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19話 問題児たちは後悔中!!

 いつもなら廊下まで響きわたる騒ぎ声が今日は一切聞こえない。教室の前まで来ても、まったく物音がしないことにエルヴィスは違和感を覚え、最大限の警戒をしつつ扉を開けた。

 しかし、そこに広がっていたのは、生徒全員がうつむき、重い空気に沈んだ“お通夜”のような教室だった。


 ――おかしい。

 どう考えてもおかしい。

 このクラスで、こんな光景は一度として見たことがない。


 罠か……?


 思考を巡らせたそのとき。


「エルヴィス、姐さんは無事なのか?」

「……は?」


 アーロンが泣き出しそうな顔でエルヴィスを見上げた。続いて、他の生徒たちも一斉に視線を向ける。

 教師の心配など欠片もしなかった問題児たちが、そろって穂香の容体を気にしている――予想外すぎて、エルヴィスの思考が一瞬止まった。


「『は?』じゃないでしょ! みんな穂香をすっごく心配してるのよ!」

「そうだぞ! 穂香がルルに負けて重体だって聞かされたんだ!」

「魔術が満足に使えねぇ姐さんに、どうしてアイツは決闘なんて仕掛けたんだよ。放課後、マミア様に預けて遊びに行ったのが間違いだった……」

「いや、それを言うなら全員そうだ。面倒くさがらず格技場に行っていたら、穂香を護れたかもしれかった!」


 生徒たちは後悔と怒りにまみれ、互いに責めあいながらも悔しさをにじませた。

 穂香はこのクラスにとって、教師よりも“仲間”だったのだ。

 その姿を見て、エルヴィスの胸は強く痛んだ。


 違う……。悔やむのはおまえたちじゃない。すべては俺が判断を誤ったせいだ。


 俺がいつも通り傍にいれば。

 姉上に、予め事情を話していたら。

 ルルのストーカー紛いの行動を甘く見ず、早くに辞めさせておけば。


 ――穂香が傷つくことは、なかった。


「安心しろ。家で元気にしてる。見舞いに行きたいなら……明後日以降にしろ」

「行っていいのかよ? 姐さん、おまえん家に居候してんだろ?」

「構わん。穂香も喜ぶはずだ」


 らしくない提案に、生徒たちは目を丸くした。だが本気だとわかると、安堵の笑顔が広がり、一気に教室の空気が明るくなる。



 そのあとは授業そっちのけで、穂香への差し入れやお見舞いプランで盛り上がった。

 普段なら怒鳴りつけるエルヴィスだが、今日は黙って席に腰を下ろし、生徒たちの声に耳を傾けるだけだった。


 ……俺も何か穂香が喜びそうな差し入れをしよう。


 穂香の笑顔を想像しただけで自然と口元が緩んだ、その瞬間。


「エルヴィスが……笑ってる?」

『……っ!?!?』


 シャインがいち早く気づき、叫んだ。そして全員が一斉に振り向き――


 生徒VS教師の、いつもの仁義なき戦いが始まった。





「学園長。どうして俺に、彼女の取り調べをさせてくださらないのですか」

「今のお主は冷静さを欠いておる。加害者に手を出しかねん」

「……否定できません」


 取り調べの許可は下りないことに痺れを切らし直談判したものの、学園長の言葉は核心を突いており反論の余地がなかった。


 本当のところ、エルヴィスには“自制できる自信”がなかった。


「お主の気持ちはよく分かる。呪詛が仕組まれていたことを見抜けんかったわしにも、責任はある」


 学園長もまた深く眉を寄せた。

 千里眼でも見抜けなかった――そんな異常は初めてだ。


 衰え、というだけでは済まされぬ……。

 もしや、もっと強大な“負の力”が動いているのでは……。

 それはつまり――

 メシアと護りし戦士にしか解決できない何か。

だとすれば、メシア召還の日は近い?


 本来なら最も信頼できるエルヴィスに詳しい調査を任せるべきだが、今の彼には“状況を知らせるべきではない”。


「学園長。……なにか俺に隠していませんか?」

「隠し事などない。すべてはわしに任せよ。何かあればすぐに知らせる」


 平静を装い返したが、内心はひやりとしていた。

 エルヴィスの鋭い勘は、疑念を深めるばかりだった。


「お主は彼女のことだけを考えてやれ」


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