表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/45

21話 呪詛という物

 気持ちの浮き沈みが激しいのは呪詛の影響——だから気にしないこと。

 どうしても心が沈んで闇に落ちそうになったら、私かエルヴィスに言いなさい。浄化してあげるから。


 そう言ってマミア様は、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 その瞬間、沈んでいた気持ちがふっと浮上して、気分が楽になっていくのが分かった。


 ウォーカー家は代々、浄化の力の加護を持っているという。そう言えばエルヴィスも持っていた。


「まさか浄化って、抱きしめるのが必須なんですか?」

「ええ、そうよ。この機会にエルにギュッと——いえ、むしろ添い寝をしてもらいなさい」

「む、無理です!」


 からかっているとしか思えないほど軽いノリで、マミア様は次々と無理難題を押しつけてくる。もはや定番のやり取りだ。


「でも私はエルが帰ってきたら帰らないといけないし、明日だって来られるのは午後。その時は聖職者の次女リーサを連れてくるわね。 完全に浄化してくれるわ」


 さっきまで「看病すると言って聞かない」空気だったはずなのに、鮮やかな手のひら返しである。

 忙しい中で無理して来ているわけではなく、完全に楽しんでいる表情だ。


「だったら……我慢します」


 一晩と半日なら気合でなんとかなる。

 ここで負けてたまるか。


「呪詛は夜が一番辛いのよ? 本当に大丈夫?」


 待ってましたと言わんばかりの意地悪な一言に、泣きそうになった。





「添い寝をする。に決まってるだろう?」


 エルヴィスさんが帰宅し、マミア様が事情を説明すると、彼の第一声はそれだった。

 しかも真顔のまま。

 その意味を理解しているんですか? と、問い詰めたい。


「む、無理です……!」

「呪詛を甘く見るな。何かあったらどうする」


 抵抗した途端、真っ向から叱られてしまい、しゅんとなる。


 確かに何かあったら困るのは私で、これ以上の迷惑をかけたくない。……でも添い寝だって十分迷惑をかけることになる。

 どっちにしても今以上に迷惑をかけることになるんだ。

 また気持ちが沈みかけて、闇に堕ちそうになるけれど、


「大丈夫だから。なにも心配するな」


 静かに、深く、揺るぎのない声。

 エルヴィスさんに抱きしめられ、闇へと引きずり込まれそうな心をぎりぎりで踏みとどまった。


 あれ?

 鼓動は爆発寸前なのに、苦しくない。むしろ心地よい。

 このままでいたい——そう思ってしまう。


「それじゃぁ、私は帰るわね。おやすみなさーい」


 何かを察し、にやにやと笑いながら、マミア様は手を振って部屋から出て行く。


 明日確実に根掘り葉掘り聞かれるだろう。



「もう大丈夫です」

「駄目だ。俺は姉上より能力が劣る。もう少し時間が必要だ」


 回復したかと思ったのに、エルヴィスさんは離してくれない。


 マミア様より効果抜群だと思うんだけど……気のせい?


 そう思いつつも、離れたくない気持ちが勝ってしまう。


「わかりました。終わったら言ってくださいね」

「ああ」


 幸福感に包まれながら目を閉じる。

 永遠にこの温もりが続けばいいななんて思っていたら、いつの間にか眠っていた。




 怖い夢を見た。


 平凡で幸せな日常が一瞬で崩れ、世界は闇に沈み、自分だけが取り残される。

 どれだけ呼んでも誰も来ない。寒くて、苦しくて。

 やがて化物たちが集まってきて、私を「悪魔」と呼び、追いかけ回され——。


「のか、穂香!」

「っ……エルヴィスさん……」


 目を覚ますと、心配で声の震えるエルヴィスさんが覗き込んでいた。

 普段の落ち着いた彼らしくない、不安の揺れを含んだ声音。


 夢?

 あれは全部夢で、今が現実?


「みんながいなくなって……独りぼっちになって……追いかけ回されて……」


 言葉にした途端、恐怖が蘇り、涙が止まらなくなった。


 これが呪詛の影響?

 だとしたら到底気合いで乗り切るなんて無理。

 エルヴィスさんの判断は正解だった。


「安心しろ。何があっても、俺はお前の傍にいる。護ってやる」

「……絶対ですよ」

「ああ、約束だ」


 闇に飲まれないようにと、迷いなく言われた言葉。

 それが心強くて嬉しくて、でも怖くて、悲しくて——

 感情がごちゃごちゃになった私は、エルヴィスさんにしがみつく。子供のように声をあげて泣いて、弱音もたくさん吐いてしまった。

 彼はそんな私を拒むことなく、強く優しく抱きしめてくれ、すべてを受け止めてくれた。

 その間、胸の鼓動は穏やかで、優しい音色。少しも乱れていなかった。


 やっぱり私のことなど女性として、見てくれてないんだね。しかもきっと今夜の私は、ただの患者にすぎない。


 例えその言葉が偽りであっても嬉しかった。


「ありがとうございます……」


 心が落ちついた私はそう呟き、エルヴィスさんの腕の中で再び目を閉じる。

 恥ずかしくって寝られないと思っていたけれど、心安らかになる音と大好きな匂いに囲まれて眠れそう。


 私にとってもこのエルヴィスさんは、呪詛を浄化してくれる人だから?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ