表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/45

20話 ここにいたい理由

「穂香ちゃんは、元の世界に帰りたい?」

「え、考えたことなかったです」


 いきなりのマミア様の問いに、何も考えず答えてしまった。

 かなりアホな返答だと思う。

案の定、マミア様はぽかんとした顔でフリーズする。


 まだ体の痛みは残っているものの、身を起こせるくらいには回復した昼下がり。

 暇を持て余して窓から見える風景をボーと見ているところに、マミア様がケーキを持って看病にやって来たのだ。


 天下の次期伯爵に看病される筋合いなんてないと拒否したのに、

 「怪我の原因は自分の責任」と押し切られ、結局負けて今に至る。


「元の世界に恋人はいないの? 家族は? 友人は? 仕事は?」


 我に返った途端、当然の問いが次々と飛んでくる。


 言われてみれば、仕事はともかく、家族と友人は――。

……私が突然いなくなったら心配するよね。

 今ごろ、実家では大騒ぎだろう。心配してなかったら泣く。


「……でもエルヴィスさんと別れ……あっ!!」


 つい本音が口から漏れ、慌てて塞ぐ。


 ……遅かった。

 マミア様はニヤリと笑う。


 あ、完全にバレた。


「なるほど。穂香ちゃんは、エルが好きなのね」

「す、好きは好きでも! 今の関係のままでいいんです! 恋人になりたいとか、それ以上の関係なんて望んでません!」


 必死で誤解しないようと釈明するも、心臓の音は高鳴って爆発しそう。 

 全身も熱くなって、傷の痛みどころじゃない。


 でも――これは本心だ。


 好きにならないように気をつけていたのに、結局好きになってしまった。

 昨日、ほとんど意識がなかった時に現れたエルヴィスさんは、完全に白馬の王子さまに見えた。もう、あれでとどめ。


 ……でも言葉通り今の関係が続けばいいと思っている。

 

 同じ屋根の下で暮らして、一日の大半を一緒に過ごして、たまにへべれけになるまで大宴会。

 それだけでも、私には十分すぎるほどの幸せ。

 だから――これ以上を望んじゃいけない。

 だって相手はあんな超エリートのエルヴィスさんが、私なんかを選ぶはずないから。

 告白して振られて関係が壊れるくらいなら、今のままでいい。


「穂香ちゃんって、初々しいのね。私なんて、好きになったら一直線よ? 今の旦那は民衆だったの。しかも当時は私に許嫁がいてね。速攻で破談にしてもらって、そこから毎日アタックよ。何度フラれたかわからないわ。それでも諦めなかった。だって愛してたから」


 自分の恋愛武勇伝を、懐かしむように語るマミア様。

 自信家らしいエピソードだけど、不思議ととても美しい。


 夕陽のせいか、マミア様がまるで女神さまのように輝いて見える。

 凛として聡明で、強くて、美しい。

 私にはないものばかりでうらや……でもそれは努力の結果なんだろう。


「私もマミア様みたいになりたいです。凛々しくて聡明な女性に……そしたら、エルヴィスさんにほんの少しだけ近づけると思うんです」


 後ろ向きになっていた自分が嫌で、両頬を叩き、気合を入れ直す。 


 本当の私はもっと前向きのはずなんだ。張り切り過ぎて裏目に出るぐらい。

 ウンそんな私に早く戻らないと。


「うん。努力するのは素敵よ。でも今は怪我を治すのが先決ね」

「た、たしかに……」


 ごもっともすぎて言い返せない。


 私は今、重体患者。

 鏡を見れば顔はともかく、体は包帯まみれ。

 足の骨折で歩くことすらできない。


 うっ……見てたらまた心が沈みそう。

 私、ルル先生に文字通りにコテンパにやられたんだ。

 

「……ルル先生は、エルヴィスさんとどこにデートに行くんですかね?」


 聞きたくないのに、聞いてしまった。

 今の関係で満足してる……はずなのに、胸がぎゅっと痛くなる。


「ルルちゃんは重大な違反を犯して、今は拘束されてるわ」

「重大な違反……?」

「ええ。規定以上の魔術を使用したの。殺傷能力のある魔術をね。生徒ならまだしも教師にとってはあるまじきことだわ」


 マミア様の表情が急に厳しくなる。

 言われて、ようやく理解が追いついた。


 ――つまりルル先生は私を、本気で殺そうとしてた。


「私……そんなにルル先生から憎まれてたんだ……」


 とてつもない恐怖を感じた。


 嫉妬なんて、私とは無縁だと思っていた。

 ……あんな嫉妬で狙われるなんて。


「穂香ちゃん、人を好きになるって、そういうことなの。時には他人との奪い合って手に入れることもあるのよ」

「…………」


 言いたいことはわかる。でも、私には到底無理だ。

 どう努力しても、私は普通の人でしかない。


 暖かいはずの部屋が、ひどく寒く感じる。

 身体の震えは、どんどん強くなり――

 前向きな元の私に戻るって決めたばかりなのに、心がいうことを聞いてくれない。

それどころかどんどん沼に沈んでいって、暗闇に飲み込まれそうになっている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ