なんでと言われましても……昨夜のエルヴィスさんは先生で、私は患者です」
この人はいったい何を期待してるんですか?
その意味を絶対に分かりたくありません。
ある程度こうなることは覚悟はしてたから、すごく恥ずかしいけど想定のうち。そんな気持ちで受け止められる。
今まであった後ろ向きになって、沈んだ気持ちにはならない。
呪詛が軽減されているから?
「お姉さま、そういうことはデリケートな問題なの。私達は聞かれたことだけ答えて、温かく見守りましょう」
「……そうよね。ごめんなさい」
リーサさんのおかげでマミア様がハッとして、この件は即座に終了。
温かく見守ってくれるのは嬉しかったりするんだけど、それはそれでプレッシャーなんですが……。
思わず、怖いもの見たさで聞いてみる。
「大好きな弟を……私なんかに取られてもいいんですか?(ないと思いますが)」
『もちろん。喜んで差し上げます!!』
二人そろって満面の笑みで、了承されてしまった。
え、いいんですか!?
何もかもが優秀で、才能あふれる弟ですよ!?
魅力も知能も魔術の才能もなにもないごくごく一般人。いやむしろ劣っている女に差し上げても?
そもそも姉たちが良くても、本人は嫌がるでしょ?
衝撃でキョドる私を放置して、
「リーサ、さっさと浄化してショッピングに出掛けるわよ」
「了解。用意してくるから、ちょっと待っててね。クレア、穂香ちゃんの部屋ってどこ?」
「はい、案内します」
クレアさんまで出て来て、今日の予定がスムーズに決まっていくのだった。
あれ、私外出禁止じゃなかったっけ?




