23話 破天荒な三女
「改めて紹介する。こちらが聖職者の次女リーサ。こっちが冒険者の三女、ローズマリーだ」
『よろしく』
「エルヴィスさんには大変お世話になっております。藤原 穂香です。よろしくお願いします」
朝食中、ようやく二人のお姉さんを正式に紹介してもらえた。
私もつられて礼儀正しく名乗る。
……最初の印象が最悪だったから、少しでも名誉挽回したい。エルヴィスさんのお姉さんとなればなおさら、ちゃんとしたところを見せておかなければ。
しかしこうやって見ると、三姉妹そろって美人すぎる。エルヴィスさんがイケメンなのも納得。……ご両親はきっと美男美女なんだろうな。見てみたいかも。
「あんた、本当に異世界人なのか?」
『え?』
「あんたからは一切特別なオーラを感じられない。……まさかエルを騙してるんじゃないだろうな?」
いきなり何を言い出すかとびくついていたら、私にも分かる程の矛盾でしかない問い。脳内に巨大なクエッションマーク。
そんなオーラがないの私が、エルヴィスさんを騙せるはずがない。
なのにローズさんは、つまようじを咥えたまま、してやったりの顔をしている。
「それはつまり、俺に見る目がないと?」
「うっ……確かにエルの見る目は最強だった……。じゃぁ色仕掛けにノックアウトさせたとか?」
完全に冷め切ったエルヴィスさんの一言で、ローズさんはようやく矛盾に気づいたのか、頭を抱えている。そして苦し紛れにまだ言う。
“色仕掛け”?
美女でナイスバディだったらありえるかもだけど、私にはどっちもない。
余計にありえない。
……本当にこの人、なんなの?
さっきから何もないところに自ら火種をばらまいて、着火からの大爆破。
天然?
それともそうじゃなく、すべて計算済み?
……ルル先生みたいに、私が気に入らないからわざと言っている? だとしたら、面と向かって言ってくれたほうが……いや、今の精神状態じゃ無理。
息がまた苦しくなり、気持ちが沈みそうになる。
「穂香ちゃん、大丈夫。ローズちゃんは思ったことをそのまま口にしてるだけ。あなたが嫌いとか、そういうのじゃないのよ」
リーサさんが私の手をそっと握り、温かな魔力のようなものが流れ込んでくる。
沈んでいた気持ちが、ふっと軽くなる。
……あれ。なんであれくらいで落ち込んでたんだろう?
そのぐらいの復活した。
「本当に悪かった。ただ、格好つけてみたかっただけなんだ……そうだよな、あんたは呪詛で弱っているんだった」
謝罪の言葉は真剣なんだけど、理由が軽すぎて熱量がまったく伝わってこない。
軽々しく許してはいけない気がする。
「ローズちゃん、こっちでお姉ちゃんとお話ししましょうか?」
「げ、姉貴がどうして?」
どこからともなく、怒りの笑みを浮かべたマミア様が現れる。
ローズさんの顔が一瞬で青ざめ、私もびっくりした。
隣には朝食の席にはいなかったクレアさんがいる。
内密にマミア様を出迎えた?
「エルから連絡があったの。ローズが来たって。さぁ、向こうでゆっくり話しましょ?」
「ひぃぃーっ! リーサ姉、エル、助けろ――」
「こればっかりは無理ね」
「自業自得だ」
二人の助け舟は容赦なく却下。ローズさんはマミア様に片耳を掴まれたまま、連行されて部屋を出て行った。
「穂香、ローズ姉上の言うことは真に受けるな。あれは……人の皮を被った悪魔だ」
「言いすぎよ。でもまぁ、猛獣に近いかもね」
二人ともさらりと酷いことを言いながら、何事もなかったかのように朝食を再開する。
私はぽかーんと口を開け、二人を見つめてしまった。
悪い人ではないと思う。
むしろ、頼りがいがあって裏表がない良い人なんだろうけれど、破天荒すぎて馴れるまで大変だな。
エルヴィスさんのお姉さんだから、何かと関わることになるんだよね?
そう思うと鬱だ。
良くこの二ヶ月近く、何ごともなく平和に過ごせたな。
「穂香さん、私もいますので安心してください。何か言われたら、すぐに追い出しますから」
「それがいい。そしてまたケインに頼んで、しばらくラークに戻れない過酷な依頼を回すよう手配しておき」
クレアさんは頼もしくて、ありがたいけれど――
エルヴィスさんの事実上追放計画が怖かった。
台詞からして、同じような計画が過去にも実行されたっぽい。
ケインさんも大変だな。




